欠陥色の転生魔王 ~五百年後の世界で勇者を目指す~

十本スイ

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第三十三話

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「――《具現》」

 オレが脳裏に描いたイメージが、魔力を媒体として形を成す。
 それはサーフボードのような姿をし、オレはその上に乗った。
 そしてボードの後部から魔力噴射による推進力を利用して、空中を自在に飛行する。

「嘘っ!?」

 声を上げて驚くのはエーミッタだけでなく、観客たちも同様だ。
 初めて見る《法具》の効果に驚愕している様子である。

 オレはそのまま空中を素早く移動し、大地の手の背後を取ると、そのまま蹴りを一発くらわせた。その直後に大地の手は、砂上の楼閣かのように崩壊していく。

「んなっ!? 私の魔法を一撃でっ!?」
「だから言ったにゃ。リューくんは強いって。けどこっちも準備が完了したにゃ」

 生み出した二本の短刀を器用にクルクル回したあと、大地へと突き刺した。
 ナイフが魔力に戻ると、そのまま解けるようにして大地へと流れていく。

 すると突如、ナイフを刺した地面が盛り上がり、そこから奇妙な生物が二体、姿を見せた。
 人間の五倍はあろうかと思われる巨体を持つモグラのような生物である。両手には鋭い爪を持ち、赤茶色の体毛に覆われているが、もっとも異質なのは長く伸び出た鼻であろう。
 そこがドリル状になっていて、ギュインギュインと激しく回転しているのだ。

「なっ!? 魔物を召喚した!?」

 いまだオレに首根っこを掴まれたまま、ヒナテがウーナンが召喚した生物を見てギョッとしている。
 そのまま地上へと降りて、四人となった敵と対面する。

「けほっ、けほっ、あー息がしにくかったわ」
「そりゃ大変だったな」
「誰のせいよ誰の! ああもうそんなことより、あの子、魔物を召喚だなんて……確かアレ、ドリルモグラって魔物よ」
「まんまだな」
「強そうな名前じゃないけど、ああ見えてランクは確かBだったはず。勇者でも倒すのに時間がかかるくらいに強いのよ」
「ほう、結構なものを使役しているじゃないか」
「というか魔物を自在に召喚するなんて普通じゃ……! もしかしてこの前の魔物事件って?」

 ヒナテもその可能性に気づいたようで、より一層警戒を見せる。

「さあ、どうだかな……」
「どうだかって、魔物を召喚できるって確か誰にでもできるもんじゃないはずよね? それこそ秘伝であったり、特別な固有魔法を持っていたりしないと……。じゃあ犯人はあの子ってことで間違いないんじゃ……」

 そう、彼女の言う通り魔物を召喚するのは難しい。
 一子相伝の術であったり、元々備わっている天与の才によるものが多い。
 魔物の多くは人に慣れないため、使役するのもまた難しい。あれほどの魔物ならばなおさらだ。

 それなのに使役できているということは、特別な能力をウーナンが持っているということに他ならない。そこはさすがに《銀魔》といったところか。

「そんなことより次が来るぞ」

 オレはそんな憶測よりも目の前のことに集中をことを促す。

「さあモグちゃんグラちゃん! 久々に暴れていいにゃ! 敵は――あの二人にゃ!」 

 また陳腐な名前を付けたものだと思った矢先、ドリルモグラたちが一斉に地面に潜る。
 そして即座にオレとヒナテを挟み込むような形で姿を現す。
 オレは咄嗟にヒナテの首根っこを掴む。

「うぐっ、またぁっ!?」

 しかし今度は彼女を放り投げた。

「お前はとっととそいつと決着をつけてこい!」

 投げた先にはエーミッタが待ち構えていた。
 そしてドリルモグラの回転する鼻がオレへと迫ってくる。

 …………面白い。

 少しだけ歯応えがありそうな敵に、思わず笑みが零れる。
 だから少しだけ……ほんの少しだけ〝本気〟で威嚇をしてみた。

「……え?」

 その光景を見て、ウーナンが唖然とする。
 何故なら――ドリルモグラたちがオレに攻撃する手前で止まっているからだ。

「ど、どうしたにゃ! 二人ともぉ!」

 無駄だ。ドリルモグラたちに対し、オレは直接濃厚な殺意を込めた魔圧を放ったのだ。
 確かにBランクの魔物といえば、相当な手誰だろう。

 しかしオレにとってはたかがBランク程度だ。
 オレとまともにやり合いたいなら、せめてAランクよりも上のSランク以上の魔物を連れてこい。
 ギロリとドリルモグラたちを睨みつけると、彼らは怯えたように全身を震わせている。

 そしてそのままスッと伏せのような状態になったので、軽く二体の頭を撫でてやった。

「いい子だ。大人しくしていろよ」
「ふぇぇぇぇっ!? う、うううう嘘だにゃぁぁぁぁぁっ!? 何で!? 何で!? モグちゃんとグラちゃんは僕にしか懐いてにゃいのにぃぃぃぃぃっ!?」

 痛快なウーナンの言葉がこだまする中、オレは隙を突いてウーナンの背後を取り、ガシッと頭を掴む。

「さて、このまま脳漿をぶちまけてほしいか、それとも降参するか……どっちだ? オレ的には前者がオススメだが」
「怖いにゃ!? にゃ……にゃはは…………まいったにゃ……」

 瞬間、ウーナンのポイントが0になり、彼女は失格となる。
 同時に歓声が響くかと思いきや、あまりに意外な結末だった故か観客たちは絶句した。
 オレはそんなことに構いやせずに、残りの試合を高みの見物をすることにしたのである。



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