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「へ?」
背後から声をかけられ、相手を確認してみると、そこにはいかつい顔をしたハゲ男が立っていた。身長が二メートル以上あるのか、見下ろされる形。
「……え、えっと……何か?」
「お前、その腰のものを置いて行く気はねえか?」
「……ないですけど」
理由は分かった。コイツは《アイテムボックス》を狙っている。
「なぁに、ただなんて言わねえ。ほれ、一千ジェマだ」
「はぁ。あ、あのですね、これは一応Sランクのアイテムですよ?」
「知ってるさ。だからこの俺が一千ジェマで買ってやろうって言ってんだよ」
このバカは一体何を言っているんだろうか……? 本来Sランクのアイテムは、金に換算すると平均で百万ジェマはする。それをたった一千ジェマ……。
「お断りします。オレは急いでますんで、他を当たってください」
こんな訳の分からない輩とはすぐにでも別れた方が良いと判断し、足早にその場を立ち去ろうとするが、ガシッと大きな手で肩を掴まれる。
「……放してください」
「おい兄ちゃん、あんまり手間かけさせんなっての」
上から目線に、自分勝手な発言、段々イラついてきた。オレはジッと相手の頭上を見る。そこには名前にレベル、HPゲージとMPゲージが映し出されていた。ついでにジョブもだ。
……おいおい、“武道師”かよ。中級ジョブじゃねーか。
初級ジョブである“武道家”を極めると、クラスアップして選ぶことができる中級ジョブの“武道師”。中堅の“冒険者”によくあるジョブの一つだ。
「……はぁ、放せよ」
パシッと肩に置かれている相手の手を払う。
「あ? テメエ……ケンカ売ってんのか?」
「それはお前の方だろ? どうしても《アイテムボックス》がほしければ、自分でクエストを受けて手に入れろよな」
「何だとぉ……!?」
すると周りにいた者たちも、騒ぎを聞きつけて集まってきた。
あっちゃあ~、人が集まってきちまったなぁ。めんどくせぇ~。
「おいこら、早くそいつを――」
「やなこった!」
オレはチラリと左側にある建物を見ると、足に力を込めて跳び上がる。一気に五メートルはある建物の屋根の上に立つ。
「なっ!? テ、テメエッ、下りてきやがれっ!」
下でハゲが何か言ってる。見物客も「おお~、飛んだぜ~!」とか「すげえジャンプ力だなぁ~!」などと感嘆の声を漏らしている。
これはスキルの中にある《跳躍》である。スキルにはそれぞれレベルが99まであるのだが、廃人ゲーマーであるオレのスキルは、すべてレベル99までカンストしているのだ。
本気を出せば十メートルの高さまで余裕に跳ぶことができる……はず。少なくともゲーム内ではそうだった。
下でハゲが喚いているが、相手にするだけ面倒なので、そのまま街の出口へと向かう。
ったく、あんな奴に絡まれるなんて、どこのテンプレだよ。
「それにしても、何となくスキルをイメージして使ってみたけど、案外簡単にイケたな」
ゲームではスキルスロットと呼ばれる《スキル画面》にあるスロットに、使いたいスキルをセットしなければ使えなかったが、確認したところスロットそのものがなくなっていたので、恐らくはイメージしてスキルを使えるのではと思ってやってみたが、考えは的中していたようだ。
「これからも、慣れるためにいろいろ試してみなきゃな」
そうしてオレは《バタフライ草》がある場所まで向かった。
「一、二、三………………よし、六十輪もありゃ今日一日くらいは大丈夫だろう」
花が蝶のようになっていることから名づけられた《バタフライ草》を大量にゲットすることができた。あとはこれをギルドに持ち帰って報酬金をもらうだけ。
足りなかったら、持っているアイテムを売ればいいだけだ。でもあまり売りたくないので、できればこのクエスト報酬だけで一日を乗り切りたい。
《バタフライ草》を《アイテムボックス》へと保管し、手ぶらで街へと戻ろうとした時、一つの馬車が、遠目に止まっているのを確認した。
「アッチは北門の方か」
入口の近くに置かれている馬車には旗が立てられており、
「あれは―――奴隷商の馬車か」
ゲームでもその存在はいた。クエストの一つ、“奴隷悪商ザクスの捕縛”というものも達成したことがある。
RONの世界では、奴隷の扱いはそれほど悪くはない。言い換えれば忠誠を誓わせた従者という意味であり、基本的には人権は尊重されている。
しかしながら、奴隷を家畜のように扱う者たちも中には存在していた。それが《奴隷悪商》と呼ばれる存在である。彼らは非合法に人を攫って奴隷化し、高い値で貴族や金持ちなどに売り捌くことを生業としている者たち。
「……一応、調べてみるか」
オレのサブジョブは《鑑定士》。これは見たものを鑑定できる素晴らしい副職である。最初は触れたものにしか効果が無かったり、中途半端な情報しか得ることしかできなかったが、レベルが上がれば上がるほど、見ただけで鑑定できるようにもなるし、得られる情報も多い。
「…………クソが」
オレが舌打ちをして苛立ちを露わにしたのには理由があった。何故なら、鑑定結果に、あの奴隷商人の馬車が、悪徳商人――つまり《奴隷悪商》だと認定できたからだ。
周りを見れば、奴隷商人らしき者が休憩がてら干し肉のようなものを食べている。これから街に出掛けて良いカモでも探るつもりなのかもしれないし、もしかしたら誰かを待っているだけなのかもしれない。
背後から声をかけられ、相手を確認してみると、そこにはいかつい顔をしたハゲ男が立っていた。身長が二メートル以上あるのか、見下ろされる形。
「……え、えっと……何か?」
「お前、その腰のものを置いて行く気はねえか?」
「……ないですけど」
理由は分かった。コイツは《アイテムボックス》を狙っている。
「なぁに、ただなんて言わねえ。ほれ、一千ジェマだ」
「はぁ。あ、あのですね、これは一応Sランクのアイテムですよ?」
「知ってるさ。だからこの俺が一千ジェマで買ってやろうって言ってんだよ」
このバカは一体何を言っているんだろうか……? 本来Sランクのアイテムは、金に換算すると平均で百万ジェマはする。それをたった一千ジェマ……。
「お断りします。オレは急いでますんで、他を当たってください」
こんな訳の分からない輩とはすぐにでも別れた方が良いと判断し、足早にその場を立ち去ろうとするが、ガシッと大きな手で肩を掴まれる。
「……放してください」
「おい兄ちゃん、あんまり手間かけさせんなっての」
上から目線に、自分勝手な発言、段々イラついてきた。オレはジッと相手の頭上を見る。そこには名前にレベル、HPゲージとMPゲージが映し出されていた。ついでにジョブもだ。
……おいおい、“武道師”かよ。中級ジョブじゃねーか。
初級ジョブである“武道家”を極めると、クラスアップして選ぶことができる中級ジョブの“武道師”。中堅の“冒険者”によくあるジョブの一つだ。
「……はぁ、放せよ」
パシッと肩に置かれている相手の手を払う。
「あ? テメエ……ケンカ売ってんのか?」
「それはお前の方だろ? どうしても《アイテムボックス》がほしければ、自分でクエストを受けて手に入れろよな」
「何だとぉ……!?」
すると周りにいた者たちも、騒ぎを聞きつけて集まってきた。
あっちゃあ~、人が集まってきちまったなぁ。めんどくせぇ~。
「おいこら、早くそいつを――」
「やなこった!」
オレはチラリと左側にある建物を見ると、足に力を込めて跳び上がる。一気に五メートルはある建物の屋根の上に立つ。
「なっ!? テ、テメエッ、下りてきやがれっ!」
下でハゲが何か言ってる。見物客も「おお~、飛んだぜ~!」とか「すげえジャンプ力だなぁ~!」などと感嘆の声を漏らしている。
これはスキルの中にある《跳躍》である。スキルにはそれぞれレベルが99まであるのだが、廃人ゲーマーであるオレのスキルは、すべてレベル99までカンストしているのだ。
本気を出せば十メートルの高さまで余裕に跳ぶことができる……はず。少なくともゲーム内ではそうだった。
下でハゲが喚いているが、相手にするだけ面倒なので、そのまま街の出口へと向かう。
ったく、あんな奴に絡まれるなんて、どこのテンプレだよ。
「それにしても、何となくスキルをイメージして使ってみたけど、案外簡単にイケたな」
ゲームではスキルスロットと呼ばれる《スキル画面》にあるスロットに、使いたいスキルをセットしなければ使えなかったが、確認したところスロットそのものがなくなっていたので、恐らくはイメージしてスキルを使えるのではと思ってやってみたが、考えは的中していたようだ。
「これからも、慣れるためにいろいろ試してみなきゃな」
そうしてオレは《バタフライ草》がある場所まで向かった。
「一、二、三………………よし、六十輪もありゃ今日一日くらいは大丈夫だろう」
花が蝶のようになっていることから名づけられた《バタフライ草》を大量にゲットすることができた。あとはこれをギルドに持ち帰って報酬金をもらうだけ。
足りなかったら、持っているアイテムを売ればいいだけだ。でもあまり売りたくないので、できればこのクエスト報酬だけで一日を乗り切りたい。
《バタフライ草》を《アイテムボックス》へと保管し、手ぶらで街へと戻ろうとした時、一つの馬車が、遠目に止まっているのを確認した。
「アッチは北門の方か」
入口の近くに置かれている馬車には旗が立てられており、
「あれは―――奴隷商の馬車か」
ゲームでもその存在はいた。クエストの一つ、“奴隷悪商ザクスの捕縛”というものも達成したことがある。
RONの世界では、奴隷の扱いはそれほど悪くはない。言い換えれば忠誠を誓わせた従者という意味であり、基本的には人権は尊重されている。
しかしながら、奴隷を家畜のように扱う者たちも中には存在していた。それが《奴隷悪商》と呼ばれる存在である。彼らは非合法に人を攫って奴隷化し、高い値で貴族や金持ちなどに売り捌くことを生業としている者たち。
「……一応、調べてみるか」
オレのサブジョブは《鑑定士》。これは見たものを鑑定できる素晴らしい副職である。最初は触れたものにしか効果が無かったり、中途半端な情報しか得ることしかできなかったが、レベルが上がれば上がるほど、見ただけで鑑定できるようにもなるし、得られる情報も多い。
「…………クソが」
オレが舌打ちをして苛立ちを露わにしたのには理由があった。何故なら、鑑定結果に、あの奴隷商人の馬車が、悪徳商人――つまり《奴隷悪商》だと認定できたからだ。
周りを見れば、奴隷商人らしき者が休憩がてら干し肉のようなものを食べている。これから街に出掛けて良いカモでも探るつもりなのかもしれないし、もしかしたら誰かを待っているだけなのかもしれない。
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