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――六十六階層。
フロア全体が商業エリアになっている、最も人通りが多い階層となっている。
グレイの店もここにあったが、当然今回はそちらに行くわけがない。
入り組んだ細い通路を、シンカはニヤとともに歩いて行く。
途中ニヤが「どんな人なの?」と聞いてきたので、
「変人」
とだけ言うと、物凄く嫌そうな顔をされた。
ただ弓を扱うことができて、頼みごとを聞いてくれそうな人物は他に知らないので、シンカにとっても苦渋の選択なのである。
そうこうしているうちに、目的地へ辿り着いた。
「……こ、ここ?」
若干呆けた様子で、目の前の建物を見つめるニヤ。
それもそのはずだ。
何といっても味気の無い殺風景な鉄色をした他の建物と違い、今目の前の建物は全体をサーモンピンクに染めて、異様さを全面に押し出していたのだから。
正直誰もの目に留まるが、決して入りたくない雰囲気を漂わす建物である。
ここへ来る度に、これでもよく商売が続くなと思い溜め息が出てしまう。
「んじゃ入ろっか」
一つだけある扉には呼び鈴が付けられてあるので、それを――鳴らさずに建物の裏手へと回る。
「え? あれ? 玄関から入らなくていいのシンカ?」
「いいのいいの。あんなもの鳴らしても中にいる奴には多分聞こえないし、無視されるのがオチ。だから常連はこうして勝手に奥に入っていくんだよ」
最初にここを教えてもらったのはジュダだ。この入り方もである。
今のニヤのように、同じような質問をしたが、返した言葉も今シンカが発したようなことが返ってきた。
裏手に回ると、建物は壁際に設置されてあるので、すぐに壁に到着する。
「ここからどうするの?」
「ついてきてね」
そう言うと、シンカは建物と壁との間にある幅が四十センチメートルほどしかない隙間を進んでいく。
「ほらほら、行くよニヤ」
問題なく進むシンカを唖然と見つめていたニヤに言うと、彼女も戸惑いがちだが「う、うん」と返事してついてきた。
すると奥の方には、大人が一人通れるくらいの穴が壁に開いていて、そこをシンカは通過していく。
中はとても静かでひんやりとしている。
壁には燭台が設置されて明かりが照らされているが、少数なのでとても薄暗い。
そのまま奥へ突き進むと、今度は木彫りの扉がポツンと建てられていた。
そこにも呼び鈴がつけられていて、今度はその呼び鈴を鳴らす。
しばらくすると――。
「――――ハイハーイ、今出るからちょっち待ってネ~」
と軽薄そうな明るい声が扉の向こうから聞こえてきた。
――ガチャリ。
ロックが外れる音のあと、扉がギィィ……ッと開く。
「お待たせネ~……って、あっれあれぇ~! シンシンじゃ~ん!」
馴れ馴れしい態度で現れたのは、一人の少女だった。
赤いチャイナ服を着込み、桜色の髪を団子にして結っている。
人懐っこい笑顔と好奇心旺盛そうな猫目が特徴的な年上の女性だ。
年上と言っても、ジュダ曰く彼と同じ年頃らしいが。
「ほわぁ~! ああ、やっぱりこの触り心地は癖になるネ~!」
「そう言いながら勝手に他人の頬を揉まないでくれる?」
登場した途端に何の躊躇いもなくスキンシップをしてくるのだ。
初めて会った時も、「何この子~! 生意気そうで可愛いネ~!」と言って、頭を撫でてくるはくすぐってくるわ、いろいろ揉んでくるわで心底恐怖を覚えた。
聞けば彼女は可愛いものには目がないということだが、男に対しそのワードはあまり嬉しくないし、シンカはベタベタとしてくる他人が苦手でもあり、あまりここへは来たくなかったのだ。
「もうシンシンってば、最近はゼ~ンゼン来てくれないネ! アタシは暇だったヨ!」
「とりあえず距離が近い! 離れて!」
「あ、もう! つれないネ~」
問答無用に距離を取ると、ようやく彼女はニヤのことに気が付く。
「むむ? まさかの女連れ……だと!? そんな! シンシン……アタシというものがありながら他所に女を作ってたなんて……!」
何てことを言う女だ……。
「……シンカ?」
思わずビクッとなってしまうほどに、背後にいるニヤから発せられた言葉には怜悧さを感じた。
シンカは振り向くのが本能的に怖いと思い、そのまま「な、何かな?」と聞いた。
「こらシンカ、人と話す時はちゃんと目をみなきゃダメだよ。ね、そうだよねシンカ? シンカは偉いからちゃんとできるよね? ん?」
怖い怖い怖い怖い怖い。
言ってることは正しいけれど、尋常ではないほどの寒気が全身に走ってて、シンカはもう喉がカラッカラである。
「ふむふむ……修羅場?」
誰のせいだ誰の、と声を大にして言いたい。
フロア全体が商業エリアになっている、最も人通りが多い階層となっている。
グレイの店もここにあったが、当然今回はそちらに行くわけがない。
入り組んだ細い通路を、シンカはニヤとともに歩いて行く。
途中ニヤが「どんな人なの?」と聞いてきたので、
「変人」
とだけ言うと、物凄く嫌そうな顔をされた。
ただ弓を扱うことができて、頼みごとを聞いてくれそうな人物は他に知らないので、シンカにとっても苦渋の選択なのである。
そうこうしているうちに、目的地へ辿り着いた。
「……こ、ここ?」
若干呆けた様子で、目の前の建物を見つめるニヤ。
それもそのはずだ。
何といっても味気の無い殺風景な鉄色をした他の建物と違い、今目の前の建物は全体をサーモンピンクに染めて、異様さを全面に押し出していたのだから。
正直誰もの目に留まるが、決して入りたくない雰囲気を漂わす建物である。
ここへ来る度に、これでもよく商売が続くなと思い溜め息が出てしまう。
「んじゃ入ろっか」
一つだけある扉には呼び鈴が付けられてあるので、それを――鳴らさずに建物の裏手へと回る。
「え? あれ? 玄関から入らなくていいのシンカ?」
「いいのいいの。あんなもの鳴らしても中にいる奴には多分聞こえないし、無視されるのがオチ。だから常連はこうして勝手に奥に入っていくんだよ」
最初にここを教えてもらったのはジュダだ。この入り方もである。
今のニヤのように、同じような質問をしたが、返した言葉も今シンカが発したようなことが返ってきた。
裏手に回ると、建物は壁際に設置されてあるので、すぐに壁に到着する。
「ここからどうするの?」
「ついてきてね」
そう言うと、シンカは建物と壁との間にある幅が四十センチメートルほどしかない隙間を進んでいく。
「ほらほら、行くよニヤ」
問題なく進むシンカを唖然と見つめていたニヤに言うと、彼女も戸惑いがちだが「う、うん」と返事してついてきた。
すると奥の方には、大人が一人通れるくらいの穴が壁に開いていて、そこをシンカは通過していく。
中はとても静かでひんやりとしている。
壁には燭台が設置されて明かりが照らされているが、少数なのでとても薄暗い。
そのまま奥へ突き進むと、今度は木彫りの扉がポツンと建てられていた。
そこにも呼び鈴がつけられていて、今度はその呼び鈴を鳴らす。
しばらくすると――。
「――――ハイハーイ、今出るからちょっち待ってネ~」
と軽薄そうな明るい声が扉の向こうから聞こえてきた。
――ガチャリ。
ロックが外れる音のあと、扉がギィィ……ッと開く。
「お待たせネ~……って、あっれあれぇ~! シンシンじゃ~ん!」
馴れ馴れしい態度で現れたのは、一人の少女だった。
赤いチャイナ服を着込み、桜色の髪を団子にして結っている。
人懐っこい笑顔と好奇心旺盛そうな猫目が特徴的な年上の女性だ。
年上と言っても、ジュダ曰く彼と同じ年頃らしいが。
「ほわぁ~! ああ、やっぱりこの触り心地は癖になるネ~!」
「そう言いながら勝手に他人の頬を揉まないでくれる?」
登場した途端に何の躊躇いもなくスキンシップをしてくるのだ。
初めて会った時も、「何この子~! 生意気そうで可愛いネ~!」と言って、頭を撫でてくるはくすぐってくるわ、いろいろ揉んでくるわで心底恐怖を覚えた。
聞けば彼女は可愛いものには目がないということだが、男に対しそのワードはあまり嬉しくないし、シンカはベタベタとしてくる他人が苦手でもあり、あまりここへは来たくなかったのだ。
「もうシンシンってば、最近はゼ~ンゼン来てくれないネ! アタシは暇だったヨ!」
「とりあえず距離が近い! 離れて!」
「あ、もう! つれないネ~」
問答無用に距離を取ると、ようやく彼女はニヤのことに気が付く。
「むむ? まさかの女連れ……だと!? そんな! シンシン……アタシというものがありながら他所に女を作ってたなんて……!」
何てことを言う女だ……。
「……シンカ?」
思わずビクッとなってしまうほどに、背後にいるニヤから発せられた言葉には怜悧さを感じた。
シンカは振り向くのが本能的に怖いと思い、そのまま「な、何かな?」と聞いた。
「こらシンカ、人と話す時はちゃんと目をみなきゃダメだよ。ね、そうだよねシンカ? シンカは偉いからちゃんとできるよね? ん?」
怖い怖い怖い怖い怖い。
言ってることは正しいけれど、尋常ではないほどの寒気が全身に走ってて、シンカはもう喉がカラッカラである。
「ふむふむ……修羅場?」
誰のせいだ誰の、と声を大にして言いたい。
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