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「すみませんっ、ジョートさんですよね!」
俺の大声にビクッとしたジョートさんが、咄嗟に釣り竿を持ち上げてしまう。
「ああぁぁぁぁぁぁっ!?」
水中に垂らしていた釣り針が持ち上がり、そこには魚が食いついていたが、しっかり針がかかっていなかったようでそのまま水の中へ落ちてしまった。
明らかに良くないタイミングで声をかけてしまったことに気づいた俺は……。
「あ、あの……ひっ!」
プルプルと全身を怒りのオーラで振るわせながらギロリと三白眼で睨みつけてくるジョートさんに気圧されてしまう。
「おいこら坊主、釣り場では静かにっていうマナーも守れんのか、ああ?」
まるでヤクザがメンチを切るように細められた眼差しが俺を射抜いてくる。ハッキリ言って超怖い。
爺さんなのにガタイも結構いいので、俺とそう変わらず長年で培ってきた気迫は凄まじいとしか言いようがなく俺は完全に相手の機嫌を損ねてしまったと痛感した。
「す、すみませんっ! 何と詫びればいいか!」
「けっ、詫びで済むなら警備隊はいらねえんだよ! ああくそ、せっかく今日は調子良かったのによ! 今のでケチがついちまったらどうしてくれんだよ……って、あ? お前さん、もしかしてパン屋の坊主か?」
「あ、そうです。【ふわふわハート】の従業員をしています。本当にいきなり声をかけてしまってすみませんでした!」
完全にこっちが悪いので、俺はただただ謝ることしかできない。
「……ったく、もういい。ガキにいつまでもキレてちゃ、大人がすたるってもんよ。んで、パン屋の坊主が一体何の用だ?」
力任せに鼻息を吹き出し再度釣り竿に餌をつけて湖面に沈めるジョートさん。
「あの、実はですね、先日ジョートさんは《赤百合》を購入されましたよね?」
「あ? 《赤百合》? ……! ああ、そういえばそうだったな。花屋の店長の口車に乗せられてついつい買っちまったっけか」
「その《赤百合》ってまだ部屋に飾ったりしてますか!」
「はあ? 何でそんなこと聞くんだ?」
「実はですね……」
俺はジャンクさんの娘さんの件を掻い摘んで彼に話した。
「――おいおい、マジか。赤ん坊が〝熱血病〟だと?」
「その病気、ご存じなんですか?」
「ああ、俺も昔かかったしな。ありゃ、成長過程によって魔力量が急激に増えたりして、その反動で起こるっつう病気だ。まあ普通は血管も丈夫になってる大人になってからかかるもんだし、寝てりゃすぐに治るんだけどな」
やっぱりテッカ神父の言う通りだったようだ。それにしても赤子で魔力量が急増するとは、あの子は生まれつき多量の魔力を持つことになるということ。もしかしたら将来、かなり優秀な魔術師に育つかもしれない。
「そうか……むぅ」
何か難しい表情を浮かべるので不安が押し寄せてきた。
「ま、まさか今手元にない、とか?」
「い、いや実はなぁ……」
チラリとジュートさんが、自身の傍に置いているバケツの横に置かれている小さな木箱に視線を向かわせたので、自然と俺もそちらを向く。
あれ? この箱って餌が入ってたやつだよな。
先程ジョートさんが中から餌を取り出して釣り針につけたところを確認していた。
ジョートさんが申し訳なさそうに木箱の蓋を取って中を見せてくれる。
入っていたのは赤いはんぺんみたいな塊だった。
「赤い……? ――っ!? ま、まさかこれって……っ」
「う、うむ。例の《赤百合》を練り潰して作った餌なんだよ」
どうやら《赤百合》とやらは水の中でも香りが強いらしく、魚を誘きやすくする効果があるという。だからジョートさんは購入したというわけだ。
それにしてもマジか……。見つけたはいいけどこの状態で使えるもんなのか……?
思わず魚の餌と化してしまった《赤百合》をただただ見つめていると、ジョートさんもボリボリと頭をかきながら「すまんな」と言ってきた。
「い、いえ、仕方ありません。ただもし良かったらこれをもらってもいいでしょうか?」
「? こんなものでもいいのか?」
「無いよりは」
それに……と、ロニカがいる方の空を見上げる。いまだに合図がないところを見ると、ジャンクさんの方も難航しているようだし……。
「すまんな。じゃあ好きにもっていってもいいぞ」
木箱ごと手渡してきたジョートさんに礼を言うと、俺はすぐにその場から離れて人気のない林の中へ入った。
「たとえ余計なものが混ざっててもこれは《赤百合》には違いない。……試してみる価値はある!」
俺は右手を胸の前方へ掲げ、《スアナ工房》への道を開いた。
俺の大声にビクッとしたジョートさんが、咄嗟に釣り竿を持ち上げてしまう。
「ああぁぁぁぁぁぁっ!?」
水中に垂らしていた釣り針が持ち上がり、そこには魚が食いついていたが、しっかり針がかかっていなかったようでそのまま水の中へ落ちてしまった。
明らかに良くないタイミングで声をかけてしまったことに気づいた俺は……。
「あ、あの……ひっ!」
プルプルと全身を怒りのオーラで振るわせながらギロリと三白眼で睨みつけてくるジョートさんに気圧されてしまう。
「おいこら坊主、釣り場では静かにっていうマナーも守れんのか、ああ?」
まるでヤクザがメンチを切るように細められた眼差しが俺を射抜いてくる。ハッキリ言って超怖い。
爺さんなのにガタイも結構いいので、俺とそう変わらず長年で培ってきた気迫は凄まじいとしか言いようがなく俺は完全に相手の機嫌を損ねてしまったと痛感した。
「す、すみませんっ! 何と詫びればいいか!」
「けっ、詫びで済むなら警備隊はいらねえんだよ! ああくそ、せっかく今日は調子良かったのによ! 今のでケチがついちまったらどうしてくれんだよ……って、あ? お前さん、もしかしてパン屋の坊主か?」
「あ、そうです。【ふわふわハート】の従業員をしています。本当にいきなり声をかけてしまってすみませんでした!」
完全にこっちが悪いので、俺はただただ謝ることしかできない。
「……ったく、もういい。ガキにいつまでもキレてちゃ、大人がすたるってもんよ。んで、パン屋の坊主が一体何の用だ?」
力任せに鼻息を吹き出し再度釣り竿に餌をつけて湖面に沈めるジョートさん。
「あの、実はですね、先日ジョートさんは《赤百合》を購入されましたよね?」
「あ? 《赤百合》? ……! ああ、そういえばそうだったな。花屋の店長の口車に乗せられてついつい買っちまったっけか」
「その《赤百合》ってまだ部屋に飾ったりしてますか!」
「はあ? 何でそんなこと聞くんだ?」
「実はですね……」
俺はジャンクさんの娘さんの件を掻い摘んで彼に話した。
「――おいおい、マジか。赤ん坊が〝熱血病〟だと?」
「その病気、ご存じなんですか?」
「ああ、俺も昔かかったしな。ありゃ、成長過程によって魔力量が急激に増えたりして、その反動で起こるっつう病気だ。まあ普通は血管も丈夫になってる大人になってからかかるもんだし、寝てりゃすぐに治るんだけどな」
やっぱりテッカ神父の言う通りだったようだ。それにしても赤子で魔力量が急増するとは、あの子は生まれつき多量の魔力を持つことになるということ。もしかしたら将来、かなり優秀な魔術師に育つかもしれない。
「そうか……むぅ」
何か難しい表情を浮かべるので不安が押し寄せてきた。
「ま、まさか今手元にない、とか?」
「い、いや実はなぁ……」
チラリとジュートさんが、自身の傍に置いているバケツの横に置かれている小さな木箱に視線を向かわせたので、自然と俺もそちらを向く。
あれ? この箱って餌が入ってたやつだよな。
先程ジョートさんが中から餌を取り出して釣り針につけたところを確認していた。
ジョートさんが申し訳なさそうに木箱の蓋を取って中を見せてくれる。
入っていたのは赤いはんぺんみたいな塊だった。
「赤い……? ――っ!? ま、まさかこれって……っ」
「う、うむ。例の《赤百合》を練り潰して作った餌なんだよ」
どうやら《赤百合》とやらは水の中でも香りが強いらしく、魚を誘きやすくする効果があるという。だからジョートさんは購入したというわけだ。
それにしてもマジか……。見つけたはいいけどこの状態で使えるもんなのか……?
思わず魚の餌と化してしまった《赤百合》をただただ見つめていると、ジョートさんもボリボリと頭をかきながら「すまんな」と言ってきた。
「い、いえ、仕方ありません。ただもし良かったらこれをもらってもいいでしょうか?」
「? こんなものでもいいのか?」
「無いよりは」
それに……と、ロニカがいる方の空を見上げる。いまだに合図がないところを見ると、ジャンクさんの方も難航しているようだし……。
「すまんな。じゃあ好きにもっていってもいいぞ」
木箱ごと手渡してきたジョートさんに礼を言うと、俺はすぐにその場から離れて人気のない林の中へ入った。
「たとえ余計なものが混ざっててもこれは《赤百合》には違いない。……試してみる価値はある!」
俺は右手を胸の前方へ掲げ、《スアナ工房》への道を開いた。
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