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――【魔宮都市・アンティオキア】。
ここには魔宮――いわゆるダンジョンと呼ばれる巨大な七つの塔が存在する。
それぞれの塔の周りには集落ができ、それが次第に街へと発展し、今では七つの街が融合して、一つの巨大都市へと成り変わっていた。
そのためこの都市は、広大という言葉では表せないほどの規模を持ち、端から端まで歩こうと思ったら、三日以上かかると言われている。
七つの街が融合して【アンティオキア】と名は変えたが、区画としては七つにしっかりと分けられており、それぞれにはかつての街の名前を付けられた地区として存在していた。
その中で一番南に存在する魔宮――【ティミッドブルー】。
初心者が挑むとして有名なその塔がある【ミリッシュ地区】の一角――古びた木造住宅が建ち並ぶ中に、ひっそりと佇む一際小さな建物が存在している。
元々そこは小さな酒場だったのだが、今はもう酒場としては使われておらず、住んでいるのもたった一人の少年だけだ。
「…………ただいま」
不機嫌面を直そうともせずに、扉を開けて中に入った少年――アヒロ・エーカーは、ボロボロになって穴も開いて中から綿も出ているソファに突っ伏する。
「…………はぁ。今日も勧誘できなかったなぁ……」
この地区へ来てもう一カ月。
魔宮にも挑まず、ただただ自分で作ったギルドの仲間集めに奔走していた。
しかしながら、結果は見事に空振り。
誰一人としてギルドに興味を持ってくれた者などいなかった。
「何でだよぉ……。勧誘の仕方……間違ってたのかぁ?」
ちゃんと明るくハキハキした感じでギルドの説明もしたし、強制勧誘もしていない。それなのに決まって誰もが苦笑いを浮かべるか、バカにしたように笑い飛ばすかのどちらかだった。
「うぅ~今思い出しても腹が立つぅ~」
先程酒場で勧誘したのだが、その時も……。
『ダーッハッハッハッハ! 坊主、冗談言うなっての! 何の実績もねえギルドで、しかも一人だと? さらにギルマスがガキ! そ~んなギルドにわざわざ、今入ってるギルド止めて入るバカなんていねえよ!』
『まったくだぜ! もっと現実見ようぜ、坊主! 何ならウチのギルド、紹介してやろうか?』
『おい、止めとけって! こ~んな弱そうな坊主が、ウチのギルドでまともに仕事なんかできっかよぉ! ダハハハハハ!』
正直殴り飛ばしてやろうかと何回思ったか。
しかしそれをやって騒ぎを起こせば、二度とあの酒場に顔を出せなくなる。
「でもなぁ……うぅ~、アイツらぁ……人のことバカにしやがってぇぇぇっ!」
ガバッと起き上がると、アヒロはソファをドカドカと殴りつける。
「ああもう! 仲間集めなんか止めて、さっさと魔宮に挑ませろよなぁっ!」
しかしそれができない理由が一つある。
それは自分を鍛えてくれた師の言いつけ、だ。
“最低でも一人、お前の志に沿う者を見つけなければ、魔宮に挑む資格なし”
「くそぉ、もう黙って魔宮に潜るか? あ、いやいや、そんなことをしてバレたら……っ」
もしその条件を破ったら、恐ろしいお仕置きが待っていることは分かっている。
そのお仕置きが非常なトラウマを生むほどのものであることを熟知しているアヒロにとって、強引に事を進めることなどできるはずもなかった。
「はぁ……腹減ったなぁ」
昨日から満足に食事をとっていない。
魔宮へ行って、モンスターを討伐して稼げば実入りはそこそこあるだろう。しかし今のアヒロは魔宮へ挑めないので、必然的にどこかで仕事をもらって食い繋ぐしかないのだ。
「……しょうがねえ、仕事行くかぁ」
とりあえず生きるためにも仕事……金は必要なのだ。
昨日買っておいた果物を頬張りながら、「これじゃ足りねえし」と愚痴を溢しそのまま家から出た。
ここには魔宮――いわゆるダンジョンと呼ばれる巨大な七つの塔が存在する。
それぞれの塔の周りには集落ができ、それが次第に街へと発展し、今では七つの街が融合して、一つの巨大都市へと成り変わっていた。
そのためこの都市は、広大という言葉では表せないほどの規模を持ち、端から端まで歩こうと思ったら、三日以上かかると言われている。
七つの街が融合して【アンティオキア】と名は変えたが、区画としては七つにしっかりと分けられており、それぞれにはかつての街の名前を付けられた地区として存在していた。
その中で一番南に存在する魔宮――【ティミッドブルー】。
初心者が挑むとして有名なその塔がある【ミリッシュ地区】の一角――古びた木造住宅が建ち並ぶ中に、ひっそりと佇む一際小さな建物が存在している。
元々そこは小さな酒場だったのだが、今はもう酒場としては使われておらず、住んでいるのもたった一人の少年だけだ。
「…………ただいま」
不機嫌面を直そうともせずに、扉を開けて中に入った少年――アヒロ・エーカーは、ボロボロになって穴も開いて中から綿も出ているソファに突っ伏する。
「…………はぁ。今日も勧誘できなかったなぁ……」
この地区へ来てもう一カ月。
魔宮にも挑まず、ただただ自分で作ったギルドの仲間集めに奔走していた。
しかしながら、結果は見事に空振り。
誰一人としてギルドに興味を持ってくれた者などいなかった。
「何でだよぉ……。勧誘の仕方……間違ってたのかぁ?」
ちゃんと明るくハキハキした感じでギルドの説明もしたし、強制勧誘もしていない。それなのに決まって誰もが苦笑いを浮かべるか、バカにしたように笑い飛ばすかのどちらかだった。
「うぅ~今思い出しても腹が立つぅ~」
先程酒場で勧誘したのだが、その時も……。
『ダーッハッハッハッハ! 坊主、冗談言うなっての! 何の実績もねえギルドで、しかも一人だと? さらにギルマスがガキ! そ~んなギルドにわざわざ、今入ってるギルド止めて入るバカなんていねえよ!』
『まったくだぜ! もっと現実見ようぜ、坊主! 何ならウチのギルド、紹介してやろうか?』
『おい、止めとけって! こ~んな弱そうな坊主が、ウチのギルドでまともに仕事なんかできっかよぉ! ダハハハハハ!』
正直殴り飛ばしてやろうかと何回思ったか。
しかしそれをやって騒ぎを起こせば、二度とあの酒場に顔を出せなくなる。
「でもなぁ……うぅ~、アイツらぁ……人のことバカにしやがってぇぇぇっ!」
ガバッと起き上がると、アヒロはソファをドカドカと殴りつける。
「ああもう! 仲間集めなんか止めて、さっさと魔宮に挑ませろよなぁっ!」
しかしそれができない理由が一つある。
それは自分を鍛えてくれた師の言いつけ、だ。
“最低でも一人、お前の志に沿う者を見つけなければ、魔宮に挑む資格なし”
「くそぉ、もう黙って魔宮に潜るか? あ、いやいや、そんなことをしてバレたら……っ」
もしその条件を破ったら、恐ろしいお仕置きが待っていることは分かっている。
そのお仕置きが非常なトラウマを生むほどのものであることを熟知しているアヒロにとって、強引に事を進めることなどできるはずもなかった。
「はぁ……腹減ったなぁ」
昨日から満足に食事をとっていない。
魔宮へ行って、モンスターを討伐して稼げば実入りはそこそこあるだろう。しかし今のアヒロは魔宮へ挑めないので、必然的にどこかで仕事をもらって食い繋ぐしかないのだ。
「……しょうがねえ、仕事行くかぁ」
とりあえず生きるためにも仕事……金は必要なのだ。
昨日買っておいた果物を頬張りながら、「これじゃ足りねえし」と愚痴を溢しそのまま家から出た。
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