ペット転生 ~飼い主がニートエルフな件に困りまして~

十本スイ

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「やったねぇ、ご主人! さすがは僕の主様だよぉ! これであと一つ勝てばクロクロは僕たちのもんだねぇ!」

 クロメたちがトイレに立ってからすぐにゼリスが満面の笑みで近づいてきた。
 ヴァインは眉をひそめたままやれやれという感じで首を左右に振っている。
 彼の態度を見ればやはり気づいているのだと理解できた。

「…………ゼリス」
「ん~? どったのさぁ、そんな怖い顔してぇ」
「……そなた、手を出したな?」
「っ…………ナンノコトカナァ、ゼリスチャン、シラナイ」
「片言じゃし一人称変わっておるし、誤魔化すなら相手の目から逸らす出ないわ愚か者」

 コイツは他人に対しては強く出られるしポーカーフェイスも貫けるが、何故か余が問うと酷く動揺する。だからすぐに嘘だということも見抜けるのだ。

「先程イスタリが最後に引いたカード。そこにあったのは間違いなくクラブの8だったはずじゃ」
「ふ、ふ~ん、それって記憶違いじゃないのぉ?」
「見縊るでないわ。十秒もあれば、50枚程度のカードの数字の暗記など困難ではない。そして恐らくあやつもそうであろう。じゃから勝負は100枚以上になってから、そう思っておった。しかし……あやつは……いや、余も含め認識がずれておった」
「でもでもぉ、僕が何かしたって証拠は無いんじゃない? ほら、クロクロかもしんないしぃ~」

 あの真面目が服を着て歩いているようなクロメがそんなことをするわけがないであろうが。

「……認めぬのか?」
「だ、だから僕じゃなくてぇ」
「では今後余の私物、及び余に触れることは一切禁ずる。側近も解消――」
「は、はい! 僕ことゼリスがやっちゃいました! それはもう全身全霊で認めさせて頂きますっ!」
「やはり貴様か愚か者ぉ!」
「ぶへぅんっ!?」

 強烈なビンタをゼリスの左頬に叩き込んでやった。

「ふ、ふぐぅ……ひ、ひはいほぉ……っ」
「当然じゃ! その痛みは貴様への罰じゃ! 反省せよ!」

 床にペタリと座り込み、腫れた左頬をゼリスが涙目で擦っている。

「よいか! 今回は大目に見るが、次に変なことをしたらその首が飛ぶと思え! あやつとは真っ向から勝負をして、トマトを踏み潰すがごとくプチッとしてやるのじゃ! 余計なことはするでない!」
「主、それでは相手が死ぬかと」
「ヴァイン! そなたもそいつを監視し、今度何かしようものなら止めぃ! これは命令じゃ!」
「は、仰せのままに。しかし一つ」
「む? 何じゃ?」
「こやつは褒められたものではないですが、すべては主のことを思い、主に勝利を与えたいためにしたこと。それだけは分かってやってください」
「む、むぅ……」

 確かにゼリスは余に仕えてからというもの、その変質者ばりの奇行に頭を悩まされているものの、実力はあるし大いに余の役には立っている。

「…………はぁ。ゼリスよ」
「……ふぁい」
「真の臣下ならば、余の勝利を信じておけ。そなたならそれができる。期待しておるぞ!」
「! は、はい!」

 しょんぼりしていた彼女だったが、すぐに花が咲いたような笑顔を見せる。
 本当に単純な奴じゃな。こやつも普段からこう素直であれば可愛げがあるものの。
 あと例の性癖が無ければもっと重用できるのに……。
 そこへトイレから二人が戻ってきたので、余は彼女たちを見やる。

「ずいぶんと長いトイレじゃったのう」
「うん、さっき食べた朝食が当たったんじゃない? 食材管理が杜撰だったりしてね」
「フン、減らず口を」

 やはりこやつ……こちらのルール違反に気づいておるな。
 それでも敢えて指摘はせぬ、か。
 もし指摘してくるようならば敗北を認めるのも致し方ないと思うておったが、そうか……そなたは真の決着をつけることにこだわるというわけか。……面白い。
 ならばこちらも全力で最後のゲームに臨もうぞ。

「クロメ! 最後の第三番――パズルゲームを始めよ!」
「はい。ではご用意しますので、少しの間、お待ちください」
 これでどちらが勝つか決定する。

 余はどのような勝負であろうと常勝無敗の精神で戦う。
 そして必ず勝って、クロメを手に入れてみせる。
 クロメが部屋の隅に置いている布を被せた台車を押してテーブルへと近づいてきた。

 布を彼が取ると、台車の上には鍵がかかった大きな宝箱のようなものが載せられている。
 クロメが鍵を外し、蓋を開けてから中に入っているものを取り出しテーブルに並べていく。
 それぞれ余とイスタリの前に、三つの違う物体を用意すると、クロメが説明に入る。

「えーでは第三番勝負についての説明をします。今お二方の手前にあるのは、右から《知恵の輪》、《魔方陣》、《シルエットパズル》の三つ。それぞれどの順番でもいいので、完成させその時間を競います。それぞれのパズルのルールは事前にお伝えした通りですから」

 ふむ。確かに事前に説明は受けていた。
 この中で時間がかかるとすればどれか……。
 余は盗み見る感じでパズルに視線を落としているイスタリを見る。

 恐らくこういうゲームはやり慣れているはず。余もそれを理解して敢えてそれに乗った。その上で勝利すれば、もう何も言えなくなると思ったからだ。
 昨日ルールを聞いてから攻略法についてはいろいろ考えた。その中でやはり《シルエットパズル》が一番困難だと思う。

 ククク、年甲斐もなくワクワクしてきおった。この勝負、必ず余が勝つ。



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