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書を読み始めて、気づけばすでに夜闇が外を支配していた。
相当集中していたのか、感覚では三時間以上は文字を目で追っていた気分だ。
――ぐるるるるぅ。
やはり特別な『ニホン人』という種族でも腹は空くようだ。
しかし周りを見回しても食べ物らしきものは何一つない。このままではいずれ飢え死にしてしまう。
シンカは肌寒い寒気を体中に浴びながら、外を散策することに。
しかし外へ出た瞬間、何か異様な雰囲気を察した。まるでそこかしこに獣がいて、自分が獲物としてロックオンされているかのような不安を煽るような空気を感じる。
明るいうちにここへ来た時は、一切感じなかったのに何故……と思ったが、とにかく腹が減って死にそうなので、空気感を無視して歩き回った。
建物の入り口のようなものを発見し、その中へ入っていくと突如異臭が鼻を刺激する。
幾つか部屋があり、臭いの原因を探しつつ一つの部屋に入る。
ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ。
まさにゴミ屋敷がごとく、かなり大きい部屋の中を埋め尽くす感じでゴミが散乱している。ゴミ山も複数あり、足の踏み場などない。
そしてその中には……。
「! ……これは、骨?」
獣か人かは分からないが、捜せば細長く白い骨があちこちにある。腐った肉や血のニオイもするので、顔をしかめながら周囲を見回していると――ガサガサ。
一つのゴミ山から音が聞こえ、咄嗟に意識を向ける。
するとゴミ山の陰から小さな人影が二つほど、拾ったゴミを抱きしめながら出てきた。
「「「あ……」」」
三人は視線が合い、ついハモってしまう。
一人は十歳くらいの少年で、もう一人はシンカとそう変わらない少女。
「っ! な、何だよお前! コレは俺たちが見つけたんだからな!」
そう言って、獲得したゴミを後ろ手に隠す少年。少女は怯えた様子で少年の背に隠れている。
(あれ? 言葉が通じる?)
記憶にある言語のうち、確実に理解できるのは日本語だけ。
しかし目の前の少年から発せられるのは確かに日本語のように聞こえてくる。ただ発生と言葉が合っていないので、どこかチグハグしたものを感じた。
それでも会話ができるということはありがたいので、それほど気にはしないことにする。
「……いや、別にそんなものいらないし」
「は、はあ? そんなものだとぉ!」
「お、おにいちゃん、おおごえだしたらダメだよぉ」
どうやら少年は少女の兄のようだ。つまり兄妹。
そう言われれば二人は似ている。
どちらも空を思わせるような髪色をしていて、瞳はエメラルドグリーンだ。ただし頭の上にはピンと張った獣耳が突き出ていて、臀部近くからはフサフサな毛に覆われた尻尾も生えている。
(ふぅん、コイツらが『獣人族』……亜人ってわけだね)
初めて出会う自分以外の〝人〟という存在に、表情には出さずとも少しだけ感動を覚える。
「あんたら、こんなとこで何してるの?」
「何してるって、見て分っかんねーのかよ! 売れるものを探してたんだよ!」
「……売れるもの? こんな場所に店なんてあるの?」
廃墟のようにしか見えないのだが……。
「……お前何にも知らねーんだな……って、とにかく話はあとだ! おいお前、何だか新入りっぽいし、話がしてーんならついてこい!」
そう言いながら、少年は少女の手を引いて足早に去っていく。
さて、どうしたものか。別についていく必要はないのだが……。
しかし初めて出会う亜人からも何か情報が得られるなら、と思いあとをつけることにした。
彼らは建物内にあった通気口のような場所から中へと入っていく。十歳の子供なら何とか通れるほどの大きさである。
シンカも同じように狭い道ではあるが、這って進んでいく。
しばらくすると目の前に明かりが見えてきて、その先に部屋があることが分かる。
そこは六畳一間ほどの、天井も低い小部屋であり、出入り口は通気口と格子のついた小さなガラス窓があり、塔の外を見渡せるようになっていた。唯一の正規ルートである扉は溶接されているかのように開閉ができないようになっている。
他には二つのランタンと、何が入っているか分からない段ボールが山積みにされていて、ボロボロの廃材で作ったであろうベッドらしきものもあった。
「……ずいぶん狭いし、埃っぽい部屋だ。身体に悪いな」
部屋を見ての第一声に、少年がキレた。
「お前な、ガキだからって言っていいことと悪いことがあんだぞ!」
「ガキはあんたもでしょ。というより、そこの連中は何?」
シンカは部屋の中には、他に二名がいるのを発見していた。どちらも少年である。齢は大体七歳くらいだろうか。床に敷いた段ボールの上に座っている。
「な、なあジュダ、何なのさそいつ?」
「何かすっげえ偉そうなんだけど……。黒髪ってのも初めて見るし」
初顔見えの二人は、シンカの態度に不満らしい。あと黒髪黒目というのは、こちらの世界ではかなり珍しい特性である。ただ存在しないわけではないので、そこから『ニホン人』だと結びつけることもないだろう。
「さあな。何かゴミ山にいた。多分新顔だ。おいお前、名前あんのか?」
「教えるつもりはないんだけど」
「んなっ!? だ、だったらこっちも教えねえぞ!」
「ジュダだろ、あんた」
「!? ななななな何で知ってんだぁ!?」
「いや、さっきそこの坊主頭1が言ってたし」
彼の名を呼んだ少年の頭が坊主頭だったから、分かりやすくそう呼んだのだが、当の本人は「坊主頭1っ!?」とショックを受けているようだった。ちなみにその傍に座っている少年も坊主頭なので、「お、俺……2?」と自分を指差している。
相当集中していたのか、感覚では三時間以上は文字を目で追っていた気分だ。
――ぐるるるるぅ。
やはり特別な『ニホン人』という種族でも腹は空くようだ。
しかし周りを見回しても食べ物らしきものは何一つない。このままではいずれ飢え死にしてしまう。
シンカは肌寒い寒気を体中に浴びながら、外を散策することに。
しかし外へ出た瞬間、何か異様な雰囲気を察した。まるでそこかしこに獣がいて、自分が獲物としてロックオンされているかのような不安を煽るような空気を感じる。
明るいうちにここへ来た時は、一切感じなかったのに何故……と思ったが、とにかく腹が減って死にそうなので、空気感を無視して歩き回った。
建物の入り口のようなものを発見し、その中へ入っていくと突如異臭が鼻を刺激する。
幾つか部屋があり、臭いの原因を探しつつ一つの部屋に入る。
ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ。
まさにゴミ屋敷がごとく、かなり大きい部屋の中を埋め尽くす感じでゴミが散乱している。ゴミ山も複数あり、足の踏み場などない。
そしてその中には……。
「! ……これは、骨?」
獣か人かは分からないが、捜せば細長く白い骨があちこちにある。腐った肉や血のニオイもするので、顔をしかめながら周囲を見回していると――ガサガサ。
一つのゴミ山から音が聞こえ、咄嗟に意識を向ける。
するとゴミ山の陰から小さな人影が二つほど、拾ったゴミを抱きしめながら出てきた。
「「「あ……」」」
三人は視線が合い、ついハモってしまう。
一人は十歳くらいの少年で、もう一人はシンカとそう変わらない少女。
「っ! な、何だよお前! コレは俺たちが見つけたんだからな!」
そう言って、獲得したゴミを後ろ手に隠す少年。少女は怯えた様子で少年の背に隠れている。
(あれ? 言葉が通じる?)
記憶にある言語のうち、確実に理解できるのは日本語だけ。
しかし目の前の少年から発せられるのは確かに日本語のように聞こえてくる。ただ発生と言葉が合っていないので、どこかチグハグしたものを感じた。
それでも会話ができるということはありがたいので、それほど気にはしないことにする。
「……いや、別にそんなものいらないし」
「は、はあ? そんなものだとぉ!」
「お、おにいちゃん、おおごえだしたらダメだよぉ」
どうやら少年は少女の兄のようだ。つまり兄妹。
そう言われれば二人は似ている。
どちらも空を思わせるような髪色をしていて、瞳はエメラルドグリーンだ。ただし頭の上にはピンと張った獣耳が突き出ていて、臀部近くからはフサフサな毛に覆われた尻尾も生えている。
(ふぅん、コイツらが『獣人族』……亜人ってわけだね)
初めて出会う自分以外の〝人〟という存在に、表情には出さずとも少しだけ感動を覚える。
「あんたら、こんなとこで何してるの?」
「何してるって、見て分っかんねーのかよ! 売れるものを探してたんだよ!」
「……売れるもの? こんな場所に店なんてあるの?」
廃墟のようにしか見えないのだが……。
「……お前何にも知らねーんだな……って、とにかく話はあとだ! おいお前、何だか新入りっぽいし、話がしてーんならついてこい!」
そう言いながら、少年は少女の手を引いて足早に去っていく。
さて、どうしたものか。別についていく必要はないのだが……。
しかし初めて出会う亜人からも何か情報が得られるなら、と思いあとをつけることにした。
彼らは建物内にあった通気口のような場所から中へと入っていく。十歳の子供なら何とか通れるほどの大きさである。
シンカも同じように狭い道ではあるが、這って進んでいく。
しばらくすると目の前に明かりが見えてきて、その先に部屋があることが分かる。
そこは六畳一間ほどの、天井も低い小部屋であり、出入り口は通気口と格子のついた小さなガラス窓があり、塔の外を見渡せるようになっていた。唯一の正規ルートである扉は溶接されているかのように開閉ができないようになっている。
他には二つのランタンと、何が入っているか分からない段ボールが山積みにされていて、ボロボロの廃材で作ったであろうベッドらしきものもあった。
「……ずいぶん狭いし、埃っぽい部屋だ。身体に悪いな」
部屋を見ての第一声に、少年がキレた。
「お前な、ガキだからって言っていいことと悪いことがあんだぞ!」
「ガキはあんたもでしょ。というより、そこの連中は何?」
シンカは部屋の中には、他に二名がいるのを発見していた。どちらも少年である。齢は大体七歳くらいだろうか。床に敷いた段ボールの上に座っている。
「な、なあジュダ、何なのさそいつ?」
「何かすっげえ偉そうなんだけど……。黒髪ってのも初めて見るし」
初顔見えの二人は、シンカの態度に不満らしい。あと黒髪黒目というのは、こちらの世界ではかなり珍しい特性である。ただ存在しないわけではないので、そこから『ニホン人』だと結びつけることもないだろう。
「さあな。何かゴミ山にいた。多分新顔だ。おいお前、名前あんのか?」
「教えるつもりはないんだけど」
「んなっ!? だ、だったらこっちも教えねえぞ!」
「ジュダだろ、あんた」
「!? ななななな何で知ってんだぁ!?」
「いや、さっきそこの坊主頭1が言ってたし」
彼の名を呼んだ少年の頭が坊主頭だったから、分かりやすくそう呼んだのだが、当の本人は「坊主頭1っ!?」とショックを受けているようだった。ちなみにその傍に座っている少年も坊主頭なので、「お、俺……2?」と自分を指差している。
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