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シンカのお蔭で弓の師匠を得ることができたニヤ。
ただネネネも情報屋として忙しい時もあるということで、時間がある日をシンカの護衛日と重ねて、ネネネの家まで連れてきてもらうことになった。
そして本日は、三度目になる鍛錬日である。
「――しっ」
シンカに作ってもらった弓を引き矢を射る。
狙うは少し先にある壁にかけられた円状の板。
矢は板のギリギリ端に突き刺さった。
「うんうん、ギリギリとはいえ的には当たるようになったネ! まだ三度目だっていうのに才能が爆発だヨ! 師匠として鼻が高いネ~!」
武器の扱いで褒められたことなどないので、素直に認められたことが嬉しかった。
傍で見守っているシンカも微笑を浮かべて頷きを見せてくれる。
「じゃ、じゃあもう一度」
矢筒の中から一本手に取り構える。
そして――放つ。
(あ、良い感じかも!)
これなら今度こそ真ん中へ……。
だがその瞬間に風が吹き、矢の方向が変化する。
そのせいでまたも板の端へと刺さった。
「はぅぅぅ~、真ん中に当てられません」
「そだネ。いいかいニャーちゃん、弓は他の武器以上に扱いが難しくデリケートだネ。それに環境も把握してないといけないネ」
「環境?」
「そう。剣や槍なら、多少風が強かったりしてもそれほど影響はないネ」
「なるほど」
「けど一度放たれた矢は、風や気圧なんかでその動きが変化するネ。いつもと同じ構え、同じ力で放っても、同じ場所に命中するとは限らないヨ」
だからこそ環境を把握し、味方につけることが必要なのだという。
「環境を味方につければ――」
直後、まるで時が止まったかのような凛とした佇まいで弓を構えるネネネに、思わずニヤは息を飲んだ。
その立ち振る舞いはニヤの思い描く理想そのもの。美しいとさえ思った。
ネネネが放った矢は、まだ風が吹く中、見事に真ん中に命中する。
「わっ、すごい!?」
「これぞっ! 『弓の女傑族』の実力ネッ!」
前と変わってるじゃないか、というシンカの声が耳を震わせるが、いちいちツッコんでも仕方ないことは、もうニヤも分かっていた。
ただ何となく前の女王より明らかに二つ名がランクダウンしているなぁ、とは思ってしまったが。
「今みたいに風を読み、矢の流れを作ってやることで、どんな状況でもターゲットを射抜くことはできるネ」
本当に最初は、ネネネが弓の名手だなんて信じられなかったけど、彼女の腕は本物だった。
何でも彼女は一人で塔の中の巡り、情報を集めるほどのタフな女性らしい。海千山千の猛者が渦巻く塔の中で、一人で生き抜く力を持っているのは心の底から尊敬できた。
聞くところによると、元々彼女はニヤたちと同じように子供たちだけで構成されたコミュニティの一員だったが、上の連中の襲撃により殺されたり、生き残った者も離散してしまったらしい。
そこで再び仲間を集めるために腕を磨きながら情報を集めているうちに、情報屋として名を馳せていたそうだ。
では肝心の仲間は?
残念ながらそのほとんどは命を失い、まだ見つからない行方知れずの者たちもいるという。もしかしたら塔の生活に嫌気がさして外の世界に飛び出したのかもしれないとネネネは言った。
ネネネもまた外の世界には興味を示したが、今の立場が結構気に入っているらしく、しばらくはこのまま過ごしていきたいのだそうだ。
こんな感じで、まだ会って間もないけれど、いろいろ聞かせてもらったことでネネネの人となりが少しだけ分かった気がする。
ちなみに最初に見たピンク色の建物だが、アレはただの物置小屋らしく、仕事の依頼は基本的に紹介制にしているらしい。
だから何も知らずに来た人は、本当の仕事部屋まで辿り着けずに帰っていく。
ネネネは信用ある者にしか情報を売らないし買わないらしい。
あとは好きな色はピンク。その中でもサーモンピンクで、特に可愛いものなら何でも好きな明朗快活な人である。
しかし一度引き受けた仕事は手を抜かない生真面目さも持っており、そのお蔭でニヤも真剣に彼女から弓の扱いを教えて貰えているのだ。
「とにかく弓は放って放って放ちまくって、身体に染み込ませるしかないネ。ダイジョーブ、ニャーちゃんは才能あるヨ。だからこのまま続けていけば、いつかは目標に手が届くネ」
師匠の太鼓判を頂き、少なからず自信がつく。
幸い五感も獣人は優れているので、感覚を研ぎ澄ませ環境にも即時対応できるようにしていこう。
そう決意し練習を再開したその時、
「――おいおい、まーだ使ってたんだなココ」
そう言ってニヤたち以外の闖入者が現れた。
見れば獣耳を生やした少年が二人だ。年の頃は一人はジュダくらいで、もう一人はニヤたちとそう変わらない。
ただネネネも情報屋として忙しい時もあるということで、時間がある日をシンカの護衛日と重ねて、ネネネの家まで連れてきてもらうことになった。
そして本日は、三度目になる鍛錬日である。
「――しっ」
シンカに作ってもらった弓を引き矢を射る。
狙うは少し先にある壁にかけられた円状の板。
矢は板のギリギリ端に突き刺さった。
「うんうん、ギリギリとはいえ的には当たるようになったネ! まだ三度目だっていうのに才能が爆発だヨ! 師匠として鼻が高いネ~!」
武器の扱いで褒められたことなどないので、素直に認められたことが嬉しかった。
傍で見守っているシンカも微笑を浮かべて頷きを見せてくれる。
「じゃ、じゃあもう一度」
矢筒の中から一本手に取り構える。
そして――放つ。
(あ、良い感じかも!)
これなら今度こそ真ん中へ……。
だがその瞬間に風が吹き、矢の方向が変化する。
そのせいでまたも板の端へと刺さった。
「はぅぅぅ~、真ん中に当てられません」
「そだネ。いいかいニャーちゃん、弓は他の武器以上に扱いが難しくデリケートだネ。それに環境も把握してないといけないネ」
「環境?」
「そう。剣や槍なら、多少風が強かったりしてもそれほど影響はないネ」
「なるほど」
「けど一度放たれた矢は、風や気圧なんかでその動きが変化するネ。いつもと同じ構え、同じ力で放っても、同じ場所に命中するとは限らないヨ」
だからこそ環境を把握し、味方につけることが必要なのだという。
「環境を味方につければ――」
直後、まるで時が止まったかのような凛とした佇まいで弓を構えるネネネに、思わずニヤは息を飲んだ。
その立ち振る舞いはニヤの思い描く理想そのもの。美しいとさえ思った。
ネネネが放った矢は、まだ風が吹く中、見事に真ん中に命中する。
「わっ、すごい!?」
「これぞっ! 『弓の女傑族』の実力ネッ!」
前と変わってるじゃないか、というシンカの声が耳を震わせるが、いちいちツッコんでも仕方ないことは、もうニヤも分かっていた。
ただ何となく前の女王より明らかに二つ名がランクダウンしているなぁ、とは思ってしまったが。
「今みたいに風を読み、矢の流れを作ってやることで、どんな状況でもターゲットを射抜くことはできるネ」
本当に最初は、ネネネが弓の名手だなんて信じられなかったけど、彼女の腕は本物だった。
何でも彼女は一人で塔の中の巡り、情報を集めるほどのタフな女性らしい。海千山千の猛者が渦巻く塔の中で、一人で生き抜く力を持っているのは心の底から尊敬できた。
聞くところによると、元々彼女はニヤたちと同じように子供たちだけで構成されたコミュニティの一員だったが、上の連中の襲撃により殺されたり、生き残った者も離散してしまったらしい。
そこで再び仲間を集めるために腕を磨きながら情報を集めているうちに、情報屋として名を馳せていたそうだ。
では肝心の仲間は?
残念ながらそのほとんどは命を失い、まだ見つからない行方知れずの者たちもいるという。もしかしたら塔の生活に嫌気がさして外の世界に飛び出したのかもしれないとネネネは言った。
ネネネもまた外の世界には興味を示したが、今の立場が結構気に入っているらしく、しばらくはこのまま過ごしていきたいのだそうだ。
こんな感じで、まだ会って間もないけれど、いろいろ聞かせてもらったことでネネネの人となりが少しだけ分かった気がする。
ちなみに最初に見たピンク色の建物だが、アレはただの物置小屋らしく、仕事の依頼は基本的に紹介制にしているらしい。
だから何も知らずに来た人は、本当の仕事部屋まで辿り着けずに帰っていく。
ネネネは信用ある者にしか情報を売らないし買わないらしい。
あとは好きな色はピンク。その中でもサーモンピンクで、特に可愛いものなら何でも好きな明朗快活な人である。
しかし一度引き受けた仕事は手を抜かない生真面目さも持っており、そのお蔭でニヤも真剣に彼女から弓の扱いを教えて貰えているのだ。
「とにかく弓は放って放って放ちまくって、身体に染み込ませるしかないネ。ダイジョーブ、ニャーちゃんは才能あるヨ。だからこのまま続けていけば、いつかは目標に手が届くネ」
師匠の太鼓判を頂き、少なからず自信がつく。
幸い五感も獣人は優れているので、感覚を研ぎ澄ませ環境にも即時対応できるようにしていこう。
そう決意し練習を再開したその時、
「――おいおい、まーだ使ってたんだなココ」
そう言ってニヤたち以外の闖入者が現れた。
見れば獣耳を生やした少年が二人だ。年の頃は一人はジュダくらいで、もう一人はニヤたちとそう変わらない。
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