異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ

文字の大きさ
8 / 69

しおりを挟む
「――――つまりあんたが異世界から戻ってきたら、この街が変わり果てていたと?」

 一通り説明を終えた後、理九がそう尋ねてきたので首肯した。

「まさかそんなファンタジーな経験をした人間が実際にいるなんて……正直まだ半信半疑だよ」
「おいおい、この街に起こっていることも十分ファンタジーだと思うぜ」
「……そう言われればそうか」

 理九も納得したようだが、今度はこちらから質問を投げかけてみた。
 当然その質問とは、現在の時間軸が実際はどうなっているのかだ。部室での物色から推測はできたが、それを証明するものは持っていなかったからだ。

「今は西暦2025年のえっと……」
「八月だよ、お兄ちゃん」
「ああ、そうだそうだ。もう日付なんていちいち確認してないから忘れてたよ」
「2025年の八月? それマジ?」

 確かめるために再度聞き直し、二人が同時に頷いた。

(俺が召喚されたのは2024年の夏休み……八月だったはず。つまりあれから一年間しか経ってねえのか)

 推測していた通り、まだ一年半以内の時間しか経過していないらしい。これで時間軸が確定できたのはいいが、次に最も重要なことを問い質した。

「一体この街に何が起こったんだ?」

 すると、二人ともが苦々しい表情を浮かべる。そして理九が重い口を開く。

「僕たちにもハッキリしたことは分からないんだ。ただ半年くらい前……二月頃だったと思うけど、この街……というか世界中で大地震が起きたんだよ」
「大地震? いや、ていうか世界中ってどういうことだ?」

 何でも同時期に世界中で大地震が起き、あっという間に今のような崩壊した大地となってしまったらしい。中には地震によって発生した津波で飲まれた国や島々などもあるとのこと。

「地震は一度だけじゃなくて何度も続いて、その度に多くの人が犠牲なっていったんだ。もちろん政府が何とか対処しようとしたけど、相手は災害だ。できることなんてタカが知れてた」 

 世界を崩壊させるような大地震だ。今の科学力でどうにかできる代物ではないだろう。それこそ魔法という超常な力があったなら別だったかもしれないが。

「しばらくして地震は収まったけど……それで安心はできなかった」
「……あのゾンビどもだな?」

 地震が起きただけでは、人間がゾンビになるなんて不可思議な現象は起きないはず。

「そうだ。ある日、突然人が理性を失って互いを襲い始めたんだ。そいつらの身体が徐々に腐り始めて、襲われた人たちに次々と同じように……なっていった」

 ギリギリと悔し気に食いしばる姿を見て、まさかと思って尋ねてみた。

「……お前たちの家族は?」

 その質問に、理九は口を噤み、小色は泣きそうな表情を見せた。それで何となく察した。つまりはそういうことなのだろう。

「悪いな、野暮なことを聞いちまった」
「……別にいいさ。それに僕たちみたいな人だっていっぱいいるしね」

 親や兄弟、友人や恋人など、大切な存在が変わり果て絶望をした人は多いだろう。
 一瞬、日門もまた脳裏に仲が良かった部長や後輩のことを思い出し胸が痛んだ。無事でいてほしいと願うも、もし……と思うと怖くなる。

「にしても何が原因で、人間がゾンビになったのか分かってるのか?」
「いいや、ただ……まだネットが通じていた時期に、噂だけど飛び交っていたことがある」
「それは何だ?」
「…………ある国のウィルス兵器が原因だって」

 当時、その国は凶悪なウィルスを使った兵器を研究しているという話があった。日本だけでなく他の国も警戒し、その研究を中止するように国々が要求したのである。
 実際その国は研究を凍結したと発表はしたが、いろいろ黒い部分が多い国だったこともあり、人々は絶対に陰で研究を続けていると考えていた。

 そんな矢先の出来事。あの大地震で、研究施設が崩壊した結果、そこからウィルスが世界中へと流れ込んだのではないかと。
 地震からゾンビ化までライムラグがあったのは、広がるのに時間がかかったせいではないかと言われている。あくまでも噂でしかないが。

「なるほどねぇ。ありきたりっていえばありきたりな流れではあるけどなぁ……」

 そういう映画とかもあるし、可能性としては考えられる。しかしそれだとまず現地にいた人間たちに異変が起こるだろうし、その異変もすぐに世界へと知れ渡るだろう。つまりそれで発生源が分かる。

 しかし今も分かっていないということは、その国で起きたことではない可能性だってある。もっとも、秘密裏にウィルスを他国へ運んでいた時に起きたという仮説も立てられるし、原因なんて考えればキリがない。

 そもそも原因を突き止めたところで、すでに世界中にゾンビ化現象が広がっている以上は、もう手遅れということだ。ワクチンがあれば話は別だが、映画みたいにそう都合よくそんなものが存在しているのかも謎である。

(けど一番気になるのはウィルスよりも大地震の方だな)

 世界で同時期に巨大な地震が起きるのはおかしい。それだけの規模、まるで地球全体が大きく揺れたみたいなものだ。

(それこそ異世界にある最大級の魔法をぶっ放せば惑星全体を揺らすことも可能だけどな……もしくは、それぞれの国が同時に核を放ったとか? いや、さすがにそれはねえよな)

 仮に全国が核を所持していたとして、どこも戦争の宣言もなく、また同時に核爆弾を他国へ向けて発射するなんて有り得ない。

 それに核を使ったのなら、もっと世界はどす黒い空気に包まれているだろう。数年以上は人が地上で生活なんてできないほどに。しかし大地は破壊され、ゾンビが渦巻いているといっても、この地が放射能で汚染されているようには思えない。
 実際に理九たちも体調には影響ないようだから、その線は薄いだろう。

(つーことは、世界に起きた大地震は自然災害ってか? ……このまま地球潰れんじゃね?)


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

処理中です...