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186:二人が大人になったとき。
しおりを挟む朝イチの夢精ぎみなモノのせいで、テオ様がベッコリと凹んでいます。
膝枕しろと煩いので、今日はお部屋でのんびりと過ごすことにしました。
ニ時間ほどまえからテオ様は、ソファに座っている私の膝に頭を乗せて、ゴロゴロ中です。
休日に何もすることがなくて、ただダレているお父さんのような雰囲気です。
いえ、この方の場合は、完全にサボりですが。
「ちちうえ、かぜですか?」
「違うわ。ちょっと落ち込んでいるだけよ」
「おちこむ……」
レジナルドが、心配そうな顔をして、テオ様の頭を撫でてあげました。
なんて優しい子なのでしょ――――。
「レジー」
「なーにー?」
あ、ミーシャに呼ばれて走って行きました。
テオ様をナデナデしたのは二秒だけでした。
世知辛いですねぇ。
「こらっ、走らないの!」
「っ、はいっ!」
「…………もっと撫でろ、と怒れよ」
いや、どんな注意ですか。怒って、イヤイヤ撫でられて嬉しいのですか? 何のプレイですか? 変態ですか?
あ、変態さんでした。
「をい……」
「なんですか? お仕事サボりのテオ様?」
「…………フンッ」
テオ様がイジけたように鼻息を短く吐き、ぐるりと俯せに寝返りを打つと、私の太股をガジガジと噛み始めました。
スカートの上からだったので、ちょっとこそばゆいです。
「っ、あはっ、やだ、テオ様っ! あはは! 擽ったいですって!」
「っ――――⁉」
ガジガジしていたはずのテオ様がビタリと止まって、プルプルと震え出しました。
両手をぎゅっと握りしめて、何かに耐えているような……。
「テオ様? どうされました?」
「…………しゅ……」
「しゅ?」
「……っ、主寝室に、行かないか?」
「………………」
「…………」
あら? いつの間にか寝ていたようです。何か夢を見ていたような気もしますが、気のせいですね!
「……現実だ」
いやいや。
どこの現実に、子供や使用人もいるリビングルームで、真っ昼間っから盛る貴族男性がいるというのですか。
きっと野生動物でさえも真っ青になりますよ。
「貴族の方が、緩いぞ」
「……頭が?」
「股関?」
「…………頭が、緩い、のですね。テオ様の」
「…………」
「いたたた!」
今度は本気で噛まれてしまい。
ドレスに傷が入ったらどうしてくれるんですか!
「ははうえ! だいじょうぶですか⁉ どうされましたか⁉」
少し遠くてミーシャと遊んでいたレジナルドが、私の叫び声に驚いて心配しに来てくれました。
「ありがとう、大丈夫よ」
「なぜ『いたい』になったのですか?」
「……えーと?」
何と答えれば良いのでしょうか?
テオ様が噛んだ? いやいや、流石にそれはないですね。
「……テオ様の頭がちょっと重たかったの」
「ちちうえ…………ははうえのおひざは、スカーレットのものですよ?」
「ミラベルの全ては私のものだ! スカーレットには貸しているだけだ!」
「「……」」
声高らかに宣言されました。
ドアの前でリジーが爆笑していますが、スルーです。
お茶を注いでいたザラは鼻で笑いましたが、そちらもスルーです。
ロブが、『ハッ⁉』という顔をしたのを見てしまいましたが、あら? 共感しちゃったの? え?
取り敢えず、テオ様の後頭部をベシコン! と叩いておきました。
「もぅ。そんなんじゃ、二人が大人になったとき尊敬してもらえませんよ?」
「こんなにも仕事ができて、強くて、イケメンないい父親などそうそういないぞ⁉」
自分でイケメン言いましたよ、この人。
というか、今現在、完全なサボりのダメ親父なのですが?
「ふんっ! 十数年後を楽しみにしてろよ!」
「はいはい。楽しみ楽しみ」
口では適当にお返事しましたが、あの子たちが大人になったとき、どうなっているのでしょうね?
ふふっ、楽しみです。
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