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89:緋扇貝
しおりを挟むテオ様と再び体を繋げることが出来た日から三日後、国王陛下の執務室に呼び出され、先王の妹様は刑が確定し、幽閉されたと言われました。
執務室には、当国の国王陛下、エフセイ王太子殿下、ブラッドフォード王太子殿下、テオ様と私、その他にはそれぞれの腹心と、何故かロブがいます。
皆様が、キラキラとした笑顔で、余罪の追求が楽しみだと仰られているのを見て、何故だか私が逃げたくなりました。
アンジェリカ様については、窃盗の容疑で捕縛後、部屋に軟禁しているとの事です。
エフセイ王太子殿下がエゾノイ王国へと帰られる時に、ついでに連れ帰ると仰っしゃられました。
……ついで、に。
テオ様から伺った内情によると、エフセイ王太子殿下はアンジェリカ様のお母様を強制的に正妃され、幼い頃からの婚約者を妾妃にされてしまったのだそうです。
実の娘に変わりはないと思うのですが、何か根深いものがあるのでしょう。
何故テオ様がそんな事を知っているのかと不思議に思っていましたら、我が国の国王陛下とエゾノイ王国の王太子殿下は、同い年でいらっしゃるのだとか。
幼い頃から仲が良く、そういった相談事を、双方でしあっていたとの事でした。
「全く、うちの陛下の保身欲の強さと求心力の低さには、辟易とするよ」
「まぁ、だが今回で、アレ等もまとめて処分出来るだろう? 良かったな」
「まぁね。そこだけが救いだね」
国王陛下とエフセイ王太子殿下の黒い会話、出来れば聞きたくなかったです。
「さて、それよりも、ミラベル嬢」
急にエフセイ王太子殿下に名前を呼ばれ、ビシッと背筋を正しました。
「いや、そんなに緊張しないでくれると、いいのだけどね?」
今まで黒い会話を聞かせといて、それはない! とか、口が滑っても言えません……。
「君は、緋扇貝が好きなんだって? どんなところが好きなのか、聞いてもいいかい?」
「ええ、とても濃厚な味で肉厚な貝柱と、甘みの強い弾力のある身が好きなんです。やはり一番は浜焼きでしょうか。網の上で口が開くのを待つあの時間が――――」
「外には貝殻しか出していないのに、君は何故、味や食べ方を知っているのかな?」
「っ⁉」
――――え⁉
調子に乗って、食べ方や味を細かく話していましたら、エフセイ王太子殿下に遮られました。
そして、殿下のお言葉で、大きな失態に気付き、冷や汗が背中にぶわりと吹き出しました。
「まあ、セオドリックが下げ渡していただけだろうけどね。一応、販路が無いことにしているんだから、頼むよ? あと、鮮度には気をつけないと、見苦しい感じでお腹壊すからね?」
「ミラベルを苦しませるようなヘマはしません」
「ははは! 本当に、執着しまくりだねぇ」
「だろう? ふはははは!」
何故かテオ様が庇って下さり、皆様は楽しそうに笑っていらっしゃいました。
たぶん、事なきを得たのだと思います。
ですが、私をちらりと見たテオ様の視線が、あまりにも鋭く、『逃さない』と言われているようで、背中を伝う冷や汗は止まることがありませんでした。
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