ただ一人、男なのに動かせるロボット戦記 ~女嫌いな少年傭兵~

十本スイ

文字の大きさ
34 / 41

第三十三話

しおりを挟む
 ――翌日、早朝。

 馬車が三台。《ドヴ》二機、《クエルボ》二機が【アディーン王国】の北門へ集っていた。
 その中には世廻たち一行の姿もある。

 これから馬車に乗り込み、北の【アルバスレイク】まで向かうのだ。
 《精霊人機》と馬車二台に乗っている兵士たちは、追悼慰霊団の護衛である。
 世廻たちが乗る馬車には、今回の指揮官の一人であるリューカが乗ることになっていた。

 ちなみにもう一人の指揮官であるテトアは、《ドヴ》に搭乗している。
 これだけの戦力を有するということは、結構危険な場所へ向かうことになるのかとエミリオがリーリラに聞いたが、外には魔物と呼ばれる生物も棲息しているので、安全のために配備されているのだという。

 そう、この【ステラ】という世界には、ファンタジーでしか見たことのない生物が存在する。
 それこそゴブリンやドラゴンなどのメジャー級な怪物もいるらしい。

 戦闘に慣れた者ならともかく、一般人では魔物相手に対処ができない。
 スライムやゴブリン程度ならば何とかなっても、明らかに人の手ではどうにもならない存在だっているのだ。
 だからこそ圧倒的な武力を持つ《精霊人機》を護衛につけている。

「では出発するぞ!」

 リューカの号令により、馬車が走り出す。
 何だかんだいって初めての外出だったため、世廻たち異世界人は少し興奮気味である。

 すぐ目の前に広がったのは、モンゴルのようなだだっ広い草原だ。
 空には岩の塊や島のようなものが浮き上がっているし、目を凝らせばウサギと豚を足したような奇妙な生物が草を食べていた。

 リーリラ曰く、アレはラビットンという草食系魔物で、こちらから手を出さない限りは襲ってこないという。
 他にもトンボのような羽と猫のような長い尻尾を持つ細長い生物が優雅に空を泳いでいる。

 当然他にも様々な生物を発見するが、どれも地球では見たことも聞いたこともない存在ばかり。
 ミッドやエミリオも興味深そうに観察している。

(こうして地球では有り得ない光景を見てると、本当にファンタジーな世界に来たんだなって思うな)

 この世にはまだまだ地球には存在し得ない生物や環境などが多々あるということなので、いつかそれを見て回るのも面白いかもしれない。
 地球での傭兵時代、いろんな国を回ったので、旅自体は嫌いではないのである。

 そうして春のような麗らかな陽射しを浴びつつ、穏やかな風をその身に受けながら短い旅を楽しんでいた。
 それから約四時間以上走ったのではないだろうか。
 休憩のために皆で昼食を摂ることになった。

「はい、セカイさん! これどうぞ!」

 リィズたち三人娘が一緒になって大きな包みをそれぞれ三つ差し出してきた。
 開けてみると五段重ねになった重箱が三つ出てきたのである。

 その中には多種多様の料理が詰め込まれてあり、一つの重箱にはおにぎりだけがこれでもかというほど並んでいた。

「! ……まさかお前たちが作ったのか?」
「ふふ、朝早く起きて君のために作っていたよ」

 リーリラの発言を受け、思わず感動で魂が震え出す。
 見ると恥ずかしそうに三人娘は「食べてください」と言ってくる。

「米粒一つ残さず頂こう」

 草の絨毯にシートを広げ、そこに十五箱の器を並べていく。
 これはちょっとしたパーティ規模である。

「まずはおにぎりを……かなり個性的な形だな」

 山形か米俵のような形などが一般的だが、手に取ったのは少し歪で凸凹していた。

「それはロクが握ったのだ!」

 どうやらあまり器用な方ではなさそうだが、世廻は構わず食してみた。

「んぐんぐんぐ……うん、美味い」
「にはは~! おいしい? 嬉しいのだぁ!」

 正直なところを言うと塩加減が大雑把で、しょっぱいところがあったり塩気がまったくないところがあるが、そんなこと世廻には関係ない。
 幼女が一生懸命自分のために作ってくれたことが最高の調味料なのだから。

「あ、あのあの……お兄ちゃん、これ……食べてくだしゃい!」

 そう言って一つの箱を差し出してきたのはストリだ。
 その中には唐揚げやエビ天など揚げ物がある。
 ただこちらも少し揚げ過ぎたものもあったり、とても料理上手な仕上がりではない。

 しかし――何度も言うが関係ない。

「あむ。んぐんぐんぐ……! 時間が経ってるのにサクサクしてて美味いぞストリ」
「ひゃわわ! よ、喜んでもらえた……やった」

 小さくガッツポーズするその姿だけでおにぎり十個はいける。

「こっちも食べてみてください!」

 今度はリィズだ。しかも……だ。

「はい、あーん」
「!?」

 脳内に電撃が走ったような衝動が駆け巡る。
 本来ならこのシチュエーションは、年齢的な見地からも断るべきかもしれない。

 だが――断るわけがない。

 リィズが差し出してきた肉団子らしきものを食べる。

(あーオレはもう死んでもいいかもしれん)

 たとえこの肉団子が火の通りが甘くネチャネチャしてても何も問題はないのだ。
 たとえ世間一般的に不味いと称されるもので、世廻にとっては美味でしかない。

「お、美味そうな肉団子だな。一つもらうぜ」

 そこへいつの間にか近づいてきていたミッドが、ヒョイッと肉団子を口にする。

「……っ、ちょっと火の通りが甘えな」

 ミッドの素直過ぎる乾燥に「え?」とリィズがなる。

「それに味付けが薄い」
「あ、えとえと……」
「それに握り飯も形が悪いし、天ぷらも揚げがまちまち過ぎる」
「うっ……」
「ひゃう……」
「まあリーリラにも聞いたが、料理は初めてだったみてえだな。これからはもっと精進してふぐぅっ!?」

 世廻は音もなくミッドの背後に立つと、彼にチョークスリーパーをかけながら、その大きな口に向けてサバイバルナイフを突き出していた。

「遺言を聞いておこうか?」
「ぢょ、ぢょっどばっでぇっ……!?」
「そのよく回る舌を切り取って自分でタン塩でも作ってみるか、この筋肉バカゴリラめ」

 どんどん顔色が蒼白になっていくミッド。
 それを見てエミリオが呆れたように言う。

「まったく、料理に関しては妥協したくないんでしょうが、この状況で言うべきことではないでしょうに」

 世廻はそのままミッドを絞め落とすと、落ち込んでいる三人娘に向かって静かに口を開く。
 真実が伝わってしまったのなら、無理に取り繕っても仕方ない。

「リィズ、ロク、ストリ。確かにお前らの作った料理は、あのバカのと比べると出来は悪いだろう」
「「「…………」」」
「でもな、オレは嬉しかった」
「「「……!」」」
「下手でも一生懸命オレのために作ってくれたんだろ? 眠いのに朝早くから起きて。それだけでオレは満足だ。それに美味いといったのも嘘じゃない。オレにとっては今まで食べた料理の中でも最高ランクの美味さだったぞ」

 何せ愛情がこもっていたのだから不味いわけがなかった。

「…………でも、一般的においしいわけじゃないんですよね?」
「む? ……まあ、そうだろうな」
「だ、だったら! だったら次はもっと上手く作ります!」
「ロクもちゃんとおにぎりを握れるようになってみせるのだ!」
「ひゃわわ! わ、わたしもでしゅっ!」
「「「だから次も食べてくれますか?」」」

 懇願するようなこの上目遣いに断れる奴などいるだろうか。

 当然世廻の答えは――。

「そうか。じゃあその時を楽しみにしている。さあ、一緒に食べるぞ」
「「「はーい!」」」

 大食漢の世廻でも満足できるほどの量を作ってくれたのだ。
 四人で一緒に和気藹々と食事を楽しむことにした。

「リーリラ先生、こちらがあなたのお弁当です。ミッドが拵えました」
「あ、うん、ありがとう。……それよりも、ミッドさんは放置でいいのかい?」
「? ああ、自業自得なのでいいんですよ。そのうち目を覚ますでしょうから。ささ、時間も限られてますから早めに食事を摂りましょう」
「あ、ああ」

 リーリラは、白目を剥き泡を吹いて倒れているミッドを横目にして、エミリオと一緒に弁当を食すことになった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

処理中です...