14 / 44
13
しおりを挟む
――六十六階層。
フロア全体が商業エリアになっている、最も人通りが多い階層となっている。
グレイの店もここにあったが、当然今回はそちらに行くわけがない。
入り組んだ細い通路を、シンカはニヤとともに歩いて行く。
途中ニヤが「どんな人なの?」と聞いてきたので、
「変人」
とだけ言うと、物凄く嫌そうな顔をされた。
ただ弓を扱うことができて、頼みごとを聞いてくれそうな人物は他に知らないので、シンカにとっても苦渋の選択なのである。
そうこうしているうちに、目的地へ辿り着いた。
「……こ、ここ?」
若干呆けた様子で、目の前の建物を見つめるニヤ。
それもそのはずだ。
何といっても味気の無い殺風景な鉄色をした他の建物と違い、今目の前の建物は全体をサーモンピンクに染めて、異様さを全面に押し出していたのだから。
正直誰もの目に留まるが、決して入りたくない雰囲気を漂わす建物である。
ここへ来る度に、これでもよく商売が続くなと思い溜め息が出てしまう。
「んじゃ入ろっか」
一つだけある扉には呼び鈴が付けられてあるので、それを――鳴らさずに建物の裏手へと回る。
「え? あれ? 玄関から入らなくていいのシンカ?」
「いいのいいの。あんなもの鳴らしても中にいる奴には多分聞こえないし、無視されるのがオチ。だから常連はこうして勝手に奥に入っていくんだよ」
最初にここを教えてもらったのはジュダだ。この入り方もである。
今のニヤのように、同じような質問をしたが、返した言葉も今シンカが発したようなことが返ってきた。
裏手に回ると、建物は壁際に設置されてあるので、すぐに壁に到着する。
「ここからどうするの?」
「ついてきてね」
そう言うと、シンカは建物と壁との間にある幅が四十センチメートルほどしかない隙間を進んでいく。
「ほらほら、行くよニヤ」
問題なく進むシンカを唖然と見つめていたニヤに言うと、彼女も戸惑いがちだが「う、うん」と返事してついてきた。
すると奥の方には、大人が一人通れるくらいの穴が壁に開いていて、そこをシンカは通過していく。
中はとても静かでひんやりとしている。
壁には燭台が設置されて明かりが照らされているが、少数なのでとても薄暗い。
そのまま奥へ突き進むと、今度は木彫りの扉がポツンと建てられていた。
そこにも呼び鈴がつけられていて、今度はその呼び鈴を鳴らす。
しばらくすると――。
「――――ハイハーイ、今出るからちょっち待ってネ~」
と軽薄そうな明るい声が扉の向こうから聞こえてきた。
――ガチャリ。
ロックが外れる音のあと、扉がギィィ……ッと開く。
「お待たせネ~……って、あっれあれぇ~! シンシンじゃ~ん!」
馴れ馴れしい態度で現れたのは、一人の少女だった。
赤いチャイナ服を着込み、桜色の髪を団子にして結っている。
人懐っこい笑顔と好奇心旺盛そうな猫目が特徴的な年上の女性だ。
年上と言っても、ジュダ曰く彼と同じ年頃らしいが。
「ほわぁ~! ああ、やっぱりこの触り心地は癖になるネ~!」
「そう言いながら勝手に他人の頬を揉まないでくれる?」
登場した途端に何の躊躇いもなくスキンシップをしてくるのだ。
初めて会った時も、「何この子~! 生意気そうで可愛いネ~!」と言って、頭を撫でてくるはくすぐってくるわ、いろいろ揉んでくるわで心底恐怖を覚えた。
聞けば彼女は可愛いものには目がないということだが、男に対しそのワードはあまり嬉しくないし、シンカはベタベタとしてくる他人が苦手でもあり、あまりここへは来たくなかったのだ。
「もうシンシンってば、最近はゼ~ンゼン来てくれないネ! アタシは暇だったヨ!」
「とりあえず距離が近い! 離れて!」
「あ、もう! つれないネ~」
問答無用に距離を取ると、ようやく彼女はニヤのことに気が付く。
「むむ? まさかの女連れ……だと!? そんな! シンシン……アタシというものがありながら他所に女を作ってたなんて……!」
何てことを言う女だ……。
「……シンカ?」
思わずビクッとなってしまうほどに、背後にいるニヤから発せられた言葉には怜悧さを感じた。
シンカは振り向くのが本能的に怖いと思い、そのまま「な、何かな?」と聞いた。
「こらシンカ、人と話す時はちゃんと目をみなきゃダメだよ。ね、そうだよねシンカ? シンカは偉いからちゃんとできるよね? ん?」
怖い怖い怖い怖い怖い。
言ってることは正しいけれど、尋常ではないほどの寒気が全身に走ってて、シンカはもう喉がカラッカラである。
「ふむふむ……修羅場?」
誰のせいだ誰の、と声を大にして言いたい。
フロア全体が商業エリアになっている、最も人通りが多い階層となっている。
グレイの店もここにあったが、当然今回はそちらに行くわけがない。
入り組んだ細い通路を、シンカはニヤとともに歩いて行く。
途中ニヤが「どんな人なの?」と聞いてきたので、
「変人」
とだけ言うと、物凄く嫌そうな顔をされた。
ただ弓を扱うことができて、頼みごとを聞いてくれそうな人物は他に知らないので、シンカにとっても苦渋の選択なのである。
そうこうしているうちに、目的地へ辿り着いた。
「……こ、ここ?」
若干呆けた様子で、目の前の建物を見つめるニヤ。
それもそのはずだ。
何といっても味気の無い殺風景な鉄色をした他の建物と違い、今目の前の建物は全体をサーモンピンクに染めて、異様さを全面に押し出していたのだから。
正直誰もの目に留まるが、決して入りたくない雰囲気を漂わす建物である。
ここへ来る度に、これでもよく商売が続くなと思い溜め息が出てしまう。
「んじゃ入ろっか」
一つだけある扉には呼び鈴が付けられてあるので、それを――鳴らさずに建物の裏手へと回る。
「え? あれ? 玄関から入らなくていいのシンカ?」
「いいのいいの。あんなもの鳴らしても中にいる奴には多分聞こえないし、無視されるのがオチ。だから常連はこうして勝手に奥に入っていくんだよ」
最初にここを教えてもらったのはジュダだ。この入り方もである。
今のニヤのように、同じような質問をしたが、返した言葉も今シンカが発したようなことが返ってきた。
裏手に回ると、建物は壁際に設置されてあるので、すぐに壁に到着する。
「ここからどうするの?」
「ついてきてね」
そう言うと、シンカは建物と壁との間にある幅が四十センチメートルほどしかない隙間を進んでいく。
「ほらほら、行くよニヤ」
問題なく進むシンカを唖然と見つめていたニヤに言うと、彼女も戸惑いがちだが「う、うん」と返事してついてきた。
すると奥の方には、大人が一人通れるくらいの穴が壁に開いていて、そこをシンカは通過していく。
中はとても静かでひんやりとしている。
壁には燭台が設置されて明かりが照らされているが、少数なのでとても薄暗い。
そのまま奥へ突き進むと、今度は木彫りの扉がポツンと建てられていた。
そこにも呼び鈴がつけられていて、今度はその呼び鈴を鳴らす。
しばらくすると――。
「――――ハイハーイ、今出るからちょっち待ってネ~」
と軽薄そうな明るい声が扉の向こうから聞こえてきた。
――ガチャリ。
ロックが外れる音のあと、扉がギィィ……ッと開く。
「お待たせネ~……って、あっれあれぇ~! シンシンじゃ~ん!」
馴れ馴れしい態度で現れたのは、一人の少女だった。
赤いチャイナ服を着込み、桜色の髪を団子にして結っている。
人懐っこい笑顔と好奇心旺盛そうな猫目が特徴的な年上の女性だ。
年上と言っても、ジュダ曰く彼と同じ年頃らしいが。
「ほわぁ~! ああ、やっぱりこの触り心地は癖になるネ~!」
「そう言いながら勝手に他人の頬を揉まないでくれる?」
登場した途端に何の躊躇いもなくスキンシップをしてくるのだ。
初めて会った時も、「何この子~! 生意気そうで可愛いネ~!」と言って、頭を撫でてくるはくすぐってくるわ、いろいろ揉んでくるわで心底恐怖を覚えた。
聞けば彼女は可愛いものには目がないということだが、男に対しそのワードはあまり嬉しくないし、シンカはベタベタとしてくる他人が苦手でもあり、あまりここへは来たくなかったのだ。
「もうシンシンってば、最近はゼ~ンゼン来てくれないネ! アタシは暇だったヨ!」
「とりあえず距離が近い! 離れて!」
「あ、もう! つれないネ~」
問答無用に距離を取ると、ようやく彼女はニヤのことに気が付く。
「むむ? まさかの女連れ……だと!? そんな! シンシン……アタシというものがありながら他所に女を作ってたなんて……!」
何てことを言う女だ……。
「……シンカ?」
思わずビクッとなってしまうほどに、背後にいるニヤから発せられた言葉には怜悧さを感じた。
シンカは振り向くのが本能的に怖いと思い、そのまま「な、何かな?」と聞いた。
「こらシンカ、人と話す時はちゃんと目をみなきゃダメだよ。ね、そうだよねシンカ? シンカは偉いからちゃんとできるよね? ん?」
怖い怖い怖い怖い怖い。
言ってることは正しいけれど、尋常ではないほどの寒気が全身に走ってて、シンカはもう喉がカラッカラである。
「ふむふむ……修羅場?」
誰のせいだ誰の、と声を大にして言いたい。
0
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした
茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。
貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。
母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。
バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。
しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる