どうやらオレは滅びたはずの最強種らしい ~嘘使いの世界攻略~

十本スイ

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 ――一カ月後。

 晴れてジュダたちのコミュニティに所属したシンカは今、ジュダと二人で【フールタウン】という場所へやって来ていた。
 まるで迷路のように入り組んだ通路には、怪しげな暖簾を掲げた店や露天商などが売買を行っている。

 ジュダの手には少し破れた袋が握られていて、その中にはシンカたちの生命線とも呼ぶべき代物が入っていた。
 ジュダが木材でできた扉の前で立ち止まる。小さな看板が壁に掛けられていて、【グレイの店】とだけ無作法に書かれていた。
 扉を開けて入るジュダの後ろからシンカはついていく。

 中は薄暗く、本棚などが部屋を圧迫して狭さを余計に助長している。
 真っ直ぐ伸びた通路の先にはカウンターがあり、その奥には椅子に腰かけ《ニュースペーパー》――いわゆる新聞紙を読んでいる男性がいた。この店の店主――グレイだ。

「コレを食べ物と分けてもらいてーんだけど」

 ぶっきらぼうにカウンターに袋を乗せてジュダが言うと、グレイはやれやれといった様子で欠伸をしながら袋の中身をチェックしていく。

「……ほう、小さいが鉄鉱石の塊か。それにこっちは《オーキッドマウスの牙》が二つに《イエローバットの羽》が三枚か。これなら食パン一斤ってとこかい」
「なっ!? この前はそれで食パン二斤と果物がついたはずだぞ!」
「ハハハ、レートは常に天秤だ。日によって安くもなりゃ高くもならぁな」

 実際に他の店でも毎日値は変動している。ほとんどが店主の気まぐれではあるが。

「嫌なら帰りな、ジュダ坊や」
「ぐっ……っ」
「……ジュダ」
「ああ、分かってるよ! それでいいからさっさとくれっ」
「あいよ、まいどあり~」

 ここで粘っても結局値下げ交渉は成立しない。素直に交換しておいた方が揉め事にならずに済む。もし揉め事を起こせば、出入り禁止になるばかりか、その情報が他の店にまで回ってしまい、交換すら誰もしてくれなくなるのだ。
 ただしあまり弱みを見せ続けても、足元をみられるだけでこちらが辛くなる一方である。

(少々敵討ちでもしておくか)

 カウンターの奥から食パン一斤を持ってきたグレイが、こちらが用意した素材に手を伸ばそうとしたその時、

「――あぁ、そういえば店主」

 いきなりシンカが声をかけたので、手を止めて「あ?」とシンカの目を見つめてきた。

「確か先日、上から降りてきた連中がこの店の噂をしていたのを聞いた」
「噂?」
「うん。何でも店主は領域外の連中にも品を流しているとか。特に薬関係を」
「! ……何のことだ?」

 明らかに不自然なほど平静さを保とうとしている様子が手に取るように分かった。

「この領域で店を開く許可は、エリア内を統治するボスが出す。ここでいうと、ザラードだ」

 塔には階層によって、それぞれ区分化され領域と呼ばれている。そしてその領域を統治している領域長という存在がいるのだ。
 領域長は絶対で、逆らうと良くて拷問された上の追放、最悪殺されてしまう。

 シンカたちが住む領域を治めているのがザラードという男である。
 彼は六十一階層~七十階層を統治する領域長で、このグレイの店があるのは六十六階層だ。
 ちなみにシンカたちのホームがあるのは六十五階層である。

「おいガキ、ザラードさんだ! 失礼だろうが!」
「へぇ、じゃあその偉いザラードさんとやらに黙って他領域の連中に薬を流すのは失礼じゃないの? しかもよりによって上の連中に、だ」
「だ、だから何のことを言ってるか分かんないねぇ」
「そうか。じゃあこのことを領域長に報告を――」
「ま、待て!」

 隣ではそわそわしながら成り行きを見守っているジュダがいる。

「…………何が望みだ?」
「食パン十斤」
「っ! そ、それはぼったくりだろうが!」
「……じゃあ八斤」
「よ、四でどうだ!」
「……七」
「くっ……五、五斤だ! それ以上は俺も腹をくくる!」
「ハハ、いい店だね。まいど」

 こうしてシンカたちは、明らかにこちらが有利な物々交換を成立させたのだった。

「お、お前なぁ……っ、寿命が縮まったぜ!」

 ぐったりと項垂れたグレイにおざなりの挨拶をしてから店を出たあと、ジュダが胸を押さえつつ額から大粒の汗を流していた。

「何だよ、得をしたんだからそれでいいでしょ」
「とは言ってもよぉ、いきなり脅し始めるからビックリしたぞ。もし失敗してたら最悪殺されてたかも……」
「弱気だね。交渉ってのは相手の弱みを突かないと」
「というよりもさっき言ってたことは本当のことなんだろうな?」
「いいや、ただのカマかけだね」
「はぁ、つまりは嘘かぁ……って、嘘かよぉっ!?」
「いきなり大声出さないでよ。耳が痛い」
「お、お前……カマかけたって……マジかよ」
「こんな場所に店を開いてる連中なんだ。どんな奴にも脛に傷があってもおかしくない。誰だって自分が儲けるために出し抜こうとしてるんだから。特に薬関係は高価で取引される」

 だからこそ、リスクを背負いつつ自分が誰よりも楽ができるように行動している。特に商売をしている連中は、陰で何をやっているか分かったものではない。
 それはここ一ヵ月で、ここら周辺を調査して判断したことだ。


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