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92:前世の話。
しおりを挟むテオ様に、異世界転生していた事を伝えましたが、明らかに残念な子を見る目です。
取り敢えず、黙って聞いてくださるようなので、そのまま話を続けます。
「私は、ニホンという国で、普通に……ええっと、平民の学生でした――――」
日本、大学、専攻、何かの病で死んでしまった事。テオ様と出逢ったあの日に、ぽろりぽろりと思い出し始めた事。テオ様の仰る通り、前世も今世もくいしんぼうではあります。
「だから、『魔王』語が理解できた?」
「はい」
「愛の力かと……」
――――愛⁉
そこはせめて、私の読解力と言って欲しかったです。
いえ、まあ、今は『愛の力』も無くはないですが。
といいますか、普通は『語学に堪能なご令嬢』になりません⁉
「ミラベルはいつも適当に返事するし、二人でのお茶の時は、食べ物の話ばかりだったし」
「……テオ様のご友人作りのお話がほとんどでした!」
「ミラベルが乗り気で話すのは、食べ物の話ばかりだっただろう?」
――――うぐぅ。
王城のシェフが、王族専用の材料で作るお菓子ですわよ?
心躍らない訳が無いじゃないですか!
舌鼓を打たない訳が無いじゃないですか!
きっと、私がくいしんぼうだからではないはずです。
「そもそも、普通の令嬢は、私より先に座って、菓子に手を伸ばしたりはしないぞ」
「うぐぅぅぅ……」
「っくくくく。私は、そんなミラベルが可愛くて仕方なかったんだった」
テオ様がクスクスと笑いながら、滲み出て目尻に溜まった涙を、親指で拭っていました。
その仕草がちょっとセクシーで、心臓がドクドクと脈打ち、お腹がキュッと締め付けられました。
「それで、前世の異世界はどんなところだったんだ?」
「そうですね――――」
車、電車、飛行機、色彩豊かな料理、世界中から集められていた果物、光り輝いて見えていたスイーツ、食べ出すと止まらないジャンクフード、世界情勢、毎年のように移り変わるファッション。
食べ物の情報が異常に多めの前世の紹介をしました。
「馬車より速く走る機械……空飛ぶ鉄塊……凄い世界なのだな」
「はい。情報過多で眩い世界でした」
知りたい事を調べたら、簡単に知れて。
ボタンひとつで、誰にでも連絡できて。
一瞬で風景を写し取れて、永遠に保存。
とても便利な世界。
「その世界ではどんな姿だった? 今と同じだったのか?」
「いえ、全然違いますよ」
短めの黒髪を焦げ茶色に染めて、瞳は黒に近い色。
体型は今よりぽちゃっとしてた。
身長はあまり変わらないかなぁ。
今はワンピースやドレスばかりだけど、本当はシンプルでパンツスタイルの方が好きだった。
「そんな風に話していた?」
「……え、あ! 申し訳ありません!」
話し方があの頃に引っ張られてしまい、テオ様にまで普通に話してしまっていました。
「んーん、もっとそうやって話して? 友達や、結婚相手は?」
「結婚相手⁉」
「異世界では呼び方が違うのか?」
「いえ、一緒ですが。まだそんな年齢ではありませんでしたし、彼氏ともそんな話は――――」
「カレシ? そんな話…………『カレシ』は、男女の付き合いがある相手の総称か、敬称か、名称だな?」
――――あっ。
口が滑りました。
そして、テオ様の読解力をナメていました。
一瞬で彼氏の意味に気付かれ、存在にも気付かれてしまいました。
明らかに不味い雰囲気です。
テオ様の後ろに、ドス黒くて禍々しいオーラが見える気がします。
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