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第三十八話
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それ造ったのオレだぁぁぁぁぁっ!?
思わず顔が引き攣ってしまい、ついそっぽを向いてしまった。
まさかここでソレが出てくるとは思わなかったのである。
そう、かつてオレは莫大な魔力を蓄積し《賢者の石》を精製することができた。まあ、ほとんどまぐれに近い偶然の産物ではあったが。
それを自身の身体の中に埋め込み、病弱な身体を無理矢理強固なものに変え、魔人に匹敵するほどの潜在能力を生み出したのだ。
アレがあったから魔王として君臨できたとも言えるだろう。もしなければ、病弱な器などすぐに壊れていたはずだ。
元々《賢者の石》とは願望石と呼ばれ、持つ者の願いを現実化することができる。
しかし願いを成就するためには、その願いの強さに従って対価が要求されるのだ。
それは――寿命。
寿命を削ることで、願いを叶える。
創世時代に生まれた本物ならば、きっと対価もなく願いを叶えてくれるかもしれない。
だがオレが手にしたのは、あくまでも人工的に造った〝レプリカ〟だ。
ただそれでもオレの命を対価として、転生させてくれるだけの願いを現実化できる力を持つ。
コイツがどこでその力を知ったのか知らないが、なるほど……確かに魔力を収集する理由にはなっている。
恐らく学院を選んだのも、どこかで魔力質の良い《銀魔》が複数現れると聞いてのことだろう。そいつらが顔を見せるであろう模擬試合で、一網打尽にするつもりだったようだ。
「何故わざわざ模擬試合に参加する必要があった……? いや、そうか……会場内にバジリスクとスネークワームを召喚するための準備だな?」
「ほほう、なかなか鋭いじゃねえか。正解だ。召喚には俺様の血液が必要でな。会場内にバラ撒かせてもらったわけだ」
あの時、『種蒔き』と言っていたのはこのことだったらしい。
「……お前のクラスの《銀魔》がケガで出場できないと聞いたが、それもお前だな?」
「は? ……ああ、あのバカな男のことか。俺様が模擬試合に出場するのが決定した時、立場も弁えずに上から目線で『僕の言うことに従え』などと言ってきたから、ついその場で魔力を吸い尽くしてやったぜ」
そのせいで今もなおベッドの上らしいが。
「なるほど。しかし魔力を集めるなら誤算だったんじゃないか? 他のクラスの《銀魔》二人が出場しないっていうのは」
「なぁに、出場せずとも観戦にはくるだろう。会場に入るなら参加しようがしまいがどっちでも良かったしな」
そういうこと……か。
「まだ《賢者の石》を精製するには六割といったところだが、それでもようやくここまできた。構想から五百年……まったくもって長い道程だぜ」
……五百年? じゃあオレが死んだ時からじゃないか。
…………あれ? そういやコイツ、どこかで見たような……。それにこの呪力の感じも…………あ!
「お前、もしかしてヘタレオーか?」
「んなっ!? 何で貴様が俺様の本名をっ!?」
あ、やっぱそうだったらしい。
「しかしレッドウォーと名乗るとは、余程ヘタレオーの名前が嫌だったのか」
「ぐっ! 俺様をその場で呼ぶなっ!」
「まあ確かにあの頃、他の魔人たちにヘタレの王様などと揶揄されていたからな」
オレだってその名をつけた親がいたらぶっ殺したいだろう。
「い、一体何者だ貴様! その名を知ってる奴らはほとんど皆殺しにしたはずだぞ!」
「どうやらまだ気づいていないようだ。無理もないがな。まああの下級魔人だった奴が立派に出世したもんだな」
本当に時代の流れというものを感じる。かつてのコイツは魔人の中でも弱い方だったのに、今では魔王を名乗っているのだから。
「な、何を言って……!」
「まあとりあえず――」
――パチンと指を鳴らす。
すると突如として景色が変わったことに、ヘタレオーもといレッドウォーが驚愕の表情を浮かべた。
「なっ、いきなり何だ!? こ、これは《|転移(ジャンプ)》だと!?」
文字通り別の場所へ転移する魔法の一種である。
その気になったら結界外へ出る手段としてコレがあった。ただし結界よりも強い力を持つオレ一人だけである。
レッドウォーと一緒に転移できたのは、結界の効果に左右されないからだ。
今、レッドウォーはドームの天井上から、一瞬にして荒野へと移動したことに驚いている。
「馬鹿な、あの一瞬で俺様をも強制的に転移など……有り得ん!」
「残念だがオレに不可能はないんでな」
「貴様ぁ……俺様の過去を知り、《転移》まで……マジで何者だ?」
ようやくオレの不気味さに警戒をし始めたようだ。
だがいちいち説明するつもりはない。
したところで無意味だ。何せコイツはここで――消えるのだから。
「ここなら思う存分暴れられるだろう。相手は腐っても魔王……この十五年の中で、ようやく楽しめる戦ができそうだ」
オレは殺気とともに全身から魔力を噴出させる。
思わず顔が引き攣ってしまい、ついそっぽを向いてしまった。
まさかここでソレが出てくるとは思わなかったのである。
そう、かつてオレは莫大な魔力を蓄積し《賢者の石》を精製することができた。まあ、ほとんどまぐれに近い偶然の産物ではあったが。
それを自身の身体の中に埋め込み、病弱な身体を無理矢理強固なものに変え、魔人に匹敵するほどの潜在能力を生み出したのだ。
アレがあったから魔王として君臨できたとも言えるだろう。もしなければ、病弱な器などすぐに壊れていたはずだ。
元々《賢者の石》とは願望石と呼ばれ、持つ者の願いを現実化することができる。
しかし願いを成就するためには、その願いの強さに従って対価が要求されるのだ。
それは――寿命。
寿命を削ることで、願いを叶える。
創世時代に生まれた本物ならば、きっと対価もなく願いを叶えてくれるかもしれない。
だがオレが手にしたのは、あくまでも人工的に造った〝レプリカ〟だ。
ただそれでもオレの命を対価として、転生させてくれるだけの願いを現実化できる力を持つ。
コイツがどこでその力を知ったのか知らないが、なるほど……確かに魔力を収集する理由にはなっている。
恐らく学院を選んだのも、どこかで魔力質の良い《銀魔》が複数現れると聞いてのことだろう。そいつらが顔を見せるであろう模擬試合で、一網打尽にするつもりだったようだ。
「何故わざわざ模擬試合に参加する必要があった……? いや、そうか……会場内にバジリスクとスネークワームを召喚するための準備だな?」
「ほほう、なかなか鋭いじゃねえか。正解だ。召喚には俺様の血液が必要でな。会場内にバラ撒かせてもらったわけだ」
あの時、『種蒔き』と言っていたのはこのことだったらしい。
「……お前のクラスの《銀魔》がケガで出場できないと聞いたが、それもお前だな?」
「は? ……ああ、あのバカな男のことか。俺様が模擬試合に出場するのが決定した時、立場も弁えずに上から目線で『僕の言うことに従え』などと言ってきたから、ついその場で魔力を吸い尽くしてやったぜ」
そのせいで今もなおベッドの上らしいが。
「なるほど。しかし魔力を集めるなら誤算だったんじゃないか? 他のクラスの《銀魔》二人が出場しないっていうのは」
「なぁに、出場せずとも観戦にはくるだろう。会場に入るなら参加しようがしまいがどっちでも良かったしな」
そういうこと……か。
「まだ《賢者の石》を精製するには六割といったところだが、それでもようやくここまできた。構想から五百年……まったくもって長い道程だぜ」
……五百年? じゃあオレが死んだ時からじゃないか。
…………あれ? そういやコイツ、どこかで見たような……。それにこの呪力の感じも…………あ!
「お前、もしかしてヘタレオーか?」
「んなっ!? 何で貴様が俺様の本名をっ!?」
あ、やっぱそうだったらしい。
「しかしレッドウォーと名乗るとは、余程ヘタレオーの名前が嫌だったのか」
「ぐっ! 俺様をその場で呼ぶなっ!」
「まあ確かにあの頃、他の魔人たちにヘタレの王様などと揶揄されていたからな」
オレだってその名をつけた親がいたらぶっ殺したいだろう。
「い、一体何者だ貴様! その名を知ってる奴らはほとんど皆殺しにしたはずだぞ!」
「どうやらまだ気づいていないようだ。無理もないがな。まああの下級魔人だった奴が立派に出世したもんだな」
本当に時代の流れというものを感じる。かつてのコイツは魔人の中でも弱い方だったのに、今では魔王を名乗っているのだから。
「な、何を言って……!」
「まあとりあえず――」
――パチンと指を鳴らす。
すると突如として景色が変わったことに、ヘタレオーもといレッドウォーが驚愕の表情を浮かべた。
「なっ、いきなり何だ!? こ、これは《|転移(ジャンプ)》だと!?」
文字通り別の場所へ転移する魔法の一種である。
その気になったら結界外へ出る手段としてコレがあった。ただし結界よりも強い力を持つオレ一人だけである。
レッドウォーと一緒に転移できたのは、結界の効果に左右されないからだ。
今、レッドウォーはドームの天井上から、一瞬にして荒野へと移動したことに驚いている。
「馬鹿な、あの一瞬で俺様をも強制的に転移など……有り得ん!」
「残念だがオレに不可能はないんでな」
「貴様ぁ……俺様の過去を知り、《転移》まで……マジで何者だ?」
ようやくオレの不気味さに警戒をし始めたようだ。
だがいちいち説明するつもりはない。
したところで無意味だ。何せコイツはここで――消えるのだから。
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