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第二十三話

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 ――代表者決定戦当日。

 実習の時間にて、前回と同じ演習場へやってきていた。
 そして円の中には、決定戦に参加するオレ、ヒナテ、ニッグ、バッザがそれぞれ顔を突き合わせている。

 その周囲では、ほとんどのクラスメイトたちがつまらなさそうに観戦していた。
 どうせ勝つのは、ニッグとバッザしか有り得ないと思っているのだろう。

 実際にヒナテは、前回の実習でニッグに手も足も出せずに負けているし、オレはその《白魔》よりも劣等とされている『欠陥色』だ。
 万が一にもオレとヒナテの勝利はないと踏んで、結果の見えた勝負に楽しさを見い出せていないに違いない。

「やれやれ、あの模擬戦以降……すっかり顔を見せなくなったから、てっきり退学の準備でもしているのかと思いきや」

 思わせぶりにニッグが大きな溜息をついて肩を竦める。
 しかしそんな態度にヒナテは挑発されることなく、目を閉じて精神集中をしていた。

「いいかい? そっちの『欠陥』くんも聞くといい。無様に足掻くのは見苦しいよ。素直に諦めるのもまた美徳なんだからね。君もそう思うだろう、オモシロヘアーくん?」
「俺はバッザだ! それにこの頭をからかうんじゃねえ! これは俺の魂そのものだ!」

 髪型を揶揄されて怒りを露わにするバッザだが、今度はその視線をオレたちに向けてくる。

「まあこんなもやし野郎に賛同するのは癪だがよぉ。たった二週間で、あの実力差が埋まるとは思えねえ。挑戦するならもっと鍛錬をしてからの方が良かったんじゃねえか?」

 コイツらは一体どこを見ているのやら。

 どうやらコイツらには、ヒナテから醸し出されるオーラに気づいていないようだ。
 明らかに二週間前とは違う彼女が纏う空気を。

 それにヒナテの身体は傷だらけ。両手の指には包帯を巻いている個所もあるし、足や腕も腫れているところがある。ちゃんと見れば、コイツがこの二週間、死に物狂いで修練を積んできたことくらい分かりそうなものだ。
 まあ無理もないだろう。バッザはともかく、ニッグは直接ヒナテと相対し圧倒的に潰したのだから。それに前回同様、ヒナテは《法具》を持っていない。

 結局武器も何も持たずに、またただ突っ込んでくると推察してバカにしても不思議ではない。

「……お前はニッグだけに集中しろ。あのリーゼントは任せろ」
「……ええ」

 小声でオレはヒナテにそう伝えた。
 そして静かに見守っていたハクイが、円の外に立ち右手を上げる。

「え~では代表者決定戦、バトルロイヤルを開始しますよ。制限時間なし。ルールは前回と同じく、円外に出るか戦闘不能、あるいは降参をしたら敗北とします。残り二名となった時点で、その者たちを代表者とします。それでは――」

 ハクイの右手がサッと振り下ろされる。

「――始めっ!」

 直後、真っ先に動いたのは前回と違いニッグだった。

「悪いけど、魔力の無駄はしたくない。早々と退場してもらうよ! ――《風玉》!」

 ニッグが狙ったのは、やはりというべきかヒナテである。 
 この前はあっさり吹き飛ばすことができた魔法。それでヒナテを一撃で円の外に弾き飛ばすつもりなのだろう。

 ――ヒナテ、見せつけてやれ。

 これが…………これが生まれ変わったヒナテだ。

「セイル・オフ・ディヒーヌス・バルエン。ソーマ・フーラ・ライゼィル!」

 風の塊がヒナテに辿り着く前に、すでにヒナテは詠唱を完成させていた。

「――《具現》!」

 溢れ出したヒナテの魔力が、彼女の両手足に収束し形を成していく。
 そしてそれは鮮やかな白銀に輝くガントレットとソルレットに変貌を遂げた。

「――っ!?」

 当然ヒナテが見せた〝魔法〟に驚愕する面々ではあるが。
 さらに驚くべきは次にヒナテを起こした行動と結果であった。

「はあぁぁぁっ!」

 腰を低くして構え、向かって来る風の塊に対し、ヒナテは避けずにそのまま右拳を突き出したのである。
 すると風の塊は、彼女の拳と激突した瞬間に霧のように四散して消失した。

「な、な、ななななななっ!?」

 誰よりも愕然としていたのはニッグだ。何せ今の一撃で仕留められると思っていたのだろうから。 
 だがヒナテのターンはまだこれからだった。
 彼女は両足に力を込め、まるで飛ぶようにニッグへと突撃していく。

「ひっ!? ぼ、ぼぼぼ僕を守れっ――《風の守り》!」

 咄嗟に自身の持っている杖を振るい、前回ヒナテの力じゃビクともしなかった風の壁で身を守るニッグ。
 ヒナテの右拳が壁を叩くが、さすがに守りは固いのか破ることはできなかった。

 ホッとするニッグ。しかし――ここからがヒナテの真骨頂だ。

「セイル・オフ・ディヒーヌス・バルエン。アッバオウ・ヘラス・ギガ・ライガ!」

 素早く詠唱したヒナテに呼応するかのように、ヒナテの両手足から放電現象が起きる。

 バチッ……バチバチバチバチバチィィィッ!

「――《|雷装(ボルティックス)》!」

 そう、アレがヒナテが掴んだ答えだ。
 雷を具象化した《法具》に纏わせ、自在に雷撃を操ることができる。

 本来なら、距離を取って雷撃を放ちながら様子見をするのがセオリーではあるが、ヒナテはどうしても超接近戦で初っ端から決めるつもりだったようだ。

「よくも前はバカにしてくれたわね」
「っ……へ?」
「借りはきっちり返してやるわ!」
「ちょ、ちょ……待って……っ!?」

 だが当然ヒナテはニッグの言葉に聞く耳など持たない。
 自身の周囲に迸る紫電を右手に集約させ、スッと壁に触れる。

「――《|雷撃波(フルボルトショック)》!」

 ヒナテの右手から凄まじい放電が起き、刹那的に風の壁全体に広がったと思ったら、その壁を突き抜けて中にいるニッグへと襲い掛かった。

「んなっ!? うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!?」

 雷撃をその身に受けたニッグは、ひとたまりもなく一瞬で意識を失い、そのまま前のめりに倒れてしまった。
 ヒナテは自分の力だけで格上であるはずの相手に勝利したのである。
 その事実に、ヒナテ自身も驚いていたが、すぐに笑みを浮かべてガッツポーズを見せた。

 オレはその様子を見ていて、当然の結果だと踏んだ。 
 確かに世間でいう序列でいえば圧倒的にニッグの方が有利。魔法だって攻撃に守備とバリエーションも豊富だ。
 彼が自分の力量を正確に把握し、もっと効率よく戦っていれば、あるいは勝敗は分からなかったかもしれない。

 しかしニッグは相手を格下だと侮り、ろくに策も練らずに真正面から潰そうとした。
 それは明らかな油断であった。

 そしてニッグは、思わぬヒナテの反撃と成長に戸惑い焦った結果、ほぼ何もすることができずに敗北したのである。

「う、嘘だろおい……! もやし野郎が負けた……?」

 口ではいろいろ言っていても、ニッグの勝ちを疑っていなかったバッザ。恐らくは代表者になるのは自分とニッグだと決めていたのかもしれない。

「さて、いつまでも観戦してるわけにはいかないな」
「!? ……まさかお前が、アイツを? どうやってだ? 二週間前は魔法も使えないパンピー同然だったのによォ、どうやってあんな力を身に着けさせたってんだ!」
「……答える義務はない」
「ちっ、そうかよォ! けど俺はもやし野郎みてえに侮ったりはしねえぞ!」

 ……よく言う。

 そもそも《魔色》だけで実力を判断している連中が間違っているのだ。 
 それを今、知らしめてやろう。

「俺の《法具》はこの《マトイ》だ!」

 制服の上に青い特攻服を着込んだバッザ。てっきり戦闘用として気合を入れるための服かと思ったが、アレそのものが《法具》らしい。

「いくぜっ――俺の熱き炎をぶぺっ!?」

 長々と講釈を垂れるバッザに飽き飽きしたオレは、一瞬のうちに彼の懐に入って、その顔面を魔力を込めた右足で蹴り飛ばしてやった。
 バッザは面白いように真っ直ぐ吹き飛んでいき、軽く円の外へと出ると、その先にあった岩場のエリアに突っ込んだ。

「「「「……………………は?」」」」

 ヒナテの時にも絶句していたが、今見せたオレの攻撃により、クラスメイトたちは全員夢でも見ているかのような表情で、同じようにハモッた。

 ……ん? 

 その時、自分に向けられた強い視線に気づく。そこは遠目に映る校舎の屋上だったが、そこには誰もいなかった。最近この手の視線が多い。
 するとそこへ黙って見ていたハクイだけが、僅かに頬を緩めると――。

「それまで! 勝者はクリュウ・A・ユーダムとヒナテ・アルフ・フェイ・メルドア!」

 ――オレたちの勝利宣言をしたのであった。



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