欠陥色の転生魔王 ~五百年後の世界で勇者を目指す~

十本スイ

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第二十一話

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「ヒナは、夢ってある?」

 その子はベッドの上で、私に問いかけてきた。

「夢? そうね、世界平和よ!」

 まあ冗談半分だけどね。

「ふふ、大きく出たね。でもだったらヒナも勇者にならないと」
「うっ……でも私ってば《白魔》だし……」

 私はベッドの傍にある椅子に座ってシュンと落ち込む。
 自分がどうして《赤魔》の両親から生まれたのか不思議で仕方ない。
 ないものねだりをしても仕方ないが、やっぱり運命の神様を怨んでしまう。

「私もミミのように《銀魔》だったら良かったのに……」

 彼女はミミオラといって、幼い頃からの私の大親友だ。
 生まれた日も、お世話になった病院も一緒で、家だって隣同士だった。まるで双子のように育ってきたのである。

「……けれどわたしはヒナが羨ましい。だって、わたしはずっと寝たきりだもん」

 実はミミ、重い病を抱えており、小さい頃から通院をしてきた。
 そして一年ほど前から、その病が悪化したため、ずっと入院をしているのである。

 活発で丈夫な身体を持っているものの《白魔》の私。
 才能豊かで、何をしても万能ではあるが病弱な《銀魔》のミミ。

 お互いに欲しいものを持っているが、決して手にすることができない。
 そんなもどかしさと、運命の残酷さを抱えたのが私たちだった。

「ねえヒナ、わたしの夢はね――――『偉大な勇者』になることなんだ」

 勇者の中の勇者。
 実力も人望もあって、皆から認められた英雄だ。

「わたしはいつか『偉大な勇者』になって世界を旅して回りたい。それでいろいろな経験をしてみたい。困っている人を助けたり、ダンジョンを攻略して……そんな大冒険をしてみたい。あの伝説の『勇者王』のように」
「ミミ……」
「もし……もし叶うなら、それをヒナと一緒にできたらいいな」

 儚げに微笑むミミ。
 私はそんなミミの夢を叶えてあげたい。

 だって、だって……。

「しょ、しょうがないわね! じゃあ私も一緒に勇者になったげるわよ! だって私はミミのお姉ちゃんだしね!」
「ふふ、ほんのちょっと先に生まれただけのくせに~」
「う、うっさい! それでもお姉ちゃんなの!」

 そう。だからこそ妹の願いを叶えるのだ。
 それが姉ってもんだから。

「じゃあ約束ね!」
「ええ、約束よ!」

 その時の私は、後のことなんて考えずに軽く約束していた。何とかなるだろうとか、そんな感じに考えていたのだろう。
 だがある日、突然ミミとの別れがやってきた。

 何でも彼女の父の伝手で、ミミの病気の治療に詳しい先生が見つかったのだという。
 ただそこはとても遠く、とてもではないが気晴らしに迎えるような場所ではなかった。
 もちろん別れは悲しかったが、それでも彼女の病気が治るならと涙を飲んだ。

 そしてミミと別れてから一年ほど経った頃だろうか。
 一通の手紙が私宛に届いた。その内容を見て愕然とした。

「ミミが…………ミミが…………………………死んだ?」

 突然の訃報であった。
 住んでいた場所で、魔物の襲撃に遭い死んでしまったのだという。
 彼女の両親も同じように殺された。

 私はまるで半身をもがれたような苦痛を覚えた。

 泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて。
 嘆いて、嘆いて、嘆いて、嘆いて、嘆いて。
 喚いて、喚いて、喚いて、喚いて、喚いて。

 神様を怨んだ。そして世界の理不尽さを呪った。
 だが結局、そんなことをしても大事な親友は戻ってはこない。
 何をする気力もなく、家に引きこもって過ごしていた頃、不意にミミが前にくれた手紙が目に入った。そこには彼女の夢がビッシリと語られていたのである。

 そしてあのベッドでの彼女とのやり取りを思い出した。
 このままでは、ミミは理不尽に世界に奪われただけだ。
 優しくて、賢くて、誰にも好かれていた彼女が、そんなことでは報われない。

 ならお姉ちゃんとして、親友として、私にできることは何だ?

 そう考えて、私は至った。
 ミミが叶えられなかった夢を、私が叶えよう――。

 彼女が憧れた『偉大な勇者』になる。彼女が憧れた『勇者王』すら超える勇者になる。
 そうすることで、きっと天国の彼女が喜んでくれる。 
 わたしはそう……思っているから。



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