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「……しょうがねーよな。ここはバレねーように全力で通る!」
オレは石を掴み、投げる。教会の壁に当たり音が鳴ると、警備員は当然確認するためにそちらに意識を向けた。
すかさず《電光石火》というスキルを使う。
《電光石火》――移動速度を倍加することができるスキル。ただ連続使用できるのは三度まで。三度使ってしまえば、次に使えるのは120秒後。
大地を蹴り出したオレは、顔を前方から逸らした警備員の脇を通過し、見事に教会の中へと侵入することができた。
ただすぐに目の前に“第三師団”の兵士たちであろう者の姿がある。オレはすぐさま《忍び足》のスキルを使用して、物陰に隠れた。
ふ~危ね~。けどこれで侵入はできたな。あとは“オーブ”がある場所まで行ければいいんだけど……。
ただ周囲を見回してみると、兵士たちの数が多い。これでは自由に動き回ることはできないし、かといって隠れて進むにしても困難を極めている。
ん~《僧侶》の派生ジョブ――《賢王》や、《盗賊》の派生ジョブ――《アサシン》になれば、姿を消せる魔法やスキルがあるらしいけど、オレが覚えてんのは、初期ジョブが覚えられる魔法やスキルだけだしなぁ。
その中には残念ながら、ここを平和に突破できる方法は存在していない。
どうすればいいか悩んでいる時、どこかから兵士が慌ただしくやって来て、他の兵士たちに声をかけ、一緒にどこかへと急いで走り去って行く。
「……何かあったのか?」
そのお蔭で、ここらへんにいた兵士たちの気配が全部消えた。
「――――まさかっ!?」
オレはある予想を立てて、急いでその予想が当たっているか確かめに走った。
そこは教会の中央部に位置しており、大きなステンドグラスの直下に祭壇がある場所である。そこに集結している兵士たち。
あっちゃ~、やっぱり見つけられちゃったわけかぁ。
そうなのだ。地下ダンジョンへ続く道は、その祭壇に隠されている。オレは幾つも設置されている長椅子に身を屈ませながら周囲を確認した。
祭壇にはある仕掛けが施されてあり、他の教会と同じように上部に描かれている魔法陣に対し、50以上のレベルがある者がMPを半分吸わせることで、祭壇の下に隠されている通路が露わになる。
今、その通路が見えているので、恐らく所長に祭壇の調べ方などを教えてもらっていたのかもしれない。
その先には巨大な魔法陣があり、中央には深紅に輝く“オーブ”が浮かんでいるはずなのだ。その“オーブ”が、地下ダンジョンへと導いてくれる。
このままでは、間違いなくメルヴィスたちはダンジョンへ向かうだろう。いや、もしかしたらもう……。しかしここで出て行って止めるのも変な話だ。いろいろなことを聞かれる。
何故この場にいるのか。何故危険だということを知っているのか。どうやって情報を入手したかなどなど、非常に説明に困難なことを聞かれてしまう。
それに、恐らくもう何人かはダンジョンへ潜っている可能性が高い。問題なのは、あそこは一度入ってしまうと、あるアイテムを取らなければ戻って来られないということだ。
するとそれを証明するかのように、地下から兵士が焦りながら出てきて、
「お、おい! メルヴィス様がお帰りにならないぞ!」
「何だって! 一体どういうことだ!」
「下には魔法陣があってだな――」
兵士たちがてんやわんや状態だ。今の会話からも分かるように、やはりもうメルヴィスは中に入ったようだ。
ったく、騎士なんだから用心深く行動してほしいもんだよなぁ。
そうは言うが、実はオレも何も考えずに“オーブ”に触れてダンジョンへ飛ばされ、一度死んでしまった経験がある。
あそこは面倒な罠などもあるので、ただレベルが高いというだけではクリアすることはできないのだ。
「と、とにかく、メルヴィス様を探すんだ!」
「そ、そうだ! 追えばいいんだ!」
しかしそれは確実に足手纏いになってしまう。
…………あ~もう! しょうがねーなっ!
オレは椅子の陰から立ち上がり、
「ちょっと待てっ! い、いや、待ってくださいっ!」
一応兵士たちの方が身分は上なので敬語に戻しておく。オレってば小心者ぉ~。
兵士たちが一様に何だ何だとオレを見てくる。
「な、何者だお前は! どうしてこんなとこにいる! ここは立ち入り禁止のはずだぞ!」
「言いたいことは分かりますが、とりあえずまずはこちらの話を聞いてください!」
「あ?」
「オレは今、あなたたちの師団長であるメルヴィスさんの現状について説明ができます!」
「な、何だと!?」
ざわつき始める兵士たち。
「どういうことだ! 何を知っている!」
「そこから通じる地下階段を下りて行けば、深紅に輝く“オーブ”があるはずです!」
「っ!? 何故そんなことを知ってる!? ま、まさか所長が言っていた夜中に確認されている人影とやらはお前のことか!」
「人影? いいえ、オレは今日この街に着いたばかりですから、それは違います」
「信じられるものか!」
「まあ、そうでしょうね。ですが今は、オレのことより師団長を救うために情報を得ることが先決だと思います!」
「す、救うだと?」
「はい。戻ってこられていないのでしょう、師団長さんが」
「……その通りだ」
「実はオレも、師団長さんとは面識があります。ちょうど昨日に【クオール王国】で会っています」
「昨日? 確かに昨日はそこにいたが……あっ、青い闘衣に赤い髪! まさかお前、師団長殿が仰っていたイックウという者か!?」
良かった。何とかこれで話に説得力を持たせることができるかもしれない。
オレは石を掴み、投げる。教会の壁に当たり音が鳴ると、警備員は当然確認するためにそちらに意識を向けた。
すかさず《電光石火》というスキルを使う。
《電光石火》――移動速度を倍加することができるスキル。ただ連続使用できるのは三度まで。三度使ってしまえば、次に使えるのは120秒後。
大地を蹴り出したオレは、顔を前方から逸らした警備員の脇を通過し、見事に教会の中へと侵入することができた。
ただすぐに目の前に“第三師団”の兵士たちであろう者の姿がある。オレはすぐさま《忍び足》のスキルを使用して、物陰に隠れた。
ふ~危ね~。けどこれで侵入はできたな。あとは“オーブ”がある場所まで行ければいいんだけど……。
ただ周囲を見回してみると、兵士たちの数が多い。これでは自由に動き回ることはできないし、かといって隠れて進むにしても困難を極めている。
ん~《僧侶》の派生ジョブ――《賢王》や、《盗賊》の派生ジョブ――《アサシン》になれば、姿を消せる魔法やスキルがあるらしいけど、オレが覚えてんのは、初期ジョブが覚えられる魔法やスキルだけだしなぁ。
その中には残念ながら、ここを平和に突破できる方法は存在していない。
どうすればいいか悩んでいる時、どこかから兵士が慌ただしくやって来て、他の兵士たちに声をかけ、一緒にどこかへと急いで走り去って行く。
「……何かあったのか?」
そのお蔭で、ここらへんにいた兵士たちの気配が全部消えた。
「――――まさかっ!?」
オレはある予想を立てて、急いでその予想が当たっているか確かめに走った。
そこは教会の中央部に位置しており、大きなステンドグラスの直下に祭壇がある場所である。そこに集結している兵士たち。
あっちゃ~、やっぱり見つけられちゃったわけかぁ。
そうなのだ。地下ダンジョンへ続く道は、その祭壇に隠されている。オレは幾つも設置されている長椅子に身を屈ませながら周囲を確認した。
祭壇にはある仕掛けが施されてあり、他の教会と同じように上部に描かれている魔法陣に対し、50以上のレベルがある者がMPを半分吸わせることで、祭壇の下に隠されている通路が露わになる。
今、その通路が見えているので、恐らく所長に祭壇の調べ方などを教えてもらっていたのかもしれない。
その先には巨大な魔法陣があり、中央には深紅に輝く“オーブ”が浮かんでいるはずなのだ。その“オーブ”が、地下ダンジョンへと導いてくれる。
このままでは、間違いなくメルヴィスたちはダンジョンへ向かうだろう。いや、もしかしたらもう……。しかしここで出て行って止めるのも変な話だ。いろいろなことを聞かれる。
何故この場にいるのか。何故危険だということを知っているのか。どうやって情報を入手したかなどなど、非常に説明に困難なことを聞かれてしまう。
それに、恐らくもう何人かはダンジョンへ潜っている可能性が高い。問題なのは、あそこは一度入ってしまうと、あるアイテムを取らなければ戻って来られないということだ。
するとそれを証明するかのように、地下から兵士が焦りながら出てきて、
「お、おい! メルヴィス様がお帰りにならないぞ!」
「何だって! 一体どういうことだ!」
「下には魔法陣があってだな――」
兵士たちがてんやわんや状態だ。今の会話からも分かるように、やはりもうメルヴィスは中に入ったようだ。
ったく、騎士なんだから用心深く行動してほしいもんだよなぁ。
そうは言うが、実はオレも何も考えずに“オーブ”に触れてダンジョンへ飛ばされ、一度死んでしまった経験がある。
あそこは面倒な罠などもあるので、ただレベルが高いというだけではクリアすることはできないのだ。
「と、とにかく、メルヴィス様を探すんだ!」
「そ、そうだ! 追えばいいんだ!」
しかしそれは確実に足手纏いになってしまう。
…………あ~もう! しょうがねーなっ!
オレは椅子の陰から立ち上がり、
「ちょっと待てっ! い、いや、待ってくださいっ!」
一応兵士たちの方が身分は上なので敬語に戻しておく。オレってば小心者ぉ~。
兵士たちが一様に何だ何だとオレを見てくる。
「な、何者だお前は! どうしてこんなとこにいる! ここは立ち入り禁止のはずだぞ!」
「言いたいことは分かりますが、とりあえずまずはこちらの話を聞いてください!」
「あ?」
「オレは今、あなたたちの師団長であるメルヴィスさんの現状について説明ができます!」
「な、何だと!?」
ざわつき始める兵士たち。
「どういうことだ! 何を知っている!」
「そこから通じる地下階段を下りて行けば、深紅に輝く“オーブ”があるはずです!」
「っ!? 何故そんなことを知ってる!? ま、まさか所長が言っていた夜中に確認されている人影とやらはお前のことか!」
「人影? いいえ、オレは今日この街に着いたばかりですから、それは違います」
「信じられるものか!」
「まあ、そうでしょうね。ですが今は、オレのことより師団長を救うために情報を得ることが先決だと思います!」
「す、救うだと?」
「はい。戻ってこられていないのでしょう、師団長さんが」
「……その通りだ」
「実はオレも、師団長さんとは面識があります。ちょうど昨日に【クオール王国】で会っています」
「昨日? 確かに昨日はそこにいたが……あっ、青い闘衣に赤い髪! まさかお前、師団長殿が仰っていたイックウという者か!?」
良かった。何とかこれで話に説得力を持たせることができるかもしれない。
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