欠陥色の転生魔王 ~五百年後の世界で勇者を目指す~

十本スイ

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第二十五話

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「あっ、ほら見なさいクリュウ! 今年の新色のワンピースが売ってるわ! あはっ、あっちはラグブランドのキャップよ! それに今流行りのピンクシルバーのアクセサリーもあるわ!」

 キャッキャッキャと街中をはしゃぎ回るヒナテ。
 あまり普段から見せない年相応の女子の反応は新鮮ではあるが……。

「おい、まだ見て回るのか? もうこんなに買ってるじゃないか」

 彼女の後ろを歩くオレの両手には、数えるのも面倒なほどの紙袋が握られていた。
 鍛えているので別に重いわけではないが、かれこれ街中を散策して四時間。さすがに精神的に疲れてきた。

「何よもう! 別に私だけのものじゃなくて、ちゃんと父様やアンタのものも買ってるじゃない!」
「だが八割はお前の私物のような気がするんだが」
「……な、何のことか分からないわね」
「これだから女は。何故買い物にこれほどの時間がかかるんだまったく」
「そういうものなのよ、女の子っていうのは!」
「面倒な生き物だ」
「女の子は面倒なの! けれどその面倒さが女の子を可愛くするんだからね!」

 何か明言みたいなものが飛び出たが……。

「……そうか」

 もうそれだけしか言えない。
 五百年前にも、こんなふうにトーカに連れ回されたことがあった。
 あの時も、大して何も買わないというのに、ニ十件以上の店を見回ったのだ。

 ああいうのって店側にしてはいい迷惑なんじゃないだろうか……?

 だって確実に冷やかしだろうから。オレなら買わないからさっさと帰れって思う。

「それに男の人ってファッションに疎過ぎよ。父様もアンタも、ず~っと似たような服ばっか来て。少しはオシャレしなさいよ」
「興味が無い」
「……はぁ。見た目は良いくせに残念なんだから」
「あ? 何か言ったか?」
「何でもないわよ! でも今日は私へのご褒美でもあるんだから付き合ってもらうわよ!」

 ご褒美というのは、彼女の代表者決定戦合格に関してだ。
 もし一人でニッグを倒せたら、買い物にでも何でも付き合ってやると約束した。
 そしてクーからは、ご褒美としてたんまりと祝いという名の小遣いをもらったのである。

「ほらほら、次はあっちに行くわよ!」

 ……まあ、オレとしても一度口にしたことを反故にするのは性分じゃない。
 故に今日くらい荷物持ちくらい我慢してやるが。
 それにしても、魔王時代の知り合いが今のオレをみたら愕然とするだろうな。

 魔人や魔物を顎で扱き使っていたオレが、今や小娘一人の言いなりになっているのだから。あのトーカでさえ、この状況を見たら大笑いすることだろう。

 しばらく街中を歩き回りながら、段々と日も落ちてきて夕暮れが近づいてきた。
 人気も徐々に少なくなり、そろそろ屋敷へと帰ろうとしたその時である。

「――きゃあぁぁぁぁっ!?」

 突如として細い路地の奥から悲鳴が聞こえてきた。

「い、今の何?」
「さあな。女が痴漢にでも遭ったんじゃないか」
「だったら大変じゃない! 行くわよ!」

 ヒナテの正義感が爆発し、彼女は現場に疾走していく。
 やれやれと肩を竦めながら、オレもまた後を追った。
 そして路地の先に辿り着くと、意外な光景が飛び込んできたのである。

「うげっ! な、何コイツ!?」

 ヒナテが、そこにいたある存在を見て気持ち悪がる。

「? ……コイツは」

 オレもまたソイツを見て眉をひそめた。
 ソレは地面を突き破るようにして這い出ており、ニョロニョロとその長い体躯をうねらせている。
 頭らしき先っぽには、目や鼻は見当たらず、大きな丸い口だけが存在感を示していた。
 そんな口にはビッシリと鋭い歯が生え揃っており、そこからボタボタと涎のような液体を滴り落としている。

「……スネークワーム?」
「え? クリュウ、コイツのこと知ってるの?」
「魔物の一種だ」
「魔物!? 何で王都なんかに!?」

 そこでふと思い出したのはクーとの会話だ。
 彼から最近魔物の被害が続出していることは聞いていた。

 まさかコイツが……?

「と、とにかくあの人を助けなきゃ!」

 スネークワームの傍には、気絶した女性が倒れ込んでいる。
 ヒナテは詠唱を唱え、《具現》を使って戦闘態勢に入った。しかし彼女の敵意に気づいたのか、スネークワームは逃げるようにして地面の中に引っ込んでしまう。

「あっ、待ちなさいっ!」

 追いかけるものの、地面の奥の方に行ってしまったようで討伐も捕縛も叶わなくなった。

「ああもう! もう少しだったのに!」

 悔しそうに地面を踏みつけるヒナテ。
 だがその時、オレは上の方から最近度々感じる視線を捉え顔を向けた。
 そこは屋根の上であり、明らかにこちらを見下ろしている人影があったのである。

「おい、ここは任せるぞ」
「え? あ、ちょ、クリュウ!」

 ヒナテの制止に構わず、オレはひとっ跳びで屋根上に到着する……が、

「ちっ、どこに行った?」

 すでに逃げ去っていたのか、その場にはいなかった。
 視線を巡らせ探すと、屋根を伝って逃げている人影を発見。
 オレはすかさず追いながら目を凝らす。

「……アイツは……!」

 後ろ姿だけしか分からなかったが、小柄な体格に特徴的な帽子を被っていた。 

 そう――ネコミミフードである。

 ソイツは入り組んだ路地に入ったので、オレも追いかけるものの……。

「……気配が消えた」

 今度こそ見失ってしまった。痕跡がまるでない。

「……スニークスキルに特化しているのか。大したものだ」

 オレは探すのを諦めて、ヒナテを置いてきた現場へと戻る。

「――あーっ、ちょっともう! いきなりいなくならないでよね!」

 そこにはすでに街の衛兵がいて調査を開始していた。どうやらヒナテが呼びつけたようだ。

「倒れていた女は?」
「病院に搬送されたわよ。まあ見たところ無傷だったみたいだけどね」

 それでも一応念のためということで送られたとのこと。

「ただ気になることが一つ」
「気になること?」
「女の人なんだけど、どうやら私たちと同じ学院の生徒だったらしいの」
「何?」
「それで外傷は確かになかったんだけど、どうやら魔力が枯渇したせいで意識を失ったようなのよ」
「なるほどな……」

 スネークワームには、他種の魔力を吸収するという特殊能力があるのだ。ただスネークワームは、街中に出没するような魔物ではない。
 というよりこの地域には棲息していない存在だ。

 それが勝手に現れたというのはおかしい。
 つまり魔物をこの王都に侵入させた何者かがいるというわけだ。

 やはりクーの言っていた通り、魔人の仕業か……。

 少なくとも黒幕がいるのは確かである。
 そして気になるのはやはり捕縛し損なった、あの人影。

「ねえ、あの魔物って何がしたかったんでしょうね?」
「……さあな」
「いろいろ知ってるアンタにも分からないのね。ところでさっきどこに行ってたのよ?」
「怪しい人物がいたんでな」
「怪しい人物? 本当にいたの?」
「逃げられた」
「アンタが追いつけないってどんな人物よ。本当にいたんでしょうねそんな奴?」

 ヒナテはオレへの過大評価が過ぎる。オレ以上に強い奴なんてそうはいないとでも思っているのかもしれない。まあそれは事実だろうが。
 だからこそオレが追いつけないような輩が、そう簡単にここにいるとは思えないようだ。

「とにかくもう用は無いだろう。さっさと帰るぞ」
「あ、ちょっと荷物荷物! 忘れないでよね!」

 ……ちっ。せっかく置いて帰ってやろうと思ったのに。

 オレは賊らしき人物を追いかける時に、この場に置いていった紙袋を持って、ヒナテと一緒に屋敷へと帰っていった。
 そして今日遭遇した事件についてクーと話したが、詳しいことは分かっておらず、オレたち二人に怪我がないことを素直に喜んだ。

 ただクーに改めて、これまで犠牲者になった者たちの様子を尋ねてみると、今回のように魔力を奪われていたということだった。つまり最初から食うつもりでも傷つけるつもりでもなく、ただ魔力を奪うことが目的だったようだ。
 しかしあくまでもスネークワームの特性というだけで、肉食で普通に食事だってするのである。本来なら人間を襲いそのまま捕食してしまう。

 それなのに魔力だけを……というのが気になった。
 まあいろいろ気になることはありつつも、クーにはあとは大人たちに任せて、オレたちは〝新人祭〟に集中するように言われたのだった。



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