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――その日、シンカはニヤのお守りとして残ったジュダの代わりに、代役リーダーとして弾丸ブラザーズを連れて、昼間に狩ったモンスターの素材と食材を交換してもらうために、グレイの店へ向かっていた。
二人には店の前で待っていてもらい、一人で店へ入っていくシンカ。
グレイはシンカの顔を見ると明らかに不機嫌そうな面相をする。
「また来やがったのか、シンカ坊や」
「うん、これで食料を交換してほしくてね」
「……ちっ、よくもまあガキのくせにこれだけの素材を獲ってこれるな」
「別に盗品だろうが正規品だろうが、あんたにとっては関係ないでしょ?」
「相変わらず口の減らねえガキんちょだ。じゃあ確認させてもらう」
素材の入った袋を彼に手渡し、しばらく待機しながら周りを見回す。いつも部屋を圧迫するように立てられていた本棚の幾つかがなくなっていて、幾分かスッキリしている。
「……引っ越しでもするの?」
「あ? ああ、内装のことか。この前〝野蛮な毛皮衆〟が来てそこらへんのものを勝手に持っていきやがったんだよ。ったく、薬がないといつもこうだ」
どうやら奴らが現れた時に、満足のいく薬を提供できなかったようだ。その代わりに部屋にあるものを奪っていったという。
ただこんなことはここでは日常なので誰も不満を公にしない。すれば殺されるから。
弱い者は結局泣き寝入りするしかないのだ。領域長だって上の連中と真正面から喧嘩をするわけにはいかないだろうから、見て見ぬフリをしている。
するとそこへ、大慌てをしながら店の中へダンとガンが入ってきた。
「シンカッ、大変だぁ!」
「ダン? どうしたの?」
一瞬脳裏に〝野蛮な毛皮衆〟が浮かび表情を強張らせてしまう……が、
「――――――邪魔するぜ」
言葉と同時に店へ入ってきたのは、一人の巨漢な男。青髪のオールバックで、特徴としては眉がなくていかつさが増している目つきと、熊のような身体つきだろう。
肌は褐色気味で、耳が上向きに尖っている。間違いなく『魔族』だ。
シンカはその男のことを知っていた。
「っ! こ、これはこれはザラード領域長!」
すぐさま媚びを売るような表情を浮かべて、大男の傍に寄るグレイ。
(ザラード領域長……か)
ここら一帯を取り仕切るリーダーであり、完全な武闘派だというのは一目で分かる。
彼に逆らえば、領域から追い出されるか殺されてしまう。ほとんど後者の場合が多い。
そんな誰もが恐怖対象として接する存在が、後ろに幾人かの部下を引き連れてやってきていた。
どうやら彼の訪問を弾丸ブラザーズたちは知らせようと入ってきたらしい。ブラザーズは、ザラードの機嫌を損ねないように隅の方で大人しくしている。
「おう、グレイ。久しぶりじゃねえか、なあ」
「は、はい。こんなむさ苦しいところにおいでくださって感謝感激でございます!」
「ふん……そんなおべんちゃらはどうでもいいんだよ。今日はお前に聞きたいことがあって来ただけだしな」
「き、聞きたいこと……ですか?」
「ああ……ん? ていうかそのガキどもは何だ? あまり見かけねえが」
すると部下の一人がザラードに耳打ちをした。
「…………ほう、最近噂になってるガキどもだったのか」
ギロリと鋭い眼差しでシンカたちを観察し始めるザラード。だがすぐに興味を失せたように視線を切り、再度グレイへ意識を向けた。
「さて、グレイ。お前……上の連中と付き合いがあるらしいじゃねえか」
「っ!? そ、そんなことあるわけないじゃありませんかっ!」
「ほう、そうか?」
「そうですよ! 奴らにはただ奪われてるだけで、こっちも迷惑して――」
息を呑んだ音がグレイから聞こえた。ザラードが部下から静かに受け取った透明の小袋をグレイに見せたのが理由である。
(あれは……?)
袋の中には白い粉状のものが入っていた。
「コレが何か、お前なら分かるよな?」
「そ、それはその……っ」
明らかに動揺を見せるグレイ。それはまるで刑事が犯人に証拠を突き付けて追い詰めているようだ。
「上手く誤魔化そうとしてたみてえだが、最近俺が会った上の連中から面白え話を聞き出せた」
ブルブルブルブルと身体を小刻みに震わせながら、滝のように冷や汗を流すグレイの顔色はもう真っ青だ。
「何でもこの薬はある奴から買ったらしい。……奪った、じゃなくてな」
シンカは彼が上の連中と取り引きをしていることを知っていたので、別段驚きはない。とうとうバレたのか、という程度の感情だ。
というよりもよく今まで隠し通せたなと感心できるものもあった。
「……奪われたんなら仕方ねえ。けど……売ったってのはどういうことだ、ああ?」
「ち、違うんです! 俺は脅されて……っ!」
「なら正直にそのことを俺に言えば良かっただろうが。俺がこの前、部下にこの店に視察に向かわせた時、お前は上と取り引きしたことは一切ないって言ってる」
「で、ですから言えば殺すって……」
「んなわけねえだろうがよぉっ!」
「ひィィィィッ!?」
ザラードが怒りに任せて振り回した拳が壁に穴を開けた。とんでもない威力である。
「お前を脅す? んなことを奴らがするか? 何のためにするんだ、おお? 奴らにとっちゃ、バレようが何しようがどうだっていい。奴らは俺ら下の者を虫けらにしか思っちゃいねえ。虫を脅す? ありえねえだろ、そりゃ」
どんどんと追い詰められていくグレイ。ザラードの気迫に押され、壁を背にして立っている。いや、背にしなければ今すぐにでも倒れてしまいそうだ。
二人には店の前で待っていてもらい、一人で店へ入っていくシンカ。
グレイはシンカの顔を見ると明らかに不機嫌そうな面相をする。
「また来やがったのか、シンカ坊や」
「うん、これで食料を交換してほしくてね」
「……ちっ、よくもまあガキのくせにこれだけの素材を獲ってこれるな」
「別に盗品だろうが正規品だろうが、あんたにとっては関係ないでしょ?」
「相変わらず口の減らねえガキんちょだ。じゃあ確認させてもらう」
素材の入った袋を彼に手渡し、しばらく待機しながら周りを見回す。いつも部屋を圧迫するように立てられていた本棚の幾つかがなくなっていて、幾分かスッキリしている。
「……引っ越しでもするの?」
「あ? ああ、内装のことか。この前〝野蛮な毛皮衆〟が来てそこらへんのものを勝手に持っていきやがったんだよ。ったく、薬がないといつもこうだ」
どうやら奴らが現れた時に、満足のいく薬を提供できなかったようだ。その代わりに部屋にあるものを奪っていったという。
ただこんなことはここでは日常なので誰も不満を公にしない。すれば殺されるから。
弱い者は結局泣き寝入りするしかないのだ。領域長だって上の連中と真正面から喧嘩をするわけにはいかないだろうから、見て見ぬフリをしている。
するとそこへ、大慌てをしながら店の中へダンとガンが入ってきた。
「シンカッ、大変だぁ!」
「ダン? どうしたの?」
一瞬脳裏に〝野蛮な毛皮衆〟が浮かび表情を強張らせてしまう……が、
「――――――邪魔するぜ」
言葉と同時に店へ入ってきたのは、一人の巨漢な男。青髪のオールバックで、特徴としては眉がなくていかつさが増している目つきと、熊のような身体つきだろう。
肌は褐色気味で、耳が上向きに尖っている。間違いなく『魔族』だ。
シンカはその男のことを知っていた。
「っ! こ、これはこれはザラード領域長!」
すぐさま媚びを売るような表情を浮かべて、大男の傍に寄るグレイ。
(ザラード領域長……か)
ここら一帯を取り仕切るリーダーであり、完全な武闘派だというのは一目で分かる。
彼に逆らえば、領域から追い出されるか殺されてしまう。ほとんど後者の場合が多い。
そんな誰もが恐怖対象として接する存在が、後ろに幾人かの部下を引き連れてやってきていた。
どうやら彼の訪問を弾丸ブラザーズたちは知らせようと入ってきたらしい。ブラザーズは、ザラードの機嫌を損ねないように隅の方で大人しくしている。
「おう、グレイ。久しぶりじゃねえか、なあ」
「は、はい。こんなむさ苦しいところにおいでくださって感謝感激でございます!」
「ふん……そんなおべんちゃらはどうでもいいんだよ。今日はお前に聞きたいことがあって来ただけだしな」
「き、聞きたいこと……ですか?」
「ああ……ん? ていうかそのガキどもは何だ? あまり見かけねえが」
すると部下の一人がザラードに耳打ちをした。
「…………ほう、最近噂になってるガキどもだったのか」
ギロリと鋭い眼差しでシンカたちを観察し始めるザラード。だがすぐに興味を失せたように視線を切り、再度グレイへ意識を向けた。
「さて、グレイ。お前……上の連中と付き合いがあるらしいじゃねえか」
「っ!? そ、そんなことあるわけないじゃありませんかっ!」
「ほう、そうか?」
「そうですよ! 奴らにはただ奪われてるだけで、こっちも迷惑して――」
息を呑んだ音がグレイから聞こえた。ザラードが部下から静かに受け取った透明の小袋をグレイに見せたのが理由である。
(あれは……?)
袋の中には白い粉状のものが入っていた。
「コレが何か、お前なら分かるよな?」
「そ、それはその……っ」
明らかに動揺を見せるグレイ。それはまるで刑事が犯人に証拠を突き付けて追い詰めているようだ。
「上手く誤魔化そうとしてたみてえだが、最近俺が会った上の連中から面白え話を聞き出せた」
ブルブルブルブルと身体を小刻みに震わせながら、滝のように冷や汗を流すグレイの顔色はもう真っ青だ。
「何でもこの薬はある奴から買ったらしい。……奪った、じゃなくてな」
シンカは彼が上の連中と取り引きをしていることを知っていたので、別段驚きはない。とうとうバレたのか、という程度の感情だ。
というよりもよく今まで隠し通せたなと感心できるものもあった。
「……奪われたんなら仕方ねえ。けど……売ったってのはどういうことだ、ああ?」
「ち、違うんです! 俺は脅されて……っ!」
「なら正直にそのことを俺に言えば良かっただろうが。俺がこの前、部下にこの店に視察に向かわせた時、お前は上と取り引きしたことは一切ないって言ってる」
「で、ですから言えば殺すって……」
「んなわけねえだろうがよぉっ!」
「ひィィィィッ!?」
ザラードが怒りに任せて振り回した拳が壁に穴を開けた。とんでもない威力である。
「お前を脅す? んなことを奴らがするか? 何のためにするんだ、おお? 奴らにとっちゃ、バレようが何しようがどうだっていい。奴らは俺ら下の者を虫けらにしか思っちゃいねえ。虫を脅す? ありえねえだろ、そりゃ」
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