欠陥色の転生魔王 ~五百年後の世界で勇者を目指す~

十本スイ

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第十四話

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「私はいつか『|偉大な勇者(ロード・ブレイヴァー)』になって、史上最強の勇者って呼ばれたトーカ・イーヴニクス様を越えることよ!」

 ……っ!

 よく通る声が響き渡り、教室内は一瞬の沈黙が流れた。
 しかしすぐにクスクスと笑い声が聞こえてくる。

「言うにことかいてトーカ様を越えるって」
「伝説中の伝説。今じゃ『勇者王』とすら呼ばれる人を?」
「アイツ、《白魔》だろ? 何言ってんだ一体?」
「まあまあ、夢を語るのは自由だからいいんじゃね?」
「あ、じゃあ俺も『勇者王』になりてえな。まあ無理だけど、ははは!」

 誰もかれもヒナテを笑う。決して叶わぬ野望だと蔑んでいる。
 そういえば、とオレは周りを見渡して思うことがあった。
 それはこのクラスにいる連中の中で、《白魔》はヒナテだけだということ。

 オレは黒でヒナテは白、他は全員が青か緑の《魔色》だったのである。
 だからこそ、ほぼ全員が格下としてヒナテを見下していた。
 というよりコイツらが崇めている『勇者王』もまた《白魔》だったことを知らないらしい。とんだおめでたい連中のようだ。

 チラリとヒナテを見て、今彼女はどんな表情をしているのかと確認を取る。
 てっきり悔しそうに身体を震わせているのかと思いきや、どこかスッキリとした表情で、かつ瞳の奥には挑む者特有の強い意志が宿っていた。

 ほう、胆力もトーカに似ているな。

 ヒナテは言いたいことを言い切ったと言わんばかりに席に座る。
 しかし奴は笑わなかったな。
 そう思い視線を向ける相手は、今までの自己紹介で暇そうに欠伸すらしていたハクイである。

 そんな奴が、ヒナテの宣言を聞いて、目を細めながらジッと彼女を見つめていたのだ。
 新入生が大きなことを言うのは決して珍しくないだろうに、それでも彼の琴線に触れるものがあったのだろうか。
 すると彼が視線を動かして、今度はオレを見てきた。

「さあ、残りは君だよクリュウくん?」

 あろうことか、オレに名指しで自己紹介を促してきた。
 オレはスッと立ち上がると、昨日のこともあってヒナテよりざわつき始める。

「名はクリュウ・A・ユーダム。特によろしくしなくてもいい」

 突き放した言葉が予想外だったのか、クラスメイトたちは唖然とする。
 そんな中、オレは最後にヒナテに倣って宣言しておく。

「そうだな。オレにも野望はある。それは――〝最強〟だ」

 真っ先に表情を動かして反応を見せたのは、やはりヒナテである。同時に先程自慢していたニッグやバッザなども聞き捨てならないといった様子だ。

「勇者になることなどただの通過点だ。オレは勇者も魔王も届かない頂点を目指す」

 ヒナテの時はすぐに笑いが起きたが、今度は逆にシーンと静寂が支配する。
 オレの野望が奴らの理解の範疇を越えてしまっていて、言葉にできないほどの何かを受けてしまったのだろう。
 そこへ明らかに反発心を見せたニッグが声を上げようとするが、それを遮るかのように拍手が聞こえてくる。見ればハクイだった。

「はい、皆さんご苦労様でした。どなたも素晴らしい自己紹介だったと思います。多分。知りませんけど」

 知らないなら適当なこと言うな。

「え~各々今の自己紹介を聞いて思うことはあると思いますが、とりあえず皆さんは【ジェムストーン】の仲間だということだけは覚えておいてくださいね」

 教室の端で椅子に座っていたハクイが、「よっこいしょ」と言って立ち上がり、黒板に何かを書き始める。

 ――〝新人祭〟――

 そう書き終わると、ハクイはオレたちに向き直る。

「え~まず初めに伝えておくことがあります。今から一ヶ月後、新入生たちを歓迎して祭りが行われます。しかしただ君たちを祝して開かれるだけの穏やかなものではありません」

 オレ以外はその祭りの概要を知っているのか、ゴクリと喉を鳴らし真剣な面持ちだ。

「え~クラスから代表者二名を選抜して、他クラスの代表者と模擬試合を行って頂きます」

 五クラスから、それぞれ二名ずつ選ばれ、合計十人が大観衆のもとで実力を競い合うのだという。
 それは新人の実力を、教師や上級生たちに見せつけるためのデモンストレーションでもあり、その結果いかんで今後の学生生活にも少なくない影響があるらしい。

「え~知ってる人は知ってるかもしれませんが、今まで【ジェムストーン】が優勝した記録はありません。それがどういうことか分かりますか?」

 ハクイの問いに対し、ほとんどの者が目を逸らす。理由など当然分かっているといった顔つきである。

「え~その理由はですね、単純に弱者だからですね」

 言い難いことを躊躇することなくハクイが言い、生徒たちが苦々しい表情を浮かべる。

「さっきニッグくんが言ってましたね。自分がトップだと」
「……はい」
「しかし残念ですが、君の実力などたかが知れてますよ。ハッキリいって雑魚レベルです」
「なっ!?」

 担任であるほどの教師から痛烈なことを言われ、さすがに愕然とするニッグ。

「ああそこ、バッザくん。笑っていますが、君も似たようなものです」
「は、はあっ!?」

 ニッグのことを笑っていたバッザも、今度は自分に矛を向けられ声を荒らげた。

「え~いいですか。もうハッキリ言っちゃいますけど、この【ジェムストーン】というクラスは別名――『小物クラス』と言われています。つまりそこに配属された君たちもまた『小物』ということです」
「ぼ、僕は違いますっ!」
「冗談じゃねえぞ! 俺だって違うっつうのっ!」
「あ~ニッグくんもバッザくんも落ち着いて。少なくとも周りの目にはそう見えているという話です」
「「ぐっ……!」」

 二人だけでなく、他の生徒の中にも彼らと同じように、ハクイの言葉に怒りを持つ者もいる。

「ただ現に《魔色》の検査で、評価が低い者が集められたクラスであることも事実です。だから自覚してくださいね。あなたたちに対し、周囲の評価は低いのだと。それともそんなクラスのトップにいるからといって喜ぶんですか、ニッグくん?」
「そ、それは……」

 何かを言いたげではあるが、結局何を言わずに言葉を飲み込むニッグ。

「今言ったように一ヶ月後、〝新人祭〟が開催されます。例年通り、誰もが【ジェムストーン】の優勝など考えていないでしょう」

 それはそうだろう。歴史上、一度の優勝すら無いのだから、誰も期待なんてしないはず。

「そして出場して負ければ、当然周りからこう言われます。――当然の結果だと」

 沈黙――。

「他のクラスから出場する生徒は、例外なく《赤魔》や《銀魔》。今年は《銀魔》が多かったこともあり、他のクラスにはそれぞれ一名ずつ配属されていますから、まず間違いなく《銀魔》が出てくるでしょうね。中にはすでに魔人と戦い、勝利を得た経験がある者もいるようですよ」

 魔人と……と、静寂を突き破り生徒たちが動揺を見せる。

 どうやらこの中で魔人と戦った者はいないっぽい。もしくは勝ったことがないのか。
 まあ人間と比べると魔人はあらゆる意味で強い。魔力の総量も多く、戦闘センスも良く、残忍で狡猾な奴らが豊富なので、生半可な実力では太刀打ちできないだろう。
 そんな輩と戦って勝った人物がいる。しかも同年代に。それが信じられないといったようだ。

「さて、《緑魔》を持つニッグくん? 君は……そんな《銀魔》に勝てますか?」
「…………」
「おやおや、先程までの威勢はどこへやら。ではバッザくん?」
「お、俺は敵が誰だろうと全力でぶっ倒すまでだ!」

 そうは言うが、どこかぎこちなさをバッザから感じる。

「……ふむ。では代表の一人として戦ってみますか?」
「! お、おう! 望むところだ!」
「――しかし」
「は?」
「今年は特別なルールが付与されています」
「と、特別なルール?」

 オレもそれは気になり、ハクイの言葉に耳を傾ける。

「ええ。それは――最下位になった代表者二名は〝退学処分〟だということです」



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