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第二十四話
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現在、【ジェムストーン】の生徒たちは、二名を残して全員が教室へと戻ってきていた。
二名というのは、ニッグとバッザで、当然ながら救護室へ直行したのである。
「え~というわけで、〝新人祭〟に参加するクラス代表は、この二人になりました。はい、拍手」
黒板の前に立たされたオレとヒナテは、ハクイによって促されたまばらな拍手を受けていた。納得がいかないというよりは、信じられないという面持ちの生徒たちばかりだ。
「それでは二人とも、〝新人祭〟まであと二週間。……覚悟はありますね?」
ハクイがジッとオレたちを見つめてくる。
その言外には、以前言ったことが含まれているに違いない。
それは最下位になったら退学という罰である。
「はいっ! 絶対に優勝してみせます!」
打てば響くような返答をするヒナテに対し、
「暇潰しにはなりそうだな」
オレは特に意気込みはなかった。
「そうですか。え~では、〝新人祭〟の模擬試合について軽く説明しておきましょうかね」
相変わらずやる気が感じられない眠そうな目つきで、ハクイが黒板にルールを書き記していく。
「まず言っておくことがあるとするなら、これまで行われてきた模擬試合はあまり参考にできないということです」
ハクイ曰く、前回まで代表者は各クラス一人ずつで、総勢五人が参加をしてトーナメント方式で戦ったという。
しかし今回は――。
「いわゆるタッグマッチ。二対二の試合となります。故にその戦い方も工夫が必要になってくるでしょう。加えてポイント制が実施されます」
ポイント制というのは、選手にはそれぞれ10ポイントが与えられていて、それを削り合うシステムらしい。
特殊なバトルスーツを着用し、明確なダメージ――いわゆる有効打を受けると1ポイント減る。また攻撃を受けてダウンをすると3ポイントも減ってしまう。
「え~ちなみにダウンしている相手に追い打ちをかけるのは禁止されていますから」
もし攻撃をしたら反則負けになるとのこと。
実戦ではわざわざ立ち上がるまで待つわけがないのに、甘ったるいシステムだとオレは内心で肩を竦めた。
「そして先にポイントを全損するか、明らかに戦闘不能になるか、降参を宣言したら負けとなります。ただ制限時間も設定されています。時間内に決着が着かなかった場合、両者の合計ポイントが高い方が勝者です」
勝敗のつけ方に関しては簡単に想像することができるものばかりだった。
「またもう一つ特別ルールもありまして」
おいおい、まだあるのか。
「え~パートナー同士、ポイントを譲渡し合うことができるのです」
「譲渡? ポイントを与えたりもらったりすることができるってことですか?」
そう質問をしたのはヒナテだ。
そしてハクイは質問に対し首肯する。
「その通り。パートナーのポイントが減ってきたと思ったら、ポイントを譲渡して延命措置をすることも可能だということですね」
なるほどな。いろいろルールはあるが、要は簡単だ。
「と、このようにポイント制は、いかに相手のポイントを減らすかが鍵です。たとえ二人のうち一人が強くとも」
「もう一人を集中的に狙ってポイントを減少させれば勝機もあるってことだな」
「そういうことです、クリュウくん」
オレ的にいえばまどろっこしいシステムである。
バッザを倒した時のように瞬殺する方が時間もかからないし、勝敗という部分でも明確でオレ好みではあるから。
しかしこのシステムなら、ワンマンチームが相手でも勝機があるというところがミソなのだろう。
オレとヒナテが良い例だろう。時間内にオレからポイントを削れなくても、格下のヒナテを狙って全損させれば、合計ポイントで勝つことができる可能性がある。
「ポイント譲渡はどうやって行うんですか?」
オレも気になっていたことをヒナテが聞いてくれた。
「簡単です。例えば三点分を譲渡したかったら、パートナーに三点譲渡と宣言すればいいだけです。複数の教師が審判役として近くにいますので、すぐに対応してくれます」
てっきり平凡な試合になりそうだと思っていたが、このシステムは使いようによっては面白くなると判断した。
チラリとヒナテを見る。
「な、何よ?」
「いいや、お前が足を引っ張らないか心配でな」
「なっ!? わ、私だってあと二週間でもっと強くなるしっ!」
「頼もしい言葉だな。なら今日からいつものトレーニングの三倍のメニューをこなしてもらうか」
「うげっ……マ、マジで?」
「大マジだ」
「っ……や、やっぱりアンタは鬼よ! ううん、鬼なんて言葉じゃ可愛過ぎるわ! それこそ魔王よ魔王! 大魔王!」
ほほう、偶然とはいえ正体を言い当てられるとは。
いつもの他愛もないやり取りをしていると、周りから変な視線が飛んできているのに気づく。
「ね、ねえ、あの二人ってやっぱり仲良過ぎない?」
「う~ん、だよな。そういや学院に来なかった日も同じだし」
「ウソウソ! まさかそういう関係ってこと!?」
「《白魔》と《黒魔》のカップルって前代未聞なんじゃね?」
「けどアイツら、ニッグたちを倒したんだよなぁ」
などなど好奇の視線が向けられていた。
オレは別段有象無象の言うことなど気にしないが、ヒナテは顔を紅潮させて「カ、カップルとか……そんなんじゃ……ないし」とブツブツ口にしている。
「はいは~い。皆さん静粛に~。ここにいる二人は、退学が怖くて名乗り出ることすらできなかった勇気のない勇者候補性たち――つまり君たちの代わりとして奮闘をしてくれるんですよ。それだけはちゃんと理解しておくように」
ハクイの辛辣とも言える言葉を受け、ざわついていた教室が一気に静まり返った。
勇気のない勇者候補性ね。とんでもない皮肉だな。
少なくとも勇者を目指している者たちにとっては、将来性を否定されたかのような衝撃であろう。
「ではクリュウくん、ヒナテさん、〝新人祭〟……期待していますよ」
ハクイはそれだけを言うと、オレたちを席へと戻し、座学の授業を始めたのである。
二名というのは、ニッグとバッザで、当然ながら救護室へ直行したのである。
「え~というわけで、〝新人祭〟に参加するクラス代表は、この二人になりました。はい、拍手」
黒板の前に立たされたオレとヒナテは、ハクイによって促されたまばらな拍手を受けていた。納得がいかないというよりは、信じられないという面持ちの生徒たちばかりだ。
「それでは二人とも、〝新人祭〟まであと二週間。……覚悟はありますね?」
ハクイがジッとオレたちを見つめてくる。
その言外には、以前言ったことが含まれているに違いない。
それは最下位になったら退学という罰である。
「はいっ! 絶対に優勝してみせます!」
打てば響くような返答をするヒナテに対し、
「暇潰しにはなりそうだな」
オレは特に意気込みはなかった。
「そうですか。え~では、〝新人祭〟の模擬試合について軽く説明しておきましょうかね」
相変わらずやる気が感じられない眠そうな目つきで、ハクイが黒板にルールを書き記していく。
「まず言っておくことがあるとするなら、これまで行われてきた模擬試合はあまり参考にできないということです」
ハクイ曰く、前回まで代表者は各クラス一人ずつで、総勢五人が参加をしてトーナメント方式で戦ったという。
しかし今回は――。
「いわゆるタッグマッチ。二対二の試合となります。故にその戦い方も工夫が必要になってくるでしょう。加えてポイント制が実施されます」
ポイント制というのは、選手にはそれぞれ10ポイントが与えられていて、それを削り合うシステムらしい。
特殊なバトルスーツを着用し、明確なダメージ――いわゆる有効打を受けると1ポイント減る。また攻撃を受けてダウンをすると3ポイントも減ってしまう。
「え~ちなみにダウンしている相手に追い打ちをかけるのは禁止されていますから」
もし攻撃をしたら反則負けになるとのこと。
実戦ではわざわざ立ち上がるまで待つわけがないのに、甘ったるいシステムだとオレは内心で肩を竦めた。
「そして先にポイントを全損するか、明らかに戦闘不能になるか、降参を宣言したら負けとなります。ただ制限時間も設定されています。時間内に決着が着かなかった場合、両者の合計ポイントが高い方が勝者です」
勝敗のつけ方に関しては簡単に想像することができるものばかりだった。
「またもう一つ特別ルールもありまして」
おいおい、まだあるのか。
「え~パートナー同士、ポイントを譲渡し合うことができるのです」
「譲渡? ポイントを与えたりもらったりすることができるってことですか?」
そう質問をしたのはヒナテだ。
そしてハクイは質問に対し首肯する。
「その通り。パートナーのポイントが減ってきたと思ったら、ポイントを譲渡して延命措置をすることも可能だということですね」
なるほどな。いろいろルールはあるが、要は簡単だ。
「と、このようにポイント制は、いかに相手のポイントを減らすかが鍵です。たとえ二人のうち一人が強くとも」
「もう一人を集中的に狙ってポイントを減少させれば勝機もあるってことだな」
「そういうことです、クリュウくん」
オレ的にいえばまどろっこしいシステムである。
バッザを倒した時のように瞬殺する方が時間もかからないし、勝敗という部分でも明確でオレ好みではあるから。
しかしこのシステムなら、ワンマンチームが相手でも勝機があるというところがミソなのだろう。
オレとヒナテが良い例だろう。時間内にオレからポイントを削れなくても、格下のヒナテを狙って全損させれば、合計ポイントで勝つことができる可能性がある。
「ポイント譲渡はどうやって行うんですか?」
オレも気になっていたことをヒナテが聞いてくれた。
「簡単です。例えば三点分を譲渡したかったら、パートナーに三点譲渡と宣言すればいいだけです。複数の教師が審判役として近くにいますので、すぐに対応してくれます」
てっきり平凡な試合になりそうだと思っていたが、このシステムは使いようによっては面白くなると判断した。
チラリとヒナテを見る。
「な、何よ?」
「いいや、お前が足を引っ張らないか心配でな」
「なっ!? わ、私だってあと二週間でもっと強くなるしっ!」
「頼もしい言葉だな。なら今日からいつものトレーニングの三倍のメニューをこなしてもらうか」
「うげっ……マ、マジで?」
「大マジだ」
「っ……や、やっぱりアンタは鬼よ! ううん、鬼なんて言葉じゃ可愛過ぎるわ! それこそ魔王よ魔王! 大魔王!」
ほほう、偶然とはいえ正体を言い当てられるとは。
いつもの他愛もないやり取りをしていると、周りから変な視線が飛んできているのに気づく。
「ね、ねえ、あの二人ってやっぱり仲良過ぎない?」
「う~ん、だよな。そういや学院に来なかった日も同じだし」
「ウソウソ! まさかそういう関係ってこと!?」
「《白魔》と《黒魔》のカップルって前代未聞なんじゃね?」
「けどアイツら、ニッグたちを倒したんだよなぁ」
などなど好奇の視線が向けられていた。
オレは別段有象無象の言うことなど気にしないが、ヒナテは顔を紅潮させて「カ、カップルとか……そんなんじゃ……ないし」とブツブツ口にしている。
「はいは~い。皆さん静粛に~。ここにいる二人は、退学が怖くて名乗り出ることすらできなかった勇気のない勇者候補性たち――つまり君たちの代わりとして奮闘をしてくれるんですよ。それだけはちゃんと理解しておくように」
ハクイの辛辣とも言える言葉を受け、ざわついていた教室が一気に静まり返った。
勇気のない勇者候補性ね。とんでもない皮肉だな。
少なくとも勇者を目指している者たちにとっては、将来性を否定されたかのような衝撃であろう。
「ではクリュウくん、ヒナテさん、〝新人祭〟……期待していますよ」
ハクイはそれだけを言うと、オレたちを席へと戻し、座学の授業を始めたのである。
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