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第十二話

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 見たところ敵は六機。
 しかし敵はともかく味方の方は、数は多いものの大げさな動きをせずに何とか小規模の被害で相手を倒そうとしているように見える。

 ここが外ならば味方も思う存分暴れられるのだろうが、街中であり避難民もまだいる状況だ。
 下手に動き回ると被害が大きくなるため、味方は耐え忍んでいるというわけである。

(敵にとってはここで暴れても損害はないからな。だから自由に動き回れるってことか)

 これではいくら味方の数が多くても、動きが制限されている分不利だろう。
 そう思っていると、近くで戦っていた味方の機体が相手の空からの滑空攻撃に盾を吹き飛ばされてしまった。
 すぐに盾を拾おうとするが、相手の追撃の方が早くまともに突撃を受けてしまう。

 それはまさに大惨事である。
 何と言っても巨大な鉄の塊が弾き飛ばされていくのだから。
 幾つもの建物は下敷きになり崩壊を迎え、さらに大きな悲鳴が上がる。

 ただそれだけでなく、機体は世廻がいる方向へと流れてきた。
 すぐに屋根から別の屋根へと大きく跳び上がりその場から離脱する。
 ギリギリのところで世廻は巻き添えになるのを防いだが、ホッと息吐く暇はない。

 何せ機体は全身からバチバチバチと放電現象を起こし、結構なダメージを受けている様子が見られたのだから。
 さらにいえば、機体がピクリとも動かずに沈黙している。
 見れば腹部分に備わっているコックピットらしきところが開き、そこから一人の女性が投げ出されて地面に倒れていた。

 世廻はすぐに駆け寄る。
 相手は世廻の苦手とする成人女性だ。
 本来なら触れたくもないが、さすがにそうは言っていられない状況である。

 軽く深呼吸をしてから意を決し相手の首に手を当て脈があるか確認する。
 続いて無理矢理瞼を開き瞳孔を見た。
 どうやら命に別状はなさそうだ。ただ深く意識を失っているようで、これではもう戦闘行為は望めない。

 そこへ――。

「――セカイッ!」

 ミッドが何故かリィズたちを伴って現れた。

「ミッド、何でその子たちをっ……ああいや、今はそんなことどうでもいい! この女を診療所へ運べ。致命傷は受けていないと思うが、意識を失っている」
「そのパイロットスーツみたいな姿、もしかしてこの子があの機体に?」
「質問はあとだ。急げ!」
「あ、ああ!」

 ミッドはすぐに女性を抱えると、そのまま診療所の方へ走って行った。
 どうやらここは診療所のすぐ近くだったようだ。
 もう少し距離があったら診療所ごと機体に潰されていたかもしれない。危なかった。

「リィズたちも早くここから離れろ!」
「え、えっとセカイさんはどうするんですか!」
「オレは……」

 チラリと仰向けに倒れたままの《精霊人機》を見る。

 ――試してみなければ分からない。

「いいか、とにかく地下へ行くんだ!」

 世廻は全速で《精霊人機》の方へ向かうと、意を決してコックピットの中へと入り込んだ。
 だが席へと座ったものの、ウンともスンとも言わない。

 計器類のパネルなどがあるが、どれを弄れば起動するのかさすがに分からない。
 モニターには〝ERROR〟と大きく赤い文字で刻まれている。

(表示が英語? ……よく分からん世界だなココは)

 話しているのは日本語に聞こえているし、文字はこの世界特有のソレで初見では読めない。
 あとミッドたちには、リーリラの言葉は英語に聞こえているらしい。まるで自分に一番合った翻訳が自動で為されているかのようだ。

(まあ今はそんな些末なことはいいか)

 周りの鏡状になっている壁には浅くヒビが入り、何かのセンサーがピーピーピーと音を鳴らしていた。

「ちっ、やっぱりダメなのか……!」

 《精霊人機》を動かせるのは女性だけ。
 それがリーリラから聞いた真実である。
 だがもしかしたら少しぐらい動かせるかもしれないと思い試してみたが……。

 するとそこへ、世廻の危機把握能力が発揮され、上空からの殺気を感じ取る。
 どうやら先程戦っていた敵が、こちらを完全に破壊しようと迫ってきていた。

(マズイ! このままじゃ!)

 あの速度で突っ込まれたら、今度こそ大破してしまうだろう。
 すぐ近くには診療所があり、その傍ではリィズたちが心配そうに世廻を見つめている。
 確実に巻き込まれてしまう。

「くっ! 動けっ、動いてくれ! オレはセカイ! セカイ・ウラシマ! 頼む、『精霊幼女』の力が刻まれているというのなら、オレに応えてくれ!」

 床から伸び出た二つの円柱の先に備わっている水晶に、それぞれ左右の手で触れて精一杯声を張り上げた。魂の底から懇願するかのように。
 しかしそれでもやはり機体は……。

「――――っ!? 何だ?」

 動かないかと舌打ちをした直後だった。
 突如水晶が輝いたかと思ったら、コックピットがしまり鏡張りの壁が窓のような外を確認できる状態へと変貌したのである。

「こ、これは……!?」

 モニターを見てみると、先程刻まれていた〝ERROR〟が消え、〝STARTING〟とグリーンの文字で浮き出ていた。

「動く……のか? 応えてくれたのか……よし」

 もちろん動かし方などは分からない。
 ただ自分の勘を信じて今は突き進むしか診療所を守る方法はないのだ。
 機体が動くようにイメージし水晶を強く握りしめる様にして触れる。

 《精霊人機》の瞳に光が走り、上半身が起き上がった。

 ――不思議だ。

 次に何をすればいいのか、何となくだが分かってくる。
 これはこの機体に備わっている精霊の力が教えてくれているのかもしれない。

「これならいける!」

 立ち上がった世廻は、真っ直ぐ滑空してくる敵を見据えた。



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