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第二話
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「――さてクリュウよ、お主ももう五歳。そろそろ魔法を学んでもええ頃じゃろう」
オレがベッドに寝転びながら本を読んでいると、いきなりジイがそんなことを言ってきた。
クリヴとしての生に終わりを告げ、赤子として生まれ変わったオレだが、このジイに拾われすでに五年の歳月が流れていた。
ジイの名前はギルバッド・ユーダム。今年で七十七歳を迎えるれっきとしたジジイである。
人気のない山奥に一人で住んでいる仙人のような男だが、五年前にオレを壊滅した村から拾って、そこからずっと一緒に暮らしてきた。
オレはジイにクリュウ・A・ユーダムと名付けられ過保護に育てられてきたのである。
ちなみにこの〝A〟というのは、赤子のオレを拾った時にオレが纏っていた布に〝K・A〟と刻まれていたらしく、そこから〝A〟だけを残して名付けたのだという。
「魔法だと? ジイよ、そんなことよりもオレは腹が減った。何か作れ」
「……はぁ。クリュウよ、もう少し言葉遣いと態度を改めなさい。それじゃ将来苦労するぞ」
「フン、昨日はイノシシ肉のシチューだったしな。今日は照り焼きを所望する」
「話を聞けぃ、バカ者!」
「……ちっ」
「はぁ……どうしてこんな横柄な子に育ったのか。もっと小さかった頃は…………あれ? 小さかった時もそういえば横柄だった気が……」
そりゃそうだ。赤子の時から記憶と自我があるのだから、そうそう性格が変わるわけがない。
「ところでジイ、言っておくがオレにジイの魔法訓練など必要ない」
「……? どういうことじゃ?」
それを証明するために、身体から魔力を溢れさせる。そう、漆黒に彩られた魔力を。
「!? ……何と、教えも受けずに魔力を……!」
フフン、当然だ。これでも前世は史上最強の魔王として君臨していたのだからな。
だがジイは驚いたのも束の間、すぐに苦々しい顔をした。
「むぅ、じゃがまさかよりにもよってこの《魔色》とは……!」
「あ? ましょく? ……何だましょくとは?」
そうしてオレは現世の魔法事情を初めて知ることになった。
「《魔色》とは文字通り、魔力の色のことじゃ。魔力を持ち、魔法を扱える者はそう多くない。そしてその量、質ともに千差万別あり、今は格付けをされておるんじゃよ」
「何?」
格付け……だと?
少なくともオレがいた世界では、そのような差別化はなかった。
確かに量や質などによって色の変化はあり、努力や才などで異なってはいたが、わざわざ格付けなどというシステムは存在していなかったのだ。
もしやこの世界はオレの知らぬ世界……か?
この五年間、ジイに見つかっては面倒だと思い、一人で魔法や体術などの訓練をしたが、問題なく扱えたので、てっきり同じ世界に転生したのだと思っていた。
だが今のジイの言葉で、この世界がオレの知る世界とは異なっている可能性を見出した。
「よいかクリュウ、魔力序列は《魔色》によって上から順に銀・赤・緑・青・白・黒と定められておる」
魔力序列などという言葉も初めて聞いた。
「そしてお主の《魔色》は黒。……言い難いことじゃが、世間では『欠陥色』と呼ばれる最低の評価を受けておる」
「ほう……欠陥、ね」
普通なら落ち込むところなのだろうが、オレはその事実に興味深さを感じた。
何故ならオレの魔力量と質は少しも劣化などしていなかったからだ。
言うなれば最強の魔力使いでもあったオレが、よもや最低と呼ばれるとは面白い世界もあったものだと思った。
「何故『欠陥色』などと言われるんだ? 量や質のせいか?」
だとしたこの世界の優秀なる者は一体どれほどの資質を持ち合わせているのか末恐ろしくなる。
「他の《魔色》ならばそうじゃが、黒に至ってはまた別じゃ」
「別?」
「黒はある欠点を抱えておる。それは現代魔法が扱えないということじゃよ」
「現代魔法?」
「そう。黒い魔力を持つ者が扱えるのは古代魔法と呼ばれる、今では淘汰された非効率の魔法なんじゃ」
「淘汰されただと? しかも非効率というのは?」
聞けば古代魔法は、扱うのに大量の魔力と詠唱を必要とし、またその多くはただ何の変哲もない武具などを具象化するだけで、あまりにも初期の魔法過ぎて非効率手段とされている。
さらにいえばほとんどの者が古代魔法を扱うと失敗に終わってしまう。どうやらコントロールが困難で、すぐに暴走してしまうという。
「故に世間では古代魔法は『ガラクタ』と呼ばれ、それしか扱えない黒の魔力は『欠陥色』と位置づけされたんじゃ」
「なるほどな。……実にくだらん評価だな」
「は? く、くだらんとは……?」
「ジイよ、この世界の魔法に興味が湧いた。さっさとオレに教えろ」
「と、突然どうしたんじゃ?」
「オレが最弱か……面白い。それが事実がどうか確かめてみたくなっただけだ」
もしそれが本当なら、上の《魔色》を持つ者を越えることができれば、さらなる強さを得ることができるはずだ。
そうすればあの女勇者を越えることができるかもしれない。
残念ながらこの世界にあの女勇者はいないだろうが、奴の強さはこの身に刻まれている。
アレを越えたかどうかは感覚で分かる。悔しいが今はまだハッキリと超えたなどと言えない。
だからこの世界の魔法を知り、ありとあらゆる存在を越えることができれば、あの女勇者の言っていた〝本物の強さ〟を得ることが可能だ。
「ククク、見せてやる。オレに不可能はないってことをな」
「お、おお……クリュウが燃えておる……!」
こうしてオレは、この世界の魔法事情ではなく、驚くべき真実を知ることになるのであった。
オレがベッドに寝転びながら本を読んでいると、いきなりジイがそんなことを言ってきた。
クリヴとしての生に終わりを告げ、赤子として生まれ変わったオレだが、このジイに拾われすでに五年の歳月が流れていた。
ジイの名前はギルバッド・ユーダム。今年で七十七歳を迎えるれっきとしたジジイである。
人気のない山奥に一人で住んでいる仙人のような男だが、五年前にオレを壊滅した村から拾って、そこからずっと一緒に暮らしてきた。
オレはジイにクリュウ・A・ユーダムと名付けられ過保護に育てられてきたのである。
ちなみにこの〝A〟というのは、赤子のオレを拾った時にオレが纏っていた布に〝K・A〟と刻まれていたらしく、そこから〝A〟だけを残して名付けたのだという。
「魔法だと? ジイよ、そんなことよりもオレは腹が減った。何か作れ」
「……はぁ。クリュウよ、もう少し言葉遣いと態度を改めなさい。それじゃ将来苦労するぞ」
「フン、昨日はイノシシ肉のシチューだったしな。今日は照り焼きを所望する」
「話を聞けぃ、バカ者!」
「……ちっ」
「はぁ……どうしてこんな横柄な子に育ったのか。もっと小さかった頃は…………あれ? 小さかった時もそういえば横柄だった気が……」
そりゃそうだ。赤子の時から記憶と自我があるのだから、そうそう性格が変わるわけがない。
「ところでジイ、言っておくがオレにジイの魔法訓練など必要ない」
「……? どういうことじゃ?」
それを証明するために、身体から魔力を溢れさせる。そう、漆黒に彩られた魔力を。
「!? ……何と、教えも受けずに魔力を……!」
フフン、当然だ。これでも前世は史上最強の魔王として君臨していたのだからな。
だがジイは驚いたのも束の間、すぐに苦々しい顔をした。
「むぅ、じゃがまさかよりにもよってこの《魔色》とは……!」
「あ? ましょく? ……何だましょくとは?」
そうしてオレは現世の魔法事情を初めて知ることになった。
「《魔色》とは文字通り、魔力の色のことじゃ。魔力を持ち、魔法を扱える者はそう多くない。そしてその量、質ともに千差万別あり、今は格付けをされておるんじゃよ」
「何?」
格付け……だと?
少なくともオレがいた世界では、そのような差別化はなかった。
確かに量や質などによって色の変化はあり、努力や才などで異なってはいたが、わざわざ格付けなどというシステムは存在していなかったのだ。
もしやこの世界はオレの知らぬ世界……か?
この五年間、ジイに見つかっては面倒だと思い、一人で魔法や体術などの訓練をしたが、問題なく扱えたので、てっきり同じ世界に転生したのだと思っていた。
だが今のジイの言葉で、この世界がオレの知る世界とは異なっている可能性を見出した。
「よいかクリュウ、魔力序列は《魔色》によって上から順に銀・赤・緑・青・白・黒と定められておる」
魔力序列などという言葉も初めて聞いた。
「そしてお主の《魔色》は黒。……言い難いことじゃが、世間では『欠陥色』と呼ばれる最低の評価を受けておる」
「ほう……欠陥、ね」
普通なら落ち込むところなのだろうが、オレはその事実に興味深さを感じた。
何故ならオレの魔力量と質は少しも劣化などしていなかったからだ。
言うなれば最強の魔力使いでもあったオレが、よもや最低と呼ばれるとは面白い世界もあったものだと思った。
「何故『欠陥色』などと言われるんだ? 量や質のせいか?」
だとしたこの世界の優秀なる者は一体どれほどの資質を持ち合わせているのか末恐ろしくなる。
「他の《魔色》ならばそうじゃが、黒に至ってはまた別じゃ」
「別?」
「黒はある欠点を抱えておる。それは現代魔法が扱えないということじゃよ」
「現代魔法?」
「そう。黒い魔力を持つ者が扱えるのは古代魔法と呼ばれる、今では淘汰された非効率の魔法なんじゃ」
「淘汰されただと? しかも非効率というのは?」
聞けば古代魔法は、扱うのに大量の魔力と詠唱を必要とし、またその多くはただ何の変哲もない武具などを具象化するだけで、あまりにも初期の魔法過ぎて非効率手段とされている。
さらにいえばほとんどの者が古代魔法を扱うと失敗に終わってしまう。どうやらコントロールが困難で、すぐに暴走してしまうという。
「故に世間では古代魔法は『ガラクタ』と呼ばれ、それしか扱えない黒の魔力は『欠陥色』と位置づけされたんじゃ」
「なるほどな。……実にくだらん評価だな」
「は? く、くだらんとは……?」
「ジイよ、この世界の魔法に興味が湧いた。さっさとオレに教えろ」
「と、突然どうしたんじゃ?」
「オレが最弱か……面白い。それが事実がどうか確かめてみたくなっただけだ」
もしそれが本当なら、上の《魔色》を持つ者を越えることができれば、さらなる強さを得ることができるはずだ。
そうすればあの女勇者を越えることができるかもしれない。
残念ながらこの世界にあの女勇者はいないだろうが、奴の強さはこの身に刻まれている。
アレを越えたかどうかは感覚で分かる。悔しいが今はまだハッキリと超えたなどと言えない。
だからこの世界の魔法を知り、ありとあらゆる存在を越えることができれば、あの女勇者の言っていた〝本物の強さ〟を得ることが可能だ。
「ククク、見せてやる。オレに不可能はないってことをな」
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