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第二十二話
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「――――それが、私が勇者を目指す理由なの」
ヒナテが語る話を、オレは黙って聞いていた。
なるほどな。コイツの強さへの源泉は、友への誓いに集約されていたのか。
それに約束……か。
もう二度と叶うことのない約束。
だがヒナテは、亡きミミオラが願ったことを叶えようと決意したのだ。
二人で勇者となって冒険するという夢は果たせなくても、ミミオラが叶えたかった夢である『偉大な勇者』になることで、少しでもミミオラが報われるならと。
「……私が『勇者王』を越えるような勇者になれば、きっと天国にいるあの子にも……っ、わ……私の名前が……届く……から……っ」
涙を流しながら語るヒナテを見て、オレはあるシーンがフラッシュバックする。
それはかつて、まだトーカが勇者になる前、彼女の村が魔物に襲われた時のこと。
たまたま近くを通りかかったオレは、気まぐれに魔物を討伐して村を壊滅から防いだ。
しかし犠牲者がゼロだったわけじゃない。
魔物に殺された者の中には、トーカの友人がいたのである。
トーカは友人の亡骸を前に、今のヒナテのように泣きじゃくっていた。
そして――。
『僕……はっ、もっと強く……なりだいっ! こんなっ、理不尽なごとぉっ、なくじだいからぁっ!』
二人の理由は異なるが、それでも涙を流しながら求めるものは同じだった。
ヒナテもトーカも、自分の無力を嘆き、強くなりたいと願っている。
だからか、隣で嗚咽するヒナテがトーカと重なって見えたのだ。
それもきっと、ヒナテがトーカに瓜二つだからかもしれないが。
オレは何も発さず、ヒナテが泣き止むのを待った。
そこから数分後、ヒナテは枕に真っ赤な顔を埋めていた。
「……今の忘れて」
「悪いが記憶力は良いほうでな」
「~~~~~っ! そこは気を利かせて忘れるとか言いなさいよっ!」
「別に泣いたところを見られても気にしなくていいだろう。それともオレが誰彼構わず言い触らすような奴だと?」
「……そういうことじゃなくってぇ……」
こういうところが女は面倒臭い。
あのトーカも、泣き顔を見られるのを酷く嫌っていた。
今のコイツのように、見た時のことは忘れろとしつこく言っていたのを思い出す。
「それで? 話はそれだけか?」
「え? あ、うん…………黙って聞いてくれてありがと」
「へぇ、礼を言えるんだな」
「ちょっ、バカにしてるの!?」
「してない。ただ素直なお前に新鮮さを感じているだけだ」
「むぅぅう~、ふんだっ!」
子供か。そんな膨れっ面をしてそっぽを向くな。
「……はぁ。なら尚更挫けるわけにはいかないわけだ」
「そうよ! 私は絶対に『勇者王』を越える『偉大な勇者』になってやるんだから!」
どうやらいつものコイツが戻ってきたようだ。
「……ねえ、一つ聞いてもいい?」
「ちゃんと答えるかは別だぞ」
「むぅ。……あのね、どうしてアンタはここまで世話をしてくれるの? 一緒に住んでるっていっても他人だし、それに最初に会った時も私……」
「そうだな。感じ悪い小娘だったな」
「うぐっ……!」
まあ、コイツの現状を知れば、他人なんかに構っている暇などないことは理解したが。
「そ、そうよ……態度が悪かったのは本当にごめん……だけど、何で? 私に修練させてメリットなんてないでしょ?」
ヒナテが不安気に上目遣いで見つめてくる。
こういう仕草が普段からできれば、今も色っぽい話とか結構あるだろうに。
まあ、今のオレは小娘に欲情するほどの精神年齢でもないが。
それに見た目はアイツだしな……。
だって殺し合いを何度もしたことのある相手だから。
「メリット……か。確かに見当たらないな」
「っ……だよね」
「だがクーにも頼まれたからな」
「と、父様に?」
「ああ。お前をよろしく頼むと。クーには世話になっているからな。一方的に施しを受けるのはオレの性分じゃない。だから対価として返せるものはちゃんと返す」
「もしかしてそれもアンタの信念?」
「そういうことだ」
「ふーん、そっかぁ」
少し拍子抜けのような表情をするヒナテだが。
「ま、メリットがまったくないとも言えない……がな」
オレの脳裏に浮かび上がったのは、最初にコイツと組手をした時のことだ。
ヒナテの両眼に刻まれたあの紋章――。
確証ではないが、その可能性は十二分にある。だから……。
「え? 何か言った?」
「いいや。それよりいつまで男の部屋にいるつもりだ?」
「ふぇ?」
「……襲ってほしいのか?」
「にゃっ!? にゃにを言ってりゅのよっ!?」
ズザザザッと、勢いよくオレから離れていく。
「こ、この変態っ! そ、そういうのはもっとお互いをよく知ってからするべきなんだからねっ! スケベッ、バカッ、おやすみっ!」
一応おやすみと挨拶はするんだな。
そうして騒がしい奴は部屋から去った。
だがそこで重大なことにオレは気づいてしまう。
「…………………………………………枕が無い」
ヒナテが語る話を、オレは黙って聞いていた。
なるほどな。コイツの強さへの源泉は、友への誓いに集約されていたのか。
それに約束……か。
もう二度と叶うことのない約束。
だがヒナテは、亡きミミオラが願ったことを叶えようと決意したのだ。
二人で勇者となって冒険するという夢は果たせなくても、ミミオラが叶えたかった夢である『偉大な勇者』になることで、少しでもミミオラが報われるならと。
「……私が『勇者王』を越えるような勇者になれば、きっと天国にいるあの子にも……っ、わ……私の名前が……届く……から……っ」
涙を流しながら語るヒナテを見て、オレはあるシーンがフラッシュバックする。
それはかつて、まだトーカが勇者になる前、彼女の村が魔物に襲われた時のこと。
たまたま近くを通りかかったオレは、気まぐれに魔物を討伐して村を壊滅から防いだ。
しかし犠牲者がゼロだったわけじゃない。
魔物に殺された者の中には、トーカの友人がいたのである。
トーカは友人の亡骸を前に、今のヒナテのように泣きじゃくっていた。
そして――。
『僕……はっ、もっと強く……なりだいっ! こんなっ、理不尽なごとぉっ、なくじだいからぁっ!』
二人の理由は異なるが、それでも涙を流しながら求めるものは同じだった。
ヒナテもトーカも、自分の無力を嘆き、強くなりたいと願っている。
だからか、隣で嗚咽するヒナテがトーカと重なって見えたのだ。
それもきっと、ヒナテがトーカに瓜二つだからかもしれないが。
オレは何も発さず、ヒナテが泣き止むのを待った。
そこから数分後、ヒナテは枕に真っ赤な顔を埋めていた。
「……今の忘れて」
「悪いが記憶力は良いほうでな」
「~~~~~っ! そこは気を利かせて忘れるとか言いなさいよっ!」
「別に泣いたところを見られても気にしなくていいだろう。それともオレが誰彼構わず言い触らすような奴だと?」
「……そういうことじゃなくってぇ……」
こういうところが女は面倒臭い。
あのトーカも、泣き顔を見られるのを酷く嫌っていた。
今のコイツのように、見た時のことは忘れろとしつこく言っていたのを思い出す。
「それで? 話はそれだけか?」
「え? あ、うん…………黙って聞いてくれてありがと」
「へぇ、礼を言えるんだな」
「ちょっ、バカにしてるの!?」
「してない。ただ素直なお前に新鮮さを感じているだけだ」
「むぅぅう~、ふんだっ!」
子供か。そんな膨れっ面をしてそっぽを向くな。
「……はぁ。なら尚更挫けるわけにはいかないわけだ」
「そうよ! 私は絶対に『勇者王』を越える『偉大な勇者』になってやるんだから!」
どうやらいつものコイツが戻ってきたようだ。
「……ねえ、一つ聞いてもいい?」
「ちゃんと答えるかは別だぞ」
「むぅ。……あのね、どうしてアンタはここまで世話をしてくれるの? 一緒に住んでるっていっても他人だし、それに最初に会った時も私……」
「そうだな。感じ悪い小娘だったな」
「うぐっ……!」
まあ、コイツの現状を知れば、他人なんかに構っている暇などないことは理解したが。
「そ、そうよ……態度が悪かったのは本当にごめん……だけど、何で? 私に修練させてメリットなんてないでしょ?」
ヒナテが不安気に上目遣いで見つめてくる。
こういう仕草が普段からできれば、今も色っぽい話とか結構あるだろうに。
まあ、今のオレは小娘に欲情するほどの精神年齢でもないが。
それに見た目はアイツだしな……。
だって殺し合いを何度もしたことのある相手だから。
「メリット……か。確かに見当たらないな」
「っ……だよね」
「だがクーにも頼まれたからな」
「と、父様に?」
「ああ。お前をよろしく頼むと。クーには世話になっているからな。一方的に施しを受けるのはオレの性分じゃない。だから対価として返せるものはちゃんと返す」
「もしかしてそれもアンタの信念?」
「そういうことだ」
「ふーん、そっかぁ」
少し拍子抜けのような表情をするヒナテだが。
「ま、メリットがまったくないとも言えない……がな」
オレの脳裏に浮かび上がったのは、最初にコイツと組手をした時のことだ。
ヒナテの両眼に刻まれたあの紋章――。
確証ではないが、その可能性は十二分にある。だから……。
「え? 何か言った?」
「いいや。それよりいつまで男の部屋にいるつもりだ?」
「ふぇ?」
「……襲ってほしいのか?」
「にゃっ!? にゃにを言ってりゅのよっ!?」
ズザザザッと、勢いよくオレから離れていく。
「こ、この変態っ! そ、そういうのはもっとお互いをよく知ってからするべきなんだからねっ! スケベッ、バカッ、おやすみっ!」
一応おやすみと挨拶はするんだな。
そうして騒がしい奴は部屋から去った。
だがそこで重大なことにオレは気づいてしまう。
「…………………………………………枕が無い」
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