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騙された七房は勢いに止まれずに突っ込んでくる。
今度は――。
「今度は再現するわけにはいかないんだよっ!」
あの川ではこの突きをニヤを庇って受けた。
しかし今度こそはくらってやるわけにはいかない。
突き出された剣をかわし、伸びてきた七房の腕を左手で掴む。
「……これでもう、逃がしはしないよ」
ガッチリと全握力で握り潰す勢いで掴む。
そして右手に持った剣は地面に突き刺し、そのまま右手を彼女の胸当たりに触れさせる。
すべての魔力を右手へ――。
逃げようと試みる七房だが、あちこちから小さな破裂音がして、機敏だった動きが鈍重化する。
「これで今度こそ終わりにするよ七房。オレの勝ちだ。――《魔那砲》ぉぉぉぉっ!」
文字通り全力全開の魔力を一気に放射した。
回避することができなかった七房は、魔力の塊を全身に受け吹き飛んでいく。
そのまま吹き飛んだ先の岩に激突して、直後に凄まじい爆発を引き起こした。
吹き上がる爆炎と煙。もしかしたらそこから七房が再び姿を見せるかもしれないと思ったが、二度と彼女がそこから現れることはなかった。
「っ……勝った……っ!」
思わず両拳を固く握りガッツポーズをしてしまった。
本能が、魂がこの辛勝を喜んでいたのである。
だがすぐに勝利の余韻は、絶望へと変わってしまう。
再度岩の上から鳴り響く拍手の音。――マッチョ男だ。
「見事。そう、見事としか言いようがない」
そこで初めて気づいたのか、ニヤが〝野蛮な毛皮衆〟だと気づき、もう立つのもやっとなシンカを庇うために前に立った。その顔は真っ青になっている。さすがに相手の力量を感じて敵わないことは分かっているみたいだ。
逃げろと言いたいが、正真正銘全力を絞り出したせいで声にならない。
「仲間の手助けがあったものの、よもや『殺戮人形』を屠るとはな。下民とは思えぬ力量だ」
どうする……どうする?
さすがにこれ以上は戦えない。恐らくだが、相手はあの七房よりも強い。
今まで出会った〝野蛮な毛皮衆〟の中でも、コイツだけは毛色が違うような気がする。
心底ヤバイと感じてしまっていた。これがトップクラスと噂される者の存在感なのか。
「まあデータは十分に取れたし結果は良しとできるんだが……」
そのままできれば去ってくれと願う。
「そうだな……将来的に厄介になりそうな若き芽というのは、どうしてこうもワクワクし……潰したくなるのだろうな」
刹那、岩の上からまるで雨のように降り注ぐ凶悪なまでの殺気。
「ぁ……あぁ……っ!?」
目の前に立つニヤが耐えられるものではなく、彼女は全身を震わせ膝をついてしまう。
「ニ……ヤ……!」
しかし彼女は何を思ったのか、自分の膝を自分で叩き始め、驚くことに立ち上がってマッチョ男を睨みつけたのだ。
「……ほう。死を感じながらも立つ、か。なかなかに面白い粒が育ってる。……お前ら、名を名乗ることを許してやろう」
「………シンカ」
「ニ、ニヤ……です」
「シンカにニヤ、か。光栄に思え。俺が下民に名乗るなどそうはないことだ。故にしかとその脳に刻んでおけ。俺の名は――ゼドムだ」
マッチョ男がゼドムと名乗り、その視線をシンカへと向けて続ける。
「それにしてもシンカ、お前には大分興味は惹かれた」
ありがたくないお言葉だ。
「本当によく戦ったものだな――そんな目で」
「――っ!?」
気づかれていた。右目が機能していないことに。
上手く誤魔化して戦えていたと思っていたが、格上であろうゼドムには易々と見破られていたようだ。
その言葉で最高潮に緊張してしまい、息苦しい空気の中、必死でどうこの場をやり過ごすか考えていると――。
「――――ニヤッ、シンカッ!」
良いのか悪いのか、このタイミングでジュダたちが到着した。
「なっ、コイツは《野蛮な毛皮衆》!?」
「マ、マジかよ!」
「うっそぉ! そんな話聞いてないし!」
三者三様の反応を見せる。
「何だかよく分かんねえけど、おいこら! ニヤたちを傷つけるってんなら、今度は俺が相手だ!」
そう言って剣を構えて皆の前に立つリーダー。
「「よ、よーし! 頑張れー、リーダー!」」
その背後でこっそりと応援するハゲ坊主たちがいた。
「うぉい! そこは手伝えよっ!」
こんな時にもコントができるとは、さすがはジュダたちである。
そんな中、ゼドムがクスリと笑みを浮かべながら言う。
「相手をしてやってもいいが、今日はもう大分満足したんでな。次の機会に楽しみは取っておこう」
「ああ? 何だよ強者の余裕て奴か? 俺は別に今からでもほががっ」
「あーっと、分っかりましたー!」
「どうぞどうぞ、お帰りくださって結構でーす!」
熱くなって余計なことを言おうとしたジュダの口元を慌てて押さえたダンとガン。
そのままゼドムは踵を返すとその場から退出していった。
ジュダ以外の全員がホッとし、大きな溜め息とともに尻餅をつく。
「よし! 俺の将来性にビビッて逃げやがったな!」
「……そう思うんなら、少しはその足の震えを止めたら?」
「そうそう、ほんっとに熱血バカはこれだから困る」
「うっせぇよ! 弱腰ブラザーズめ!」
「「何だとこらぁっ! ケンカなら買うぞ、シンカが!」」
「シンカかよっ!」
と、またコントを始めたところで、シンカはそのまま前のめりに倒れそうになる。
「シンカッ!?」
そこをニヤが受け止めてくれるが、すべてが終わったことに張り詰めっ放しだった緊張が解かれたこともあり、虚脱感と疲労感が一気に押し寄せてきた。
「ジュダ……悪い。あとは…………頼ん……だ……よ」
勝手に降りてくる瞼には逆らえず、シンカは意識を闇の中へと沈み込ませていった。
今度は――。
「今度は再現するわけにはいかないんだよっ!」
あの川ではこの突きをニヤを庇って受けた。
しかし今度こそはくらってやるわけにはいかない。
突き出された剣をかわし、伸びてきた七房の腕を左手で掴む。
「……これでもう、逃がしはしないよ」
ガッチリと全握力で握り潰す勢いで掴む。
そして右手に持った剣は地面に突き刺し、そのまま右手を彼女の胸当たりに触れさせる。
すべての魔力を右手へ――。
逃げようと試みる七房だが、あちこちから小さな破裂音がして、機敏だった動きが鈍重化する。
「これで今度こそ終わりにするよ七房。オレの勝ちだ。――《魔那砲》ぉぉぉぉっ!」
文字通り全力全開の魔力を一気に放射した。
回避することができなかった七房は、魔力の塊を全身に受け吹き飛んでいく。
そのまま吹き飛んだ先の岩に激突して、直後に凄まじい爆発を引き起こした。
吹き上がる爆炎と煙。もしかしたらそこから七房が再び姿を見せるかもしれないと思ったが、二度と彼女がそこから現れることはなかった。
「っ……勝った……っ!」
思わず両拳を固く握りガッツポーズをしてしまった。
本能が、魂がこの辛勝を喜んでいたのである。
だがすぐに勝利の余韻は、絶望へと変わってしまう。
再度岩の上から鳴り響く拍手の音。――マッチョ男だ。
「見事。そう、見事としか言いようがない」
そこで初めて気づいたのか、ニヤが〝野蛮な毛皮衆〟だと気づき、もう立つのもやっとなシンカを庇うために前に立った。その顔は真っ青になっている。さすがに相手の力量を感じて敵わないことは分かっているみたいだ。
逃げろと言いたいが、正真正銘全力を絞り出したせいで声にならない。
「仲間の手助けがあったものの、よもや『殺戮人形』を屠るとはな。下民とは思えぬ力量だ」
どうする……どうする?
さすがにこれ以上は戦えない。恐らくだが、相手はあの七房よりも強い。
今まで出会った〝野蛮な毛皮衆〟の中でも、コイツだけは毛色が違うような気がする。
心底ヤバイと感じてしまっていた。これがトップクラスと噂される者の存在感なのか。
「まあデータは十分に取れたし結果は良しとできるんだが……」
そのままできれば去ってくれと願う。
「そうだな……将来的に厄介になりそうな若き芽というのは、どうしてこうもワクワクし……潰したくなるのだろうな」
刹那、岩の上からまるで雨のように降り注ぐ凶悪なまでの殺気。
「ぁ……あぁ……っ!?」
目の前に立つニヤが耐えられるものではなく、彼女は全身を震わせ膝をついてしまう。
「ニ……ヤ……!」
しかし彼女は何を思ったのか、自分の膝を自分で叩き始め、驚くことに立ち上がってマッチョ男を睨みつけたのだ。
「……ほう。死を感じながらも立つ、か。なかなかに面白い粒が育ってる。……お前ら、名を名乗ることを許してやろう」
「………シンカ」
「ニ、ニヤ……です」
「シンカにニヤ、か。光栄に思え。俺が下民に名乗るなどそうはないことだ。故にしかとその脳に刻んでおけ。俺の名は――ゼドムだ」
マッチョ男がゼドムと名乗り、その視線をシンカへと向けて続ける。
「それにしてもシンカ、お前には大分興味は惹かれた」
ありがたくないお言葉だ。
「本当によく戦ったものだな――そんな目で」
「――っ!?」
気づかれていた。右目が機能していないことに。
上手く誤魔化して戦えていたと思っていたが、格上であろうゼドムには易々と見破られていたようだ。
その言葉で最高潮に緊張してしまい、息苦しい空気の中、必死でどうこの場をやり過ごすか考えていると――。
「――――ニヤッ、シンカッ!」
良いのか悪いのか、このタイミングでジュダたちが到着した。
「なっ、コイツは《野蛮な毛皮衆》!?」
「マ、マジかよ!」
「うっそぉ! そんな話聞いてないし!」
三者三様の反応を見せる。
「何だかよく分かんねえけど、おいこら! ニヤたちを傷つけるってんなら、今度は俺が相手だ!」
そう言って剣を構えて皆の前に立つリーダー。
「「よ、よーし! 頑張れー、リーダー!」」
その背後でこっそりと応援するハゲ坊主たちがいた。
「うぉい! そこは手伝えよっ!」
こんな時にもコントができるとは、さすがはジュダたちである。
そんな中、ゼドムがクスリと笑みを浮かべながら言う。
「相手をしてやってもいいが、今日はもう大分満足したんでな。次の機会に楽しみは取っておこう」
「ああ? 何だよ強者の余裕て奴か? 俺は別に今からでもほががっ」
「あーっと、分っかりましたー!」
「どうぞどうぞ、お帰りくださって結構でーす!」
熱くなって余計なことを言おうとしたジュダの口元を慌てて押さえたダンとガン。
そのままゼドムは踵を返すとその場から退出していった。
ジュダ以外の全員がホッとし、大きな溜め息とともに尻餅をつく。
「よし! 俺の将来性にビビッて逃げやがったな!」
「……そう思うんなら、少しはその足の震えを止めたら?」
「そうそう、ほんっとに熱血バカはこれだから困る」
「うっせぇよ! 弱腰ブラザーズめ!」
「「何だとこらぁっ! ケンカなら買うぞ、シンカが!」」
「シンカかよっ!」
と、またコントを始めたところで、シンカはそのまま前のめりに倒れそうになる。
「シンカッ!?」
そこをニヤが受け止めてくれるが、すべてが終わったことに張り詰めっ放しだった緊張が解かれたこともあり、虚脱感と疲労感が一気に押し寄せてきた。
「ジュダ……悪い。あとは…………頼ん……だ……よ」
勝手に降りてくる瞼には逆らえず、シンカは意識を闇の中へと沈み込ませていった。
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