ただ一人、男なのに動かせるロボット戦記 ~女嫌いな少年傭兵~

十本スイ

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第三十八話

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 世廻は自分の考えがかなり甘かったことを悔やんでいた。
 エリーゼに機体を譲ってもらったのはいいが、とても勝てる気がしない。
 それだけフェンリルに凶悪までの強さがあるということだ。

(それに……やっぱり機体の反応が遅い。これじゃキツイか)

 自分では相手の動きを見切って十分に回避行動を取れているつもりでも、機体がその通りに動いてはくれず、紙一重の回避になったり攻撃が掠ったりとギリギリだ。
 これが恐らく《ドヴ》における《マージ率》と稼働の限界なのだろう。

 また戦闘を続けていくに従って、エネルギーの減りが尋常ではない。
 モニターに表示されたエネルギーゲージがみるみる減少していっている。

 《精霊人機》を動かすエネルギーは――《精霊力》。

 精霊とパイロットの二つの《精霊力》が混合し、それが起動エネルギーとなるのだ。
 世廻自身は少しも疲弊していないし、《精霊力》に十分な蓄えすら感じるが、《ドヴ》に搭載されている疑似精霊のソレはもう底を尽きかけていた。

 《マージ率》が高ければ高いほど《精霊力》は消費してしまう。
 戦う前は存分にあった疑似精霊のエネルギーも、世廻とはつり合わずに先に空になりつつあった。

 フェンリルもちっとも自身の攻撃が当たらないことに苛立ちを覚えているようで、益々怒りのボルテージを上げて攻撃速度を増していく。
 それに従って世廻も限界ギリギリまでブーストをかけていくしかない。
 だがその代償は大きく、それは呆気なく訪れた。

 ――バキィッ!

 やはり《ドヴ》の開発者であるヨーリが言っていたように、脚部に巨大な負荷がかかっていたようで、関節部分から嫌な音が聞こえた。
 同時にガクッとスピードが落ちてしまう。
 好機とでも見たのか、真っ直ぐ突進してくるフェンリル。

(マズイッ、当たる!?)

 咄嗟に斧を捨てて両手で盾を持ってガード態勢を整えた。
 それでも衝撃はとてつもなく、生身でトラックにはねられたかのように吹き飛ばされてしまう。

「うっぐぅぅぅぅぅぅっ!?」

 木々を薙ぎ倒し地面を削りながら転がっていく。
 機体のあちこちから何かが砕かれた音が聞こえ、突如大きな衝撃音とともにコックピットが開いた。

 同時にシートベルトが引き千切られ、そこから外へと放り出されてしまう。
 向かう先は地面である。
 この勢いで地面に衝突すれば命が無いかもしれない。

 だが世廻が向かう先に、突然大きな球体が出現し、そこへ飛び込んでしまった。
 最初に触れた感触はまるで水風船のようで、そのまま沈み込むような感じで球体の中心へと移動したのである。

(うっく……!? こ、これは……水?)

 自分が何の中に入っているのかすぐに分かった。
 どうやら球体状の水の中に沈み込んでいるようだ。

 しかし何故こんなところに……?

 その疑問はすぐに解決した。

「「――セカイッ!」」

 聞こえてきた声の先にいたのはミッドとエミリオだった。
 その傍にはリーリラもいて、隣には以前にも会った彼女の《絆精霊》であるリアがいたのだ。

 すると球体が一気に弾け、世廻はほぼ無傷で地面に降りることができた。

「げほっ、げほっ、げほっ! ……お、お前ら」
「どうやら間一髪、間に合ったようだね」

 そう言うリーリラの言葉で状況を把握できた。
 先程の球体は、リーリラの《精霊法》である。

(こんなこともできたのか……)

 治癒方面に特化した力と思いきや、水を操ることもできたとは初耳であった。

「そんなことより早く逃げ……マズイ、こっちに来るぞ!」

 ミッドの焦燥感にかられた声音が轟く。
 フェンリルが少し離れた場所に飛んでいった機体目掛けて再度突撃してきたのである。

 ここは近い。衝撃に巻き込まれてしまうかもしれない。
 世廻たちはすぐにその場から駆け出し、湖の方までやってきた。そこにはエリーゼやリィズたちがいる。

「礼を言う、リーリラ」
「いいや、間に合ったはいいけど……」

 その表情は険しい。
 確かに状況が良くなったわけではない。
 いや悪くなる一方だ。
 これで世廻は戦う術を失ったのだから。

「てめえぇぇっ、ウラシマを離せぇぇぇっ!」

 そこへ空中から《クエルボ》がフェンリルに向かって滑空してくる姿を見た。
 声からしてテトアだが……。

「どうやら彼女と乗り替わったようですよ」

 エリーゼから聞いたところによると、フェンリルによって湖に落とされた《クエルボ》だという。
 攻撃によって少しの間気絶してしまっていたらしいが、先程湖から姿を見せたところ、テトアに機体を預けることになったらしい。

(そうか、まだ動けたんだな)

 それにしても空戦型も立派に動かせるとはさすがだと感心した。
 ただテトアはまだ《ドヴ》に世廻が乗っていると思っているようで、必死に助けようとしている。

「アイツ……少し熱くなり過ぎてるな」

 《ドヴ》は何度も踏み潰されてしまっているので気が気でないのだろう。

「くそっ、オレにもっと戦う武器があったら……っ」

 拳を固く震わせ、何もできない無力感に歯噛みする。
 そんな世廻の顔を見て、同じように無力感に悲しむ三人の娘がいた。


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