厨二病設定てんこ盛りの王子殿下が迫って来ます。 〜異世界に転生したら、厨二病王子の通訳者にされました〜【R18版】

笛路

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73:綺麗にしたい。

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 目が覚めたら、王城の私室にいました。
 ぼんやりと外を眺めて暫くして、船での事を段々と思い出して来ました。

「っ、いやぁぁぁぁ! いや、やめて! きゃぁぁぁぁ!」
「ミラベル⁉」
「お嬢様⁉」

 真っ青なお顔のテオ様と、目の下に濃いクマを作ったザラが、部屋に駆け込んで来ました。
 テオ様が抱きしめようとしてくださったのに、私は何故かテオ様を押し返していました。

「……ミラベル?」
「っ、ごめん、なさい。私…………汚い。ザラ、お風呂、入り、たい」

 少し痛む喉を押さえながら、ザラにお願いしました。
 テオ様のお顔は……見れません。
 怖くて。
 大好きなテオ様が、何故か怖いです。

「体はちゃんと清めてますわ」
「……やだ、汚いの。洗いたい」
「っ、そう、ですわね。お風呂に、入りましょうね?」
「うん」
「ミラベル……?」

 テオ様の寂しそうな声は聞こえていましたが、私はどうしてもお風呂に入りたいので、そちらを優先しました。



 お風呂に入って何度も何度も、体を洗いました。
 何故かザラが止めるけど、汚いからちゃんと洗いたいのです。
 こんな姿でテオ様の前に出たくないんです。

 タオルで擦っても満足できず、一度浴室を出ると、脱衣所の隅に隠されている清掃用具入れの箱を開け、中からブラシをとりだしました。

「お嬢様、それはお止め下さい!」
「いやよ! もっと洗わないと汚いわ!」
「お嬢様っ!」

 ザラが止めるけれど、無視してゴシゴシと腕や足を擦りました。
 痛さなんてわからなくて。
 ただ、汚いから綺麗にしたくて。

 ――――背中も洗わなきゃ。

「ザラ、背中洗って?」
「お嬢様! もう、綺麗ですから! それ以上はおやめください! お嬢様っ!」

 ザラが泣いてしまって、背中を洗ってもらえなくて、イライライライラ。

「いや! 汚いって言ってるでしょ⁉ 私、穢れているんだもん! 早くしてよ!」
「…………ミラ、ベル?」

 力の限り叫んで、ザラを責めていたら、テオ様の声が後ろから聞こえて来ました。
 振り返ると、顔面蒼白のテオ様が立っていて、痛ましいモノを見るような目で私を見ていました。

「っ、いやぁぁぁぁぁ、見ないで! 来ないで!」
 
 嫌だと言ったのに、テオ様は駆け寄って来て、柔らかく抱きしめて、触れるだけの優しいキスをくれました。

 嬉しい。
 怖い。
 温かい。
 汚い。
 もっと。
 嫌。
 気持ちいい。
 気持ち悪い。
 抱きしめて。
 近づかないで。

 頭の中で色んな感情が溢れて、どれが本当の気持ちなのかわからなくなりました。
 テオ様の腕の中で暴れて、その拍子に唇を噛んでしまいました。
 テオ様に怪我をさせるつもりなんてなかったのに。

「っ……」

 テオ様が、私の右頬をそっと包むように撫でてくれました。

「ごめんね。ビックリしたね。もう、お風呂は上がろう? ね?」

 優しく言い聞かせるように、ゆっくりと諭すように、テオ様が言われました。
 でも私の心は頑なで――――。

「まだ汚いの」
「ミラベルは汚れていないよ。綺麗だよ」
「汚い……。テオ様の側に、いられなくなっちゃった。…………ごめんなさい」
「駄目だ。私の側にいると、約束しただろう?」

 テオ様の、側。
 いられるものなら、ずっと側にいたかった。
 ぶんぶんと首を横に振り、テオ様の腕の中から抜け出して、お風呂場の隅に逃げました。
 怖いのか、悲しいのか、寒いのか、体が震えます。カチカチと歯が鳴ります。
 自分で自分が制御出来ません。

 「っ、ごめんね」

 テオ様が囁くようにそう言うと、リジーを呼び、私を手当てするようにと命令して、走るように立ち去られました。

 ――――ほらね、汚いから。触りたくないんだわ。

 自分から拒否したくせに、そんな事を思ってしまいました……。


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