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ベビーベッドでは、つい数分前とは打って変わって心地好さそうな表情で眠っている小さな命があった。
赤い腫れは引き、弾力ある白い肌は艶々としていて健康状態が良好だということが一目で分かる。
「――――うん、もう大丈夫でしょう」
テッカ神父の診断を聞いて、俺たちは盛大に安堵の溜め息を目一杯吐き出す。
特にジャンクさんとマインさんは大手を振って喜び、すぐに我が子の手を握り涙を流し始める。
俺は隣に立っているロニカと目を合わせると、彼女もまた笑みを浮かべながらコクンと頷く。
「ありがとうございます! ありがとうございます! 何とお礼を言っていいか!」
マインさんがテッカ神父に向かって土下座をしながら礼を尽くす。
「そ、そんな! 私よりも頑張ってくれたのは素材を探すために走り回ったジャンクさんやクロメさん、そして治癒魔術をかけ続けてくれたロニカさんです。お礼を言うのであれば、彼らにお願いします」
するとマインさんとジャンクさんが、俺とロニカに身体ごと向けて頭を下げてきた。
「「本当にありがとうございました!」」
俺たちは素直に彼らの感謝を受けた。
「あ、そうだ。もしまた〝熱血病〟が再発したら、これを飲ませてあげてください」
俺は小袋をジャンクさんに手渡した。その中には当然赤ん坊を救った特効薬が幾つか入っている。
ジャンクさんは受け取ると「この恩は絶対に忘れない」と口にし、再度礼を言ってきた。
こうして予期せぬ事態に巻き込まれながらも、問題なく事が済んだことに俺たちはホッと息を吐き、ジャンクさん宅から外へ出たのである。
テッカ神父が何か飲み物でも奢ろうというので、お言葉に甘えて喫茶店へ向かった。
ロニカはそこで《チョコレートの盛り合わせ》を頼み堪能しつつ、俺は紅茶を御馳走になることに。
するとテッカ神父が、俺への質問が放たれる。
「それにしても本当に薬を作れたのですね、クロメくんは」
「何ですか、信じてなかったんですか?」
「あはは、すみません。そういうわけではなく、薬の知識まであるとはと驚いているだけです」
とは彼の見解ではあるが、正直薬作りの知識などない。
単に《スアナ工房》の力を使っただけに過ぎないのだから。
壺に素材を突っ込み、あとは魔力を注ぐだけ。
助かったのは運に近いものがあるといえるだろうが。
何せあのジョートさんからもらった餌だが、成分が特効薬を作るものと同じだったのだ。
故に何の障害もなく作ることができたというわけ。
もし余分なものが混ざっていたのであれば、きっとああも上手く特効薬を完成することはできなかっただろう。
とはいっても、手がないわけではない。
あの赤いはんぺんみたいな餌を壺の中に入れて、分離させて各個の素材を手に入れることも可能だから、まずそれを行えば最終的には薬はできた。
しかし分離させるのには時間もかかるし、あとはロニカ次第だったが。
とにもかくにも上手くことが運べて何よりだ。
「ロニカも頑張ってくれたようで、ありがとな」
「フッフッフ、こんだけロニカを働かせたんだから、しばらく仕事は無しでいいよね?」
「あ、あのな……」
「あ~あ、魔力い~っぱい使ったから疲れたなぁ」
コイツ……何てわざとらしい! 全然疲れてないくせに……っ!
「あはは、しかしロニカさんはさすがでした。本当に彼女のお蔭で助かったのですから」
「そこまででいいですよ。あまり言うと調子に乗るだけですから、このダメニートは」
「こらぁ、誰がダメだ! そこはスペシャルを付けろぉ!」
「お前な、ニートは認めるのかよ」
「フフン、ロニカはプロのニートだからね!」
そんなものに資格なんてあるわけがねえだろうが……。アマもプロも関係ねえ。
「相変わらず仲が良いです。いえ、お二人の絆の強さを再確認させて頂いた今日この頃でしたね」
スッと彼は立ち上がると、伝票を持つと、
「ではごゆっくりしてください。また近々お礼を。今日は本当にありがとうございました」
そう言って精算をして店から出て行った。
あ、そうだ。一応ジョートさんにも赤ん坊を助けられたことを報告に行かなきゃなぁ。
そう思っていると、ゴロンと膝の上に何かが乗ってきた。
見るとロニカの頭である。口元を汚しながらすでに彼女は夢の中だった。
俺は布巾で口元を拭いながら微笑み、彼女の頭を撫でる。
「お疲れさん、ご主人様」
柄にもなく本気を出して気疲れしたのだろう。
俺は彼女を背負う。
コイツが小さな命を見捨てるわけがないことは分かっていた。
それはかつて助けられた俺がよく知っている。
俺の場合はすでに瀕死状態だったしなぁ。
ロニカ曰く、傷の具合から他の生物にやられたということ。俺がいた場所は、何でも凶暴な生物の群生地だったらしく、いざこざなども結構起こっていたようなので、その争いに巻き込まれたのではという。
放っておけば確実に死んでいたと彼女は言った。
「さてと、今日はコイツの好物でも作りますかね」
俺は上機嫌のままゆっくりとした足取りで家へと帰っていった。
赤い腫れは引き、弾力ある白い肌は艶々としていて健康状態が良好だということが一目で分かる。
「――――うん、もう大丈夫でしょう」
テッカ神父の診断を聞いて、俺たちは盛大に安堵の溜め息を目一杯吐き出す。
特にジャンクさんとマインさんは大手を振って喜び、すぐに我が子の手を握り涙を流し始める。
俺は隣に立っているロニカと目を合わせると、彼女もまた笑みを浮かべながらコクンと頷く。
「ありがとうございます! ありがとうございます! 何とお礼を言っていいか!」
マインさんがテッカ神父に向かって土下座をしながら礼を尽くす。
「そ、そんな! 私よりも頑張ってくれたのは素材を探すために走り回ったジャンクさんやクロメさん、そして治癒魔術をかけ続けてくれたロニカさんです。お礼を言うのであれば、彼らにお願いします」
するとマインさんとジャンクさんが、俺とロニカに身体ごと向けて頭を下げてきた。
「「本当にありがとうございました!」」
俺たちは素直に彼らの感謝を受けた。
「あ、そうだ。もしまた〝熱血病〟が再発したら、これを飲ませてあげてください」
俺は小袋をジャンクさんに手渡した。その中には当然赤ん坊を救った特効薬が幾つか入っている。
ジャンクさんは受け取ると「この恩は絶対に忘れない」と口にし、再度礼を言ってきた。
こうして予期せぬ事態に巻き込まれながらも、問題なく事が済んだことに俺たちはホッと息を吐き、ジャンクさん宅から外へ出たのである。
テッカ神父が何か飲み物でも奢ろうというので、お言葉に甘えて喫茶店へ向かった。
ロニカはそこで《チョコレートの盛り合わせ》を頼み堪能しつつ、俺は紅茶を御馳走になることに。
するとテッカ神父が、俺への質問が放たれる。
「それにしても本当に薬を作れたのですね、クロメくんは」
「何ですか、信じてなかったんですか?」
「あはは、すみません。そういうわけではなく、薬の知識まであるとはと驚いているだけです」
とは彼の見解ではあるが、正直薬作りの知識などない。
単に《スアナ工房》の力を使っただけに過ぎないのだから。
壺に素材を突っ込み、あとは魔力を注ぐだけ。
助かったのは運に近いものがあるといえるだろうが。
何せあのジョートさんからもらった餌だが、成分が特効薬を作るものと同じだったのだ。
故に何の障害もなく作ることができたというわけ。
もし余分なものが混ざっていたのであれば、きっとああも上手く特効薬を完成することはできなかっただろう。
とはいっても、手がないわけではない。
あの赤いはんぺんみたいな餌を壺の中に入れて、分離させて各個の素材を手に入れることも可能だから、まずそれを行えば最終的には薬はできた。
しかし分離させるのには時間もかかるし、あとはロニカ次第だったが。
とにもかくにも上手くことが運べて何よりだ。
「ロニカも頑張ってくれたようで、ありがとな」
「フッフッフ、こんだけロニカを働かせたんだから、しばらく仕事は無しでいいよね?」
「あ、あのな……」
「あ~あ、魔力い~っぱい使ったから疲れたなぁ」
コイツ……何てわざとらしい! 全然疲れてないくせに……っ!
「あはは、しかしロニカさんはさすがでした。本当に彼女のお蔭で助かったのですから」
「そこまででいいですよ。あまり言うと調子に乗るだけですから、このダメニートは」
「こらぁ、誰がダメだ! そこはスペシャルを付けろぉ!」
「お前な、ニートは認めるのかよ」
「フフン、ロニカはプロのニートだからね!」
そんなものに資格なんてあるわけがねえだろうが……。アマもプロも関係ねえ。
「相変わらず仲が良いです。いえ、お二人の絆の強さを再確認させて頂いた今日この頃でしたね」
スッと彼は立ち上がると、伝票を持つと、
「ではごゆっくりしてください。また近々お礼を。今日は本当にありがとうございました」
そう言って精算をして店から出て行った。
あ、そうだ。一応ジョートさんにも赤ん坊を助けられたことを報告に行かなきゃなぁ。
そう思っていると、ゴロンと膝の上に何かが乗ってきた。
見るとロニカの頭である。口元を汚しながらすでに彼女は夢の中だった。
俺は布巾で口元を拭いながら微笑み、彼女の頭を撫でる。
「お疲れさん、ご主人様」
柄にもなく本気を出して気疲れしたのだろう。
俺は彼女を背負う。
コイツが小さな命を見捨てるわけがないことは分かっていた。
それはかつて助けられた俺がよく知っている。
俺の場合はすでに瀕死状態だったしなぁ。
ロニカ曰く、傷の具合から他の生物にやられたということ。俺がいた場所は、何でも凶暴な生物の群生地だったらしく、いざこざなども結構起こっていたようなので、その争いに巻き込まれたのではという。
放っておけば確実に死んでいたと彼女は言った。
「さてと、今日はコイツの好物でも作りますかね」
俺は上機嫌のままゆっくりとした足取りで家へと帰っていった。
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