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第十九話
しおりを挟む――翌日、早朝。
現在、オレは屋敷の裏庭でヒナテと対面していた。
その理由は、オレがヒナテに修練を施すことになったからである。
「ねえクリュウ、教えてくれる? 昨日言ってた古代魔法を極めればいいってどういうこと?」
昨日、確かにオレは彼女にそう言った。
だがそこですべてを解説するのは止めて、オレはこう言ったのである。
『強くなりたいなら、明日の早朝に屋敷の裏庭に来い』
そして今、こうして顔を突き合わせている。
「まずコレを見ろ」
オレは小さな杖――《法具》を手に取り、そこに魔力を注ぎ込む。
すると杖は、例のごとくすぐに砕けてしまった。
「オレは《黒魔》だ。《魔石》とは相性が悪く、こうして《魔石》もろとも杖が壊れてしまう。ほら、お前もやってみろ」
オレは新しい杖を取り出して、彼女に投げ渡す。
受け取った彼女も、言うことに従って魔力を流し込む。
しかし《魔石》は何の反応も見せない。当然魔法は発動しないということだ。
「コレがどうしたのよ?」
「見て分かる通り、お前の魔力もまた《魔石》とは相性が悪いのか反応しない。つまり《法具》を必ず用いる現代魔法は扱えないというわけだ」
「そんなこと言われなくても分かってるわよ。嫌っていうほどね」
何度も試してきたのだろう。その表情を見れば分かる。
「現代魔法は使えない。なら他の方法を用いるしかあるまい」
「他の……それが昨日言ってた古代魔法ってこと?」
「そうだ」
「でも古代魔法っていっても、もう失われた魔法で誰が使えるのよ?」
「お前な。今までの流れで分かるだろう。オレもまた現代魔法が使えないんだぞ?」
「……! ま、まさかアンタ…………使えるの? 古代魔法が!」
「じゃなかったらお前に勧めないだろう」
「嘘……あ、でも確かアンタはギルバッド様の孫よね。あの方に教えてもらったの?」
「いいや、自己流だ」
正確に言えば五百年前、魔王になる前に師匠となる人物に教えてもらったわけだが。
「じ、自己流ってそんなわけ……!」
「強くなるにはそれしかなかった。だから必死で学び習得しただけの話だ」
ヒナテが息を飲む姿が映る。それ以上掘り下げられても面倒なので、さっさと次の話だ。
「どうする? 古代魔法を学ぶか、学ばないか」
「……それで本当に強くなれるの?」
「さあな、それはお前次第だ」
実際にどんな武器を得ようとも、極めるには努力しか有り得ない。
「古代魔法…………うん! 教えて! 古代魔法を私に!」
彼女にとって唯一といってもいいほどの闇の中の光明だ。食いつかないわけがない。
「そうか。なら――」
オレは用意しておいた大袋から、大量の資料を取り出した。
「これに全部目を通し、そして――覚えろ」
「え……は、はあ!? こ、これ全部!?」
ヒナテが驚くのも無理はない。本や束になった紙がどっさり積まれているのだから。
「すべて古代魔法に関する資料だ。無知は非力に繋がる。故に今から三日以内にすべて頭に叩き込め」
「みっ……!?」
「そうでなければ十日後の代表者決定戦には間に合わん。……勝つんだろ、ニッグに」
「!? ……ええ」
ヒナテが資料の一つを手に取り視線を落とす。
「……あ、これって手書き……? アンタ……これ自分で?」
昨日の夜、古代魔法の資料が必要だからと、大急ぎでオレはジイのもとへと走った。
そして彼の書庫から古代魔法に関する資料を拝借し、ここまで持ってきたのだ。
だが一番大事な、古代文字に関する資料だけがなかった。
故にオレが紙に古代文字を書き記すしか方法はなかったのである。お蔭で徹夜になってしまったが。
その資料を見て、ヒナテも決意を秘めた表情を見せて応える。
「上等よ! これでも暗記は得意なの! サクッと覚え切ってやるわ!」
頼もしい言葉を響かせ、彼女はすぐに資料を自室に持って行こうとしたが……。
「おい待て、誰が帰っていいって言った?」
「へ?」
「コレをつけて筋トレしながらでも覚えられるだろ?」
オレは自作した重りを彼女の足元に投げつけた。
「え? 筋トレって……しかも重りつき!?」
「安心しろ。たったの六十キロだ」
「……お、鬼……」
何をバカなことを。まだまだこれはほんの入り口に過ぎないというのに。
本当の地獄というのを体験するのはまだ先である。
「さあ――始めようか?」
しばらく裏庭から悲鳴が途絶えることはなかった。
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