ペット転生 ~飼い主がニートエルフな件に困りまして~

十本スイ

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 ――三十分後。

 俺とジャンクさんはとりあえず分担して薬の素材を集め、三十分後に噴水がある広場で集まることになっていた。
 先にジャンクさんは到着していたようで声をかけると、アッとなって返事をしてくれたが、どこか浮かない表情をしている。

「こっちは一応全部集まりました。そっちはどうでしたか、ジャンクさん?」
「……一つを除いて集まったよ」
「一つ?」
「《赤百合》だけが見つからなくて」
「花屋には行ったんですよね?」

 力無く「ああ」と頷く彼。それでも見つからなかったらしい。
 そうか、確か《赤百合》の咲く時期は少し前だ。売っていない可能性もあった。

「……売り切れ、ではなかったんですか?」
「いや、売り切れだった」
「! だったらまだ望みはあるじゃないですか!」
「え?」
「売り切れっていうのは誰かに売ったから無いんです。つまり購入した人を探せばまだ持っているかもしれない!」
「! そ、そうだ! その通りだ!」
「急いで花屋に戻って購入者リストを確かめさせてもらいましょう!」

 俺たちは慌てて花屋へと向かうと、さっそく店長にここ最近で《赤百合》を購入していった者たちのリストを上げてもらった。
 中には旅人や商人などがいてお手上げのものもいたが、何件かは国内にいる者たちだということで希望を得る。

「ジャンクさん、できれば他の人たちにも協力してもらって一気に調べてもらってください」
「え、き、君はどうするんだい?」
「俺はこの人に当たります」

 店長が紙に書いてくれた名前を指差す。
 何故その人を選んだのか理由がある。それは住んでいる場所がちょっと遠いから。 
 北にある丘の上の一軒家。そこに《赤百合》を購入した人物が住んでいる。

 丘は長い坂道を蛇行して登っていくために時間がかかるのだ。しかし俺ならそんなこと関係なしにショートカットして時間を削ることが可能。

「分かった。じゃあ俺は知り合いに頼んで手伝ってもらう!」
「そうしてください! 向こうで手に入るかもしれませんから、ジャンクさんが集めた素材をもらっておいていいですか?」

 すべての素材が手に入ったら、その時点で《スアナ工房》へ入り薬作りを始めるつもりだ。
 ジャンクさんは「分かったよ」と言って、素材の入った袋を手渡してきた。

「《赤百合》が手に入ったら、すぐにロニカに知らせてください。そうすれば連絡手段が取れますから」

 彼女なら火の魔術を空へと放ちそれを合図にしてくれるだろう。
 俺は今後の行動を決め、ジャンクさんと別れたあと、急いで丘の上の家へと向かうことに。

 数分後、丘の麓まで辿り着き天を仰ぐようにして丘の頂点を見上げる。
 蛇が山を登るかのような道路が天へと続いていた。普通に登ると高さはあるのに傾斜が滑らかなので時間がかかってしまう。
 まあここは一種のハイキングコースになってるからな。陽だまりの中、のんびりと歩きながら頂上を目指し、そこでお弁当を食べるというイベントを楽しんでいる者たちも多い。
 しかし今はわざわざ道路を行き時間を取られるわけにはいかない。

 ――変化!

 俺は心の中でそう叫ぶと、ボボンッと白い煙に包まれ、その中から一羽の黒い羽毛に包まれたカラスとなって空へと舞い上がっていく。
 そう、こうして空を飛んで道なき道を行けば、大幅なショートカットになるのだ。

 それほど時間もかからず、あっという間に頂上へと辿り着く。
 そこは林に囲まれ、展望台の他、芝生に覆われたエリアもあって、ここでシートを敷きながら弁当を食べると美味いだろう。
 俺はキョロキョロと首を動かして家を探す。

 ――――あった!

 林の中にポツンと建てられている小さな家。俺は真っ直ぐ木造住宅でログハウスのような外見をした家の玄関へ辿り着いた。
 人の姿に戻り、扉を少し強めにノックをして住人を呼ぶ。

 …………反応がない。

 こんな時に留守なのかよ! 運がないにも程があるぞ!
 何度も何度もノックして声を大にして叫ぶが、やはり反応がない。

 こうなったら一か八か不法侵入をして《赤百合》があるかどうか確認するか……?

 事は一刻を争う。犯罪だが超法規的処置ってことで許してもらえるかもしれない。
 だがそこで初めて気づいたが、視線を落としドアノブを見た時、小さな看板が紐でかけられていたのだ。
 
『ご用の方は【スワン湖】へ』

 その湖は丘の上にあることを思い出した俺は、全速力で林を駆け抜けていく。
 すると開けた場所へ出て、眼前に広々とした湖を発見した。

 ここが【スワン湖】。その名の由来は、空から見ると白鳥が羽ばたいているような形をしているから、らしい。
 暑い季節になると、ここは海水浴……湖なので湖水浴になるだろうが、泳ぎに来る人たちでいっぱいになる。
 また釣りなども盛んで、見ればちらほらと釣り人の姿も確認できた。
 俺は目的の人物の名前を叫ぶ。

「――ジョートさんっ! ジョートさんはいらっしゃいませんかぁっ!」

 顔を動かしながら目一杯叫んだことで、釣り人たちや散歩に来ている者たちの注目を浴びてしまうがそんなの気にしている余裕はない。
 その時、一人の釣り人が声をかけてくる。何でもジョートさんも少し離れた場所で釣りをしているとのこと。

 ちょうど白鳥の目になっている部分に浮島のような小さな陸地があり、そこで見かけたと聞いた。
 俺は教えてくれた人に礼を言うと、急いで浮島へと向かう。
 そこには一人。切り株に腰を下ろし釣り糸を垂らす老齢の男性がいた。

 何度か見かけたことがある人物だが会話した記憶はない。
 短く刈り上げた白髪で、睨みつけるような目つきでジッと水面を見つめていた。いや、正確にいえば水面に沈んだり浮き上がったりを何度も繰り返す浮きを、である。



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