23 / 196
23:解せない。
しおりを挟む王城庭園で殿下をぶった斬っていましたら、殿下が執務の時間になったとか言いだして、慌ただしく去って行きました。
……私の唇を奪い、口腔内をねちょねちょに舐め回すというおまけ付きで。
「っ、はぁはぁ……」
「まぁまぁ! 殿下ったら。甘々で羨ましいですわぁ」
「……は?」
いそいそと近付いてきた侍女のリジーが何かいたらぬ妄想を繰り広げて、口元をダルッダルに緩ませてニヤニヤしていました。
――――これは無視でいいわよね?
「お嬢! 流石に王族を殴ったら駄目ですって」
「……解ってるわよ」
「いやいや、あの拳の握り方は明らかに本気でしたよ!」
結局殴らなかったんだから別に良いじゃない。
それより、よ!
「私、タウンハウスに帰るわ」
「「え⁉」」
なぜかロブとリジーが驚愕の表情を浮かべていました。
「なによ?」
「えっと――――」
ロブいわく、私は今日から王城に住むことになっている。私の荷物はすでに王城に届けられている。私はセオドリック殿下の通訳者として――――。
「婚約者です」
「煩いわね」
通訳者として! 殿下の隣の部屋に……え? はぁぁ⁉ 隣の部屋に住むことになっているぅぅぅ?
「はい! ミラベル様のお荷物は全て運び終わっています。お部屋の装飾は殿下が色々と悩みながら何年もかけて決められていましたよ。うふふ、愛されていて羨ましいですわぁ!」
リジーがキラキラとした顔でとんでもない爆弾を落としてくれました。
あの殿下が、色々と、悩みながら、何年もかけて、部屋を装飾した⁉
「いえ、装飾したのは業者ですが……」
「あの殿下よ⁉ あの! どんなトンデモな部屋なのよ!」
「えっ……普通に可愛らしい部屋ですよ?」
仔犬の名前を『狼』にしようとしたり、何年もガントレットを嵌めてたり、黒一色の服ばっかり着ているヤツの美的センスなど信じられませんわ!
「えぇぇ⁉ 聞いた限りでは普通に可愛らしくて、いい部屋っぽかったですよ?」
「リジーはまだしも、ロブまで洗脳されているの⁉」
「ミラベル様ぁ、何気に酷い……」
リジーの嘆きはまるっと無視しました。
王族の居住区に入る段階で、ロブはこれ以上立入禁止と言われてしまいました。
「ロブ、領地に戻っていいわよ」
王族の居住区には決められた使用人と近衛騎士しか入れませんし、今後は護衛には近衛騎士がつけられるのでしょう。
ロブに付き合わせるのも申し訳無いですし、領地に帰りたいだろうからと思い、そう言いました。
「……こちらで控えておきます」
「え? 帰っていいわよ?」
「こちらに、控えておきます!」
「えぇ? わかったわ……」
何故か軽やかに無視して二回言われましたわ。スタッカート強めで。
「領地に帰りたくないのかしら? 王都が気に入ったとか?」
「ミラベル様は罪作りですねぇ」
殿下の私室の横に作られたという私の部屋に向かいつつリジーと話していましたら、謎な事を言われました。
何故に犯罪者扱いなのよ。
「私は犯罪には手を染めてないわよ」
「もぅ! 色恋の方ですよぉ」
「えっ、ロブ好きな人が出来たの⁉ 貴方達、今日会ったばかりよね⁉」
「…………鈍感ですか!」
リジーに呆れ返ったような顔を向けられてしまいました。何故?
「リジーって今いくつだったかしら?」
「二十八ですわ」
「ロブは若いけど給金も多いし、領内では一二を争うほど腕が立つわ。将来安泰よ!」
大丈夫よ! 二人の恋路を応援するわ! と付け加えたら、リジーの顔が更に呆れ返ったようになり、まるで残念なものでも見るかのような視線を送られました。
――――解せないですわね。
0
あなたにおすすめの小説
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる