上 下
1 / 25

プロローグ

しおりを挟む
「――――なあなあ知ってるか? この都市にゃ、千を超えるギルドが存在するんだぜ?」

 酒を豪快に喉へと流しながら、男は真っ赤に染まった顔でゲップ混じりの声を出す。その度に、酒か唾か分からないものが飛び散りカウンターのテーブルを濡らしていく。

 ここは【レヴィアの酒場】と呼ばれる、仕事終わりの者たちにとっては憩いの場所として存在している。
 特に昼間、鬱陶しい上司やら厳しい仕事を我慢してこなした者たちは、ここでその日の鬱憤を盛大に晴らすように酒を浴びるのだ。

「知ってるに決まってんだろ。その一つの〝大波小波ウェイブ・ザ・ウェイブ〟に俺らも入ってんだからよぉ。まあ、まだまだペーペーだし、実入りも少ないけどなぁ」
「ダハハ! ちげえねえやな! なあ、だからマスター、今日はそんな小遣い程度の稼ぎしかねえ俺らに恵んでくれるつもりで、ツケにしといちゃくれねえか?」

 完全に酔い切った二人の男が、カウンター越しにマスターに嘆願する。
 ガタイのいいマスターは、涼しげな表情でグラスを磨きながら小さく溜め息を吐く。

「バカ言ってんじゃないわよぉ。ウチを潰すつもりかぁい? ツケにしてほしいなら、せめて二つ名を持つくらい有名にならないとねぇ」


 こんな喋り方だが、見た目は筋肉質な大男である。
「そりゃねえぜぇ。二つ名なんて、そうそう簡単にもらえるわけねえじゃんかぁ」
「そうだそうだ! 俺らなんてまだ『ファースト』だぜ? 二つ名がもらえんのはせめて『サード』になってからだしよぉ」
「なら実績を挙げてさっさとなることだわねぇ」

 憮然としたままマスターが言うと、男たちは苦笑を浮かべるしかないのか肩を竦めた。

「あ~あ、もっと強くなりてえなぁ」
「そうだよなぁ~。俺らのギルドも、もう少し羽振りの良い魔宮を拠点にしたらいいと思うんだけどよぉ」
「無理言うなって。ウチのギルマスだってまだ『サード』なんだぜ? 『サード』や『フォース』がゴロゴロいる大手ギルドじゃねえんだから、そうそう人気の魔宮になんか挑めるかっての」
「だよなぁ。あ~あ、入るギルド間違えたかね~」
「そうかもしれねえなぁ」

 そんな愚痴を溢す男たちに近づく一つの人影。

「―――なあ、オッチャンたち!」
「「んあ?」」

 男たちに声をかけたのは、どこからどう見ても、そこらにいる普通の少年……に見えた。赤いマフラーを首に巻き、人懐っこい笑みを浮かべている。

「あんだよ、坊主。俺らに何か用か?」
「おう! 今さ、入るギルドを間違えたって言ってたけど、それってホントか!」
「ああ? あ、ヤッベェ、聞かれてたのかよぉ」

 バツの悪そうな顔をする男たち。

「もし良かったらさ、オレのギルドに入らね?」
「「……はあ?」」

 にこやかに笑う黒髪の少年の勧誘を受けて、男たちは思わず時を止めたように固まり、そして……。

「「ぶわっははははははっ!」」

 店中に響くような笑い声を響かせる男たち。
 少年は笑顔を消してムッとした表情を浮かべ、その紅い双眸で男たちを睨みつけた。バカにしたような笑いが気に食わなかったのだろう。

「おいおい聞いたかよ、こ~んな坊主から勧誘受けたのなんて初めてだ!」
「まったくだ! おい坊主、見ねえ面だが、どこのもんだ?」
「どこのもん?」
「どこのギルドに所属してんだって聞いてんだよ? 場所によっちゃ、考えてやってもいいぜ! ギルマスは誰なんだ?」
「何言ってんだよ、オッチャンたち。ギルドマスターはオレだぞ!」
「「………………はあ?」」

 男たちは珍獣を見つけたかのような顔をし、話を聞いていたのか、マスターまで目を丸くしている。

「そんでもって、オレのギルドの名前はさ――――」





しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...