74 / 196
74:何故、何故、何故。 side:セオドリック
しおりを挟む******
恐怖と疲労と、殴られたことによる熱とで、ミラベルは三日間も眠り続けていた。
朝、身支度をし終えて、様子を見に行こうとしていた瞬間、ミラベルの悲痛な叫び声が聞こえて来て、慌てて部屋に駆け込んだ。
ミラベルはベッドの上でガタガタと震え、自身を抱きしめていた。
ミラベルを温めて安心させたくて、抱きしめて愛を伝えたくて、腕を広げて近寄ったら、真っ青な顔で拒絶されてしまった。
「……やだ、汚いの。洗いたい」
「っ、そう、ですわね。お風呂に、入りましょうね?」
「うん」
「ミラベル……?」
ミラベルが風呂に入りたいと言って、ザラと消えて行ってしまった。
ミラベル達が戻るまで。と思い、ソファに座り、目を瞑り天を仰いだ。
今もありありと目に浮かぶ、あの日の光景。
耳から離れない、ミラベルの泣き叫ぶ声。
エゾノイ王国の船を止め、責任者に説明を求めたが、のらりくらりとかわされ、随分と待たされた。
背筋がゾワリとするような嫌な予感がして、側にいた騎士にミラベルの様子を見に行かせたが、戻って来ない。
焦りつつ現場を離れ、部屋に向かう途中で、様子を見に行かせたはずの騎士とザラとリジーの三人が縛られているのを発見した――――。
何故、警備を置かなかった。
何故、部屋の明かりを全て消した。
何故、もっと早く行動しなかった。
何故、ロブに様子を見に行かせなかった。あいつなら、もっと戦えた……。
何故、何故、何故。
自分の失態、後悔、色々なことを考えていた。
風呂場の方から、ザラとミラベルの騒ぐ声が聞こえてきた。
妙な不安に襲われて、中に駆け込むと、ミラベルが肌を真っ赤に染めていた。
「お嬢様! もう、綺麗ですから! それ以上はおやめください! お嬢様!」
「いや! 汚いって言ってるでしょ⁉ 私、穢れているんだもん! 早くしてよ!」
「…………ミラ、ベル?」
「っ、いやぁぁぁぁぁ、見ないで! 来ないで!」
叫ぶミラベルの手には、硬そうな床磨き用のブラシが握られていた。
肌はソレで擦られたのか、出血しているのではないかと思うほどに真っ赤になっている。
嫌がるミラベルを無理矢理抱きしめて、キスをした。
「っ……」
唇を噛まれてしまった。
でも、こんなのは、ミラベルの受けた体と心の痛みに比べたら……。
あの男に殴られた右頬をそっと撫でる。
痛かっただろう。
怖かっただろう。
利き手じゃなかったから、歯まではいかなかったが、口の中は切れていたし、鼻血も出ていた。
目も頬も、誰もが目を背けそうなほどに腫れ上がっている。
「ミラベルは汚れていないよ。綺麗だよ」
「汚い……。テオ様の側に、いられなくなっちゃった。…………ごめんなさい」
「駄目だ。私の側にいると、約束しただろう?」
ミラベルはぶんぶんと首を横に振ると、私の腕の中から逃げ出し、そのまま話さなくなってしまった。
近寄ろうすると、真っ青な顔でビクリと身体を震わせ、歯をカチカチと鳴らしてしまう。
――――っ、ごめんね。
肌には薬を塗るようにと伝えて、ザラとリジーにミラベルを任せた。
私は、やるべき事を思い出したから。
私が、終わらせなければ。
終わらせて、ミラベルを安心させなければ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
急に王妃って言われても…。オジサマが好きなだけだったのに…
satomi
恋愛
オジサマが好きな令嬢、私ミシェル=オートロックスと申します。侯爵家長女です。今回の夜会を逃すと、どこの馬の骨ともわからない男に私の純潔を捧げることに!ならばこの夜会で出会った素敵なオジサマに何としてでも純潔を捧げましょう!…と生まれたのが三つ子。子どもは予定外だったけど、可愛いから良し!
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる