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「――天満、そっちいったぞっ!」
「分かってるっ! はあぁぁっ!」

 全力で振り下ろした剣が、目の前の物体を斬り裂いた。
 真っ二つになったソレは、ピクピクと動きながらもやがて絶命する。

「ふぅ。討伐完了か」
「はは、お疲れ、天満。ほれ、タオル」

 真悟から放り投げられたタオルを「サンキュ」と言って受け取ると、額から流れ出ている汗を拭く。

「ようやくスライム討伐も大分慣れてきたみてえだな」

 足元に転がるのはモンスターの定番ともいえる存在――スライムである。
 色は毒々しい紫色をしており、大きさは顔くらいだろうか。プニプニと柔らかそうな身体ではあるが、その身には微量な毒も含んでいるので要注意なのだ。

 身体の中央にある赤い核を傷つけたら呆気なく死ぬ。
 宴の翌日から、さっそくこうしてレベル上げをするために真悟と一緒に森へと来ていた。
 すでに十体以上は倒しており、レベルも3へと上がっている。

「NEXTは22か。まだスライムで楽勝の範囲だな」

 スライムは一体倒せば経験値が2をもらえるので、十一体を倒せば4レベルになるということだ。

「……あのさ、もう少し奥へ行けばオオモグラとか他のモンスターもいて、経験値もそっちの方が多いんだけど?」
「いや、スライム討伐の方が簡単だし安全だ」
「……森のスライムを狩り尽くす気かお前は」
「せめて20レベルくらいまで」
「どんだけ時間かかると思ってんだよ! ほれ、いいから次のステージに行くぞ!」

 できればこのまま安全にレベリングをしたかったが、せっかちの真悟の傍にいてはそれも叶わないようだ。

(まあ、ここらのモンスターで真悟が勝てない奴はいないらしいから安全ではあるか)

 いざとなったら真悟が戦えばいいだけなのだ。

「あ、でもよ。そういやまだお前のスキルの話聞いてなかったよな」

 前を歩きながら真悟が尋ねてきた。
 確かに話す前にあんなことになったので、結局説明することができなかったのだ。

「どんなスキルなんだ? 戦闘系か?」
「……どっちかといったら万能型?」
「あ? どういうこった?」

 ちょうどいいと思ったので、今手に持っている剣で《万象網羅》を披露することにした。

「――《万象網羅》」

 …………しかし何も起こらない。

「ん? ……読み取りリード

 だがウンともスンとも言わない。
 枕の時のように目の前に読み取りゲージが出現しないのだ。

「おい、いきなりブツブツ言い出してどうした?」
「……ちょっと待ってくれ」

 今は真悟を相手にするより考えなければならないことがある。

(……! あ、そうだ。確かストックがあるんだったな。忘れてた)

 ストックが埋まっている時は新たに情報は読み取れない。レベル1の状態ではストックが一つしかなくて、今は枕で埋まっている。

「それじゃ……枕を消去デリート

 使い方は頭の中に情報としてあるので、その通りにストックに存在する枕の情報を思い出して消去と口に出した。
 すると頭の中の枕の情報とともに消失して、ストックが空になったのが分かったのである。

(そっか。ストックにある情報は常に記憶にあるけど、ストックから消せば記憶ごとなくなるのか)

 それまで覚えていた枕の材質や製造場所などの情報が記憶から失われていた。
 ただ使用目的やどんな枕の形をしていたのか、どこにあったのかなどは覚えている。
 これはリードする前に、外見上で把握していた内容プラス、元の知識があるからだからだろう。

(なら辞書とかリードしとけば便利かもな)

 そうすれば頭の中に丸ごと辞書の内容が入ることになるので、いちいち知らないことを調べなくてもよくなる。
 ただ消去すれば、その辞書の元々知っている情報以外は失われてしまう。
 ストックが少ない時は、十分に注意して使用しなければならない能力である。

「お、おい、さっきから黙ってどうしたんだ? 話しかけていいんだよ……ね?」

 恐る恐るといった感じで話しかけてくる真悟。天満が真剣な眼差しで剣を見つめていたので少し怖くなったのかもしれない。

「ああ、悪い。ちょっと待っててくれ。オレのスキルは発動までにちょっと時間かかるんだ」
「お、おう。無事ならそれでいいんだ」
「それじゃ、またしばらく時間もらうな」

 そう言って、今度こそ剣を手にしながら「リード」と呟く。すると今度はゲージが出現し、読み取りが始まった。

 10%……35%……55%……。

 どんどん上昇していく読み取りの情報量。この時点では、まだ何も頭の中に情報は得られていない。
 恐らく完了しなければ情報は取得できないのだろう。

 そして――読み取り完了。


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