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第十五話

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 ――演習場。
 リューカは自身の油断により最新鋭機である《トリスタン》が強奪されたことに深い罪悪感を覚えていた。
 何故もっと早く敵の狙いに気づけなかったのか……。

 今思えば、最初にこちらにやってきた二機のうち、演習場に降りて膝をついた一機がいたが、あれは恐らく仲間を演習場に降ろしていたのだろう。
 てっきり操縦に慣れていないのだと判断してしまったが、そもそも少数精鋭での奇襲作戦で、腕の悪い者を投入するわけがなかったのだ。

「っ……私としたことが、これでは主君に顔向けできない!」

 自分の過ちを拭うなら、ここは何が何でも《トリスタン》を奪い返すしかない。
 演習場に降り立った《トリスタン》に向けて我が機体である《ブルーフォウル》を進め、手に持っている鞭を放つ。

 できればあまり傷をつけずに無力化したい。
 しかし《トリスタン》は盾であっさりと弾いてしまった。

「カハハ! そんな攻撃ぬるいねっ! それでも空戦部隊の副隊長かい!」

 オープンチャンネルを開きっ放しなのか、《トリスタン》に乗っている賊の声が響いてくる。
 ならこちらも一応説得を試みることにした。

「今すぐその機体から降りろ! さもないと――」
「さもないと何だい! 壊せるもんなら壊してみなよ、ほらぁっ!」

 《トリスタン》が電光石火のごとく距離を詰めてきて、ランスを突き出してきた。

「ちぃっ」

 咄嗟に半身になって回避するが、相手の攻撃速度が想像以上に速く左肩に掠ってしまった。

「いいねいいねぇ! この反射速度に機敏さ! さすがは【アディーン】の最新鋭機だ!」

 相手が高揚するのも無理はない。
 何といっても現状注ぎ込める技術力で生み出された新世代機なのだから。
 まだ試運転も満足にできていなかったが、それでも従来の量産機と比べても頭一つ出るくらいのスペックを持っている。

(《第五世代陸戦型精霊人機:トリスタン》……最も専用機に近い性能を持つ機体か。さすがにそう簡単には捕縛できないか)

 空戦型は飛行速度を上げるため、どうしても軽装になり防御力は落ちる。その分、速度と機動力に特化しており、それは専用機に関しても同じだ。
 リューカの《ブルーフォウル》も飛行型であり、防御力には難がある。

 故に中・遠距離の攻撃を得意としているが……。

 《トリスタン》が足を止め、そのままランスを突き出してくる。
 するとその切っ先に緑色の光が集束し、それがまるで弾丸のようにリューカに向けて発射された。

 そう、今のように《トリスタン》は集束した《精霊力》を放つことができるのだ。
 開発者が授けた名前は《ブレイクバレット》。

 その威力は、一撃でも相当なもので専用機とはいえ、同じ場所に三発も受けてしまうと壊滅的ダメージに成り得る。
 故に的中させてはならないと軽やかなステップを披露とかわしていく。

「ちっ、さすがは腐っても副隊長だね。情報じゃ専用機を与えられて間もないはずなのに」

 どうやらこちらの情報は知られているようだ。

「このまま押し切らせてもらうぞ!」

 空へ一旦浮上し、旋回しながら隙を見て滑空し《ビークウィップ》を振るう。
 しかし相手も足を止めつつ盾でガッチリと防御しており攻撃が通らない。

「やっぱりその飛空速度は鬱陶しいね! 《クエルボ》なんかとは大違いだ!」
「なら大人しく捕縛されろ! 賊めが!」
「あぁ? 誰に言ってんだ誰にっ!」
「貴様のような平和を乱す輩を決して許しはせん! 愚者にも劣るその行為、後悔させてやる!」
「ぐ、愚者……だとぉ? 言ってくれるじゃないか! だったらこれならどうだい!」

 再び《ブレイクバレット》を放ってきたので避けようとしたが……。

「避けていいのかい?」
「! ……いかんっ!」

 言われて気づく。
 避けた先にあるのは城である。
 今頃主君は城内の避難シェルターへその身を預けているだろうが、それでも城を破壊でもされたら大事だ。

 たった六機……いや、七機の賊に城が崩壊したとしたら大国の面目が丸潰れである。
 みすみす国内に侵入され街中を破壊、また大切な新型を奪われた事実だけですでにプライドが根こそぎ折られてしまっているのだ。これ以上恥を上塗りはできない。

「――《Sシールド》展開!」

 《ブルーフォウル》の目前に龍の鱗に似た緑色の光の膜が出現し、《トリスタン》が放った攻撃を弾いた。

「ちっ、《スピリアシールド》か。専用機にはそれがあったね。羨ましい限りだよっ!」

 それでも相手は諦めずに何度も何度も弾丸を放ってくる。
 このシールドの防御力は優秀で、生半可な攻撃ではビクともしない性質を持っているが、展開している間は一歩も動けないのが難点だ。

「ったく、キリがないねぇ! こっちも《精霊力》に限界はあるし、ここらでお暇させてもらうとしようか。いずれお前はアタシが落としてやるよ!」
「っ!? 逃がすものか!」

 このまま敵を逃がせばそれこそ大問題である。
 そんなことになるのなら、開発した技術者たちには悪いが破壊した方がマシだ。

「……っ、仕方ない、か」

 リューカは捕縛を諦め、対象を破壊することにした。
 だがそこへ、加勢に来たのか味方機が三機ほど姿を見せたのである。

「ご無事ですか、リューカ様!」
「我々が周りを囲みますので、隙を見て撃破してください!」
「ま、待てお前たち!」

 制止をかけたが、聞こえていないのか三機の《ドヴ》が《トリスタン》へと向かっていく。

「はっ、雑魚がわらわらと!」

 《トリスタン》のパイロットは余程自分の腕に自信があるようで、少しも慌てている様子はない。
 接近し斧を振るってきた《ドヴ》一機の攻撃を軽く盾でいなすと、そのまま頭部をランスでついて破壊し、薙ぎ払って吹き飛ばした。
 今の動きでも分かる通り、やはり相当に腕が立つパイロットのようだ。

 優れた機体は相応の操縦技術と経験がなければ実力は十全に発揮できない。特に初めて繰る機体なら尚更である。
 恐らくかなりの期間、《精霊人機》を乗りこなしてきた猛者だろう。
 残念なことに、今の動きだけで部下たちでは敵を制することはできないことを悟った。

「お前たち、手を出すな! そいつは私が一人でやる!」
「安心してください! 私たちだってぇ!」
「そうです、仲間たちの仇ぃぃっ!」

 仲間の二人は感情を昂らせてしまっている。
 敵が一人だからと自惚れの気持ちが伝わってきていた。
 案の定、一本調子になった攻撃は《トリスタン》に華麗に回避され、見事にカウンターを受けてしまう。
 またもコックピットを正確にランスで突き刺され、恐らくパイロットは即死だろう。

 そして残り一機――。

「こんのぉぉぉぉっ!」

 《トリスタン》の背後へと周り斧を振り下ろすが、突如《トリスタン》の背から筒状のものが二本伸び出ると、そこからランスで放ったような《ブレイクバレット》が発射された。
 完全に虚を突かれた《ドヴ》は、頭部と斧を持つ右腕部分を貫かれて破壊されてしまう。

 動きを止めた《ドヴ》に対し、素早く踵を返した《トリスタン》が逆に背後に回り押し倒し、ランスをコックピット部分に突き付けた。



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