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「う~~~~~ん……」
「どうしたんですか、イックウ様?」 

 オレがあることに悩んでいると、ポアムが不思議そうな表情で尋ねてきた。

「いやな、今日って定休日じゃんか」
「あ、はい。ですからこうやって、朝から修業を」

 そう、ポアムとヒノデの修業を行っている最中なのだが、だからこそ気になることがあるのだ。

「実はさ、今日も朝から顔を見せるって言ってた奴がこねーんだよな」
「あ……メルヴィスさん、ですか?」

 え? 何で少し不機嫌なんですか?

 ポアムが若干口を尖らせている理由が分からない。

「そう、なんだけどさ……何かあったのかなって」
「そ、そりゃメルヴィスさんは、有名な騎士団の団長さんですから、急な任務とかあってもおかしくないですよ」

 確かにその可能性の方が高い。普通は、だ。
 しかしあのクソ真面目なメルヴィスならば、連絡の一つくらいしてくるような気もする。だから彼女に何かあったのかもという考えが払拭できないのだ。

「……かもな」
「そうですよ! それよりも今、ヒノデくんと連携について考えているんですが……って、え?」

 ポアムがポカンとする。視線はオレの後ろ。若干斜め上だろうか。

「どうしたんだポアム……」

 と言いつつ後ろを振り返ると、少し遠くの空から何かがこちらへと向かってくる。かなりの速度だ。

「イ、イックウ様、モ、モンスターがっ!」
「真でござるよっ、殿! こちらへ来るでござるぅっ!」

 ヒノデは刀を抜いて身構える。ポアムもまた敵が現れたと思っているようで警戒態勢を整える……が、

「……! いや、あれは……」

 それは以前の定休日にも見た、というかその背に乗ったことがあるモンスターだった。

「……“空に棲まう者”……?」
「え? イックウ様、あのモンスターのこと、ご存知なんですか?」

 そう、向かってきているのは“空に棲まう者”と呼ばれる存在。

 《ドライブベル》というアイテムを使い呼び出すことができる移動用のモンスターである。前にメルヴィスが呼び出して、その背に乗って、彼女の依頼をこなしていた。

「安心しろ、二人とも。敵意はない……と思う」

 まあ、もし暴れても取り押さえられることはできるから。
 しばらく沈黙を保ちつつ待っていると、やはりここが目的地だったのか、“空に棲まう者”はオレたちの頭上で位置を止めた。

 一体何だ……?

 と思っていると、“空に棲まう者”の背から何か小さな人影が飛び出し、

「――――イックウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 何かを叫びながら落下してきた。
 それは明らかに小さな――女の子。

 笑顔を浮かべながら両腕を広げて落下地点は――オレ。
 このままかわすのは容易いが、それではあの子は地面に激突してしまう。

「だあもう! 一体何なのさっ!」

 とりあえず彼女を落とさないようにガッシリ受け止めることに成功はした。

「にへへ~、イックウ~」

 腕の中にいる少女、というより幼女がぎゅ~っと嬉しそうに顔を摺り寄せてくる。

「え、えっと……何この状況?」
「イックウ様……?」
「殿……?」
「い、いやいや! 何そのロリコン野郎を見るような目つきは!? 止めて二人とも! オレはこの子のことなんて知らねーんだから!」
「っ!? イ、イ、イックウゥゥゥ~ッ」
「ええ!? 泣いたぁっ!?」

 いきなり腕の中で泣き始める幼女。

「イックウ様……?」
「殿……?」
「止めてぇぇぇっ、オレをそんな人でなしみたいな目で見ないでぇぇぇっ!」

 だって本当に知らないんだものぉぉぉ~っ! つうか本当に誰なのこの子ぉぉぉ~っ!

 その時、上空から殺気を感じて全身がゾワッと総毛立つ。反射的に、そのまま後方へと大きく跳び退く。
 すると先程までいた場所に人影が降り立ち、地面には、その人物が持っている斧が突き刺さった。同時に起こる小規模の爆発。

「きゃあっ!?」「わあぁっ!?」

 ポアムとヒノデも、比較的近くにいたこともあって。爆風によって吹き飛ばされてしまった。
 幸いオレは距離をとっていたこともあり、腕の中にいる幼女ともども無事である。

「ちっ! おいこらテメエッ! いきなり何……を……っ!?」

 斧を持っている人物の顔を見て愕然とする。
 ニヤリと口角を上げたその人物が、

「にょふふ~」

 と愉快気に笑い、恋い焦がれた獲物を見つけたといった感じの目つきをオレに向けてくる。

「お、お、お、お前……っ」

 信じられない。いや、この世界にいるということは知っていたが、まさか向こうから現れてくるなど想像していなかったのだ。故にたとえこの世にいたとしても、ひっそりと生活しているオレと会うことはないだろうとタカをくくっていた。

「……やっほぉ~! おっ久しぶりだねぇ~」

 額から得も言われぬ汗が流れ出てくる。
 会ってみたいと思いつつも、できれば会いたくないという思いも強かった相手。
 しかし実際に会ってみると、やはり後悔してしまっているのだから、何とかしてなかったことにできないだろうか……。

「あっれれぇ? どったのぉ、そ~んなお化けみたいな顔してぇ~」

 吹き飛ばされたポアムが、奴を警戒しながらもオレの背後へとつく。

「イ、イックウ様! て、敵ですか!」
「い、いや、アイツは……」

 口を開こうとした時、

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 同じように吹き飛ばされたヒノデが、奴を指差して声を張り上げた。当然皆の視線は彼へと向く。

「あ、あ、あなたはぁっ!?」
「し、知っているんですか、ヒノデくん!」
「知ってるも何も、こ、こ、この方こそ、拙者が探していた御仁にござるっ!」
「え……?」
「まあ、ビックリするわな。けどヒノデの言う通りだ。コイツが―――リョフだ」
「ん? ……………ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 今日一番のええぇぇぇを頂きました。

「にょふふ~、ブイブイ~!」

 こちらの驚きも知らずに、リョフはニカッと笑いながらVサインをしている。
 腕の中には、いつの間にか静かになったと思ったら、寝ていた幼女。

「…………この状況は何なのさ……」

 誰か本当に説明してほしいと願った。


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