異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ

文字の大きさ
37 / 69

36

(これは……麻痺毒? いや、神経毒か? なるほど、身体の色が変わったのは毒属性に変化したからか)

 異世界でも毒を持つモンスターは多い。被害に遭ったことも、死にかけたことも何度もあった。

 身動きの取れない日門に対し、巨大ナメクジはさらに手を緩めずに、触手で無数の殴打を繰り出してくる。顔や腹など全身に衝撃が走る。その威力で背中の土壁にどんどん亀裂が入っていく。もし生身の人間ならすでに内臓破裂くらいはしていることだろう。

 そして十数秒後、攻撃が止み、一度の沈黙が漂う。
 磔のままぐったりと項垂れている日門を見て、巨大ナメクジが勝機を確信したかのように気味の悪い奇声を上げる。

「――――んだよ、もう終わりか?」

 日門は意識を失っているわけではなかった。さらにいうなら、あれだけの暴力をその身に受けてもなお、ほぼダメージもなかったのである。
 顔を上げて不敵に笑う日門に対し、巨大ナメクジが今度も粘液を飛ばしてきた。それが全身に付着すると、今度は皮膚が溶け始める。

(なるほどな。今度は溶解液ってわけか)

 溶解液、毒液、粘着液、触手、小ナメクジの生産と、随分と多岐に渡る手段を持っているものだ。それぞれが汎用性もあるし、戦い方によっては無双することも可能だ。

 実際に異世界でも、これほどの強さを持ち合わせたモンスターはランクも上位に位置していたはず。

(大したヤツだな。それに……)

 皮膚が爛れる度に激痛が走る……が、日門が表情を歪めることはない。それは何故か。簡単だ。この程度の痛みなど、今の日門にとっては軽く抓られているのと同義。
 まあもっと分かりやすく言えば慣れているだけ。

 異世界で自分に戦う術がないことを知った時、自分の取れる選択肢は二つあった。厳密にいえばもう少しあるだろうが、日門にとっては二つの中から選ぶしかなかったのである。

 一つは、戦うことを拒絶し、異世界のどこかで平和を願い過ごすこと。
 しかしこれは当然、元の世界に戻ることはできず、かつ異世界を侵食する厄災によって、いずれ異世界もろとも滅ぼされる可能性が高い。けれど辛い思いをすることなく、幾分かの平和は満喫することができる。

 そしてもう一つは、戦うことを選び異世界を救うこと。当然この道程には考えられないほどの試練が山ほど待っている。
 戦えない人間が、ゼロから学ぶには途方もない時間を必要とする……普通は。それを短縮するには、当然ながら常識外の手段を講じるしかない。 

 それが《魔核》を埋めることや、魔文字を身体に刻むことなどだ。
 その過程で仮死状態にもなったし、激痛に苛まれることもあった。また短時間で力のコントロールを極めるために文字通り死ぬほどの修練を乗り越えたのである。

 その時に受けた様々な痛みに比べると、こんな胃酸のダメージ程度、笑って見守っていられるくらいのものだ。
 とはいっても放置しておいたら、身体の機能自体がダメになり構造的に動けなくなると困るのも事実。

(あまり使いたくはねぇけど、この状態ならしょうがねぇか)

 軽く深呼吸をして、そして始める――。

「――――――《外道再生《げどうさいせい》》」

 日門が呟いた直後、全身に広がっていた傷が徐々に治癒し始める。それを見た巨大ナメクジがギョッとした様子で、さらに溶解液をぶつけてくるが、やはり溶解速度を上回る勢いで治癒していく。

 それでは殺せないことを把握したのか、今度は粘液から触手を用いて日門の身体を締め付け始める。どうやら全身の骨を砕いて絞め殺す手段に変えたようだ。
 こうして素早い状況判断に的確な攻撃を選択できるのは見事としか言えない。もし相手が日門でなければ、この世を統べる存在にすらなれていたかもしれない。

「…………俺はよぉ」

 万力のごとく全身を締め付けられながらも、静かに口を開く日門。

「これでも結構温厚のつもりなんだわ」

 ギシギシと体中から音が響く中、それでも平静と日門を冷たい瞳で巨大ナメクジを射抜く。

「怒るって結構しんどいんだぜ? エネルギー使うしよぉ。だから大抵のことは笑って許すことにしてる。その方がこっちも楽だしな。……けどよ、俺にだって我慢ならねぇことがある。何だか、分かるか? なあ?」

 ギロリと殺意に満ちた眼差しを向けると、そこで初めて恐怖に怯えたように巨大ナメクジが身体を硬直させた。

「お前は俺の身内に手を出した。だから――――覚悟しろよ」

 刹那、日門の全身から業火が溢れ出し周囲を包み込む。触手は一瞬で灰と化し、巨大ナメクジや小ナメクジたちもまた熱さに気圧されるように後ずさる。

「――逃がさねぇよ」

 日門はナメクジたちが反応できないほどの速度で接近し、次々と小ナメクジを撃破していく。巨大ナメクジが何とか止めようと触手で捕縛しようとするが、まったく追いついていない。

 そしてあっという間に、小ナメクジの存在が焼失し、あとは巨大ナメクジだけとなった。
 このままでは自分も同じように焼失させられると察知したのか、穴を溶解させて地中へ逃げようとしてくるが、当然それを黙って見ている日門ではない。

「――《土の針山》」

 地面を殴りつけると、その衝撃が巨大ナメクジの下にある地面から、剣山の如く鋭くなった土塊が現れて串刺しにする。
 ただ単純な物理攻撃はダメージがないのか、痛みは感じていない様子だ。それでも針のせいで身動きができずにいた。何とか針山を溶解させようと体液を溢れさせるが、それに若干時間がかかるだろう。その間を逃すつもりなどない。

 再び全身から炎を噴出させる日門。その熱量は、溶解液のように周囲の地面を変形させていく。そして跳躍し、巨大ナメクジの頭上に辿り着くと、両拳を組んで天に掲げる。すると、全身の炎が両拳を伝って上空へ立ち昇り、巨大な拳の形を成していく。

「行くぜ――《炎武・巨転絶火《きょてんぜっか》》っ!」

 全力で両拳を振り下ろした瞬間、同じように上空に浮かぶ炎の拳が巨大ナメクジの頭上へ向かってハンマーのように落下していく。
 回避する間もなく、巨大ナメクジは炎塊の餌食となり、頭から一気に潰されると同時に全身を凄まじい熱量が襲い掛かる。

「ギリィィィィィィィイイイイイイイイッ!?」

 そこで初めて痛烈は断末魔のような鳴き声を上げ、その身体が徐々に崩れていき灰となり土に還っていく。
 降り立った日門は、敵が焼失するまでジッと見つめている。

 そして炎が消え、その後に何もない状態を確認した後、軽く溜息を吐いてから大穴の方へ向かおうとする――が、

「ぐっ……っ!?」

 突然胸の中に埋め込まれている《魔核》が大きく脈動し、日門は顔をしかめてた。
 そしてそれに呼応するかのように全身が淡く発光して――。




あなたにおすすめの小説

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。