欠陥色の転生魔王 ~五百年後の世界で勇者を目指す~

十本スイ

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第一話

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 不意に目が覚めた時に、初めて視界に飛び込んできたのは稲光に染まる空だった。
 冷たい雨が自身の顔中を打つ。

 ――身体が自由に動かせん。

 麻痺毒にでもやられたかと一瞬思ったが、そういう状態異常ではないことはすぐに分かった。
 これは明らかにパワー不足。つまり筋肉が身体を自由に動かせるほど発達していないということ。
 それに全身が繭のように何かに包まれているせいもあって、動かせるのは目や口といった最低限だけ。

「……あぇ……うあ……!」

 しかも言葉を発しようにも、口から飛び出るのは呻き声に似た甲高い声だけだ。
 どうやら喉もどこかおかしいようだ。
 するとそこへ何者かが近づいてくる気配を感じる。

「……これは酷い。村が壊滅しておるではないか」

 鬱屈とした声音が徐々にオレへと近づいてくる。

「――何とっ、このようなところに赤子が! まさか生き残りがおったとは!」

 は? 赤子……だと?

 オレを見下ろしてきた人物は七十代ほどの男性だ。オールバックにした銀色の髪と長い髭を持つ仙人のような佇まい。
 思わず身構え臨戦態勢に入ろうとしたオレだが、上手く魔力を練ることができない。

 ちっ、このままでは殺される!?

 反射的にそう思ったが、男性はオレを優しく抱え上げた。

「もう大丈夫だ。何も心配することはない。これは天恵やもしれぬな。子供がいなかった儂への」

 穏やかな顔つきに柔らかい言葉。そのどれにも敵意など一切感じなかった。

「これからは儂がお前さんを守ってやる。安心するとええ」

 彼の言葉がスッと胸の奥に入り、オレの警戒心も緩む。
 また冷静になると先の彼の言葉も考慮して、自身の身体の違和感の正体にも気づく。

 どうやらオレは――赤ん坊になっている。

 いろいろ疑問に思うことはあるが、コレが《賢者の石》が出した答えなのだろう。
 オレの頭脳はすぐにそう導き出した。
 ただ赤子からまた人生をやり直すことに、些か辟易するものを感じるが、それでも病弱だった前の身体のことを思えば、知識と経験も豊富な現在の方が、間違いなく前よりは強くなることができるだろう。

 とりあえず大きな利点があることを喜ぼう。
 そう思うと、赤子特有の睡魔が襲い掛かってきたようで、オレは見ず知らずの男性に身を預け、そのまま眠るのであった。


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