どうやらオレは滅びたはずの最強種らしい ~嘘使いの世界攻略~

十本スイ

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「――わたしも強くなりたいっ!」

 グレイの死から数日後のことだ。
 今日はジュダと弾丸ブラザーズが狩りへ出掛けており、シンカはニヤと一緒に留守番を任されていた。
 そんな時に、突然ニヤからの申し出が飛び込んでんきたというわけである。

「……どういうこと?」
「だって……いつも誰かがここに残ってるのってわたしのせい、だよね?」
「いや、他の連中にホームを荒らされないために」
「嘘! 言いたくないけど、わたしたちのホームを占拠したいって思うコミュニティなんてないと思うよ!」

 それを言われてしまえば反論はできない。
 六畳一間ほどの大きさで、ここから出るにも通気口を利用しなければならない不便さ。
 それにホームの中にも貴重品などは隠されていないのだ。誰が好き好んでこの場所を荒らしたい、もしくは欲したいと思うだろうか。

「……わたしのせいでシンカたちの誰かが常にホームに残らないといけない。それが辛いの」

 確かに戦う力がないニヤを守るためにも、常に傍にいようと決めたのはニヤ以外の全員だ。
 家族は守るもの。たとえシンカたちみたいに戦力にならなくても、誰かに傷つけられるのは嫌だし、だからこそニヤの護衛として戦力を割いているのである。

「わたしも狩りができるくらいになれば、もっと生活だって楽になるかもしれない」
「それは……」

 全員で狩りに出かけることができれば、生存率も上がるだろうし、狩りの効率だって良くなるのは理解できる。

「だからシンカ、わたしに戦い方を教えてほしいの!」
「……何でオレに? こういうことはジュダに言った方が良くない?」

 正真正銘、血の繋がった兄妹なのだから。

「多分お兄ちゃんに言っても、絶対に断られるから」
「あーなるほどね」

 その光景がすぐに浮かぶ。
 過保護でニヤのことを溺愛しているジュダにとっては、彼女を危険に晒すことは反対するだろう。

 それにシンカだって、できれば彼女には外の汚い戦いに手を染めてほしくないという気持ちもまたある。それはきっとダンやガンもそうだから、文句も言わず護衛を引き受けていると思う。
 だがニヤは自分が守られるだけの置物のような立場に不満を抱いていたというわけだ。

 その気持ちもまた分かる。
 誰だって他の家族が命を張って戦っているのに、自分だけが安全な場所に潜んでいるなど申し訳なさが募ってくるはずだ。

「戦う、か。でもニヤ、中にはモンスターとだけじゃない。人と戦うことだってあるんだよ? それを分かってる?」

 時にはその手で相手の命を奪うことにもなってしまうかもしれない。
 シンカもそうだが、恐らくジュダたちもまたそれを覚悟しているだろう。生き残るためには割り切ることだって必要になる。

 相手が理不尽な暴力で向かってくるのなら、こちらも全力を尽くし、結果的に相手を殺すことも起こり得るのだ。

「……モンスターもそうだけど、人と争うのは……怖い。怖いよ」

 ……当然だろう。

「でもね、いつまでも守られるだけの存在じゃ嫌なの」
「ニヤ……それでオレたちは満足してるって言っても?」
「わたしが耐えられない」
「…………そっか」

 これはもう何を言ってもムダみたいだ。
 頑固で一途なところは、きっとジュダに似たのだろう。本当に血は争えない。

「まあ少なくとも自衛できるくらいの力さえあれば、確かにオレたちも助かるかもしれないけど」
「! だよね! だからお願い!」

 本来なら一度ジュダに話を通すのが筋なのだろうが……。

「……分かった」
「ほんと! 嬉しい! ありがとシンカ! あ、でもお兄ちゃんたちにはまだ秘密にしてほしい!」
「……止められるから?」
「それもあるけど、どうせなら強くなったところを見せて驚かせたい!」

 こういうところは長い付き合いのダンたちに似たのかもしれない。

「ま、別にそれでいいけど。バレないようにって言うなら、オレが護衛役の時くらいしか教えられないよ?」
「うん、それでいいよ! ほんとーにありがとね、シンカ!」

 喜色満面といった表情を浮かべるニヤ。余程お荷物のような立場から脱却したかったのだろう。

「でも戦い方にもいろいろあるけど、何か考えはあるの?」
「う~ん、わたしは獣人だから普通の人よりは身体能力は高いと思うの」

 それは事実だ。
 華奢に見えても魔力強化なしで腕相撲をすれば、ニヤはダンやガンよりも強い。
 これが獣人に与えられた才能なのである。

(まあ『魔族』は身体能力じゃなく、基本的には魔力特化型だしね)

 魔力量が多く魔法を駆使させたら強いが、身体能力はそれほど高くないのだ。

「なら肉弾戦……いや、武器を使った接近戦型か」

 ただイメージしてみたが、ニヤがジュダのように武器を持って前線で動き回る姿を想像できない。

(――無いな)

 モンスターと接近して、返り血を浴びながら戦場を舞うニヤを見たらジュダなら卒倒してしまうかもしれない。

「……弓」
「ん? 何か言った、ニヤ?」
「わたし、弓を使ってみたい。この本みたいに!」

 そう言って彼女が見せたのは、一冊の絵本だった。
 その本はシンカが初めてニヤたちと知り合った時からあった、ニヤが大事にしている愛用の本である。
 表紙には二人の人物が描かれてあり、一人は鎧を着込んだ騎士で、その隣には弓矢を構えている女性が立っていた。

 確か内容は、凶悪なモンスターに国を潰されてしまった王女が、幼馴染の騎士とともに冒険し、そのモンスターを打ち倒し、国の仇を取るというものだ。
 変わっているのは、王女はただ騎士に守られるだけではなく、自身も騎士とともに戦うというところだろう。

 ニヤはその王女が勇ましくとてもカッコ良いと常々言っていた。自分もいつか王女のように誇れる立派な女性になりたい、と。

「なるほど、弓……か。うん、良い選択かも」

 これなら必要以上に前線に立つことはない。遠距離で仲間たちを支援する攻撃職の中でも、ニヤのスタイルに合ったものだと思う。
 考えれば考えるほど、これしかないという気さえしてきた。

「ただ弓はオレも詳しくないからねぇ。できることと言ったら体力造りとかになるかも」

 それが問題だった。
 槍や斧などの扱いなら、剣とは多少違っていても応用が利くからある程度は教えられるが、弓は完全に畑違いなのでサッパリだ。

 というか今まで触れたことさえない。

「……やっぱり難しい?」
「いや、弓の扱いに関していえば一人だけ心当たりは、ある」
「え? そうなの?」
「うん。けど……あまり会いたくない奴なんだよね」

 だが幾ら考えても、シンカの人脈ではソイツだけしか思い浮かばないし、現状ではソイツに教えてもらうのが一番なのだ。
 不安気に見つめてくるニヤを見て、シンカはやれやれと肩を竦める。

「しょうがない。何を言われるか分かんないけど、ニヤのためだもんね」
「い、いいの?」
「当然。じゃさっそく行こっか」
「う、うん!」

 そうしてシンカたちは、ホームから外へ出てある場所へ向かっていった。


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