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 得た情報では、生半可な攻撃力では傷一つつけられないほどの硬度を持つプチゴーレム。倒すには、モンスターがそれぞれ持っているとされている弱点をつくのが一番なのだが、アヒロはお構いなしに剣を振り、呆気なく寸断してしまった。

(やっぱりあの剣が想像以上の代物なの? それともアヒロの実力……?)

 ファオは一撃でプチゴーレムを撃退し、次に残りのプチゴーレムに向かうアヒロを見つめる。
 プチゴーレムは、岩のような腕を振り回してアヒロを攻撃するが、アヒロは軽やかに攻撃をかわした後、カウンター気味に剣を振り相手の腕を切断した。
 そのまま彼はプチゴーレムの腹を蹴ると、相手は物凄い勢いで壁へと吹き飛ぶ。

(ど、どんな脚力してんのよ!?)

 小さいゴーレムだが、重量そのものは人間の大人よりも重いはず。それなのに、まだ十四歳の少年の一蹴りが、信じられないほどの威力を発揮している事実に、思わず言葉を失う。

 壁へと吹き飛んだプチゴーレムを追って、動きを止めている相手の胸に剣を突き刺したアヒロ。ほどなくしてプチゴーレムは消失して、倒した証拠である《魂晶》が残された。

「うっしゃあ! 勝~利っ!」
「キュキュキュ!」

 子供のように、いや、実際に子供なのだが、先程まで大人顔負けの戦いを見せていたとは思えないほどの屈託のない笑顔で喜んでいるアヒロ。

(コイツ……やっぱり強い。思った以上に……!)

 パオルを倒したのは見ていた。
 実のところ、あれはパオルが油断していたことに大きな原因があったのではと思っていたのだ。パオルが最初からやる気を出していれば、結果は違っていただろうとも。

 しかし今の戦闘を見て、やはりアヒロの実力そのものが、とんでもなく高いということが改めて認識させられた。

(あの剣も確かに凄いけど、でもそれ以上にコイツが……)

 勝利にはしゃいでいるアヒロとイチジクを眺めていると、

「ほら、ファオ」
「え……は? これって……!」
「おう、《魂晶》だ」
「な、何であたしに?」
「はあ? だってちょうど二体だったし、二人で分けるって感じでいいんじゃねえの?」
「で、でもあたし今回は何にもしてないわよ?」
「ちゃんと後ろで他のモンスターとかが来ないかどうか警戒しててくれたじゃねえか」
「そ、それはそうだけど……」
「それに仲間なんだから、宝を山分けするのは当然だろ!」

 ニカッと笑うアヒロの眩しさに、思わず苦笑が浮かぶファオ。

(あたしはただ、コイツを利用して上へ行きたいだけなのに……)

 アヒロの純粋さに触れていると、自分のこの考え自体がとてつもなく濁ったもののように思えてくる。

「どうした? 受け取れって」
「受け……とれないわよ」
「……? 何でだ?」
「だって……」
「いいから! ほら!」

 強引にファオの手を取って、その中にアヒロが《魂晶》を置いた。

「……いいの?」
「いいも何も、オレは最初からそのつもりだったぞ? なあ、イチジク?」
「キュキュキュ~!」

 ……騙してはいない。

 初めて会った時に、ある程度は目的を言ったし、利用しようとしているようなことも言ったはず。それなのに、彼は仲間として頼ってくれている。信じてくれている。
 そのことに何故か、胸の奥がジンジンとして痛い。

 それはきっと、彼らの純粋な想いが眩しくて、まだ話していないことがあるということが、罪悪感となっているからだろう。
 でもアヒロは全部は話さなくていいと言ってくれた。それに甘えさせてもらっている。
 だから別に罪悪感を覚える必要もないといえばない。

 しかし……。

(何だか、アヒロといると、隠し事してる自分が汚いものに思えてくるんだけど……)

 別に隠し事をしているからとって、何か彼らに実害が及ぶなんてことはない。
 それでも彼らの真っ直ぐさに胸を打たれてしまっていることだけは理解できるのだ。

(ここから帰ったら、話してみようかな)

 だからこそ、そう思ったのかもしれない。


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