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ドラゴンとはやはり規格外の生物らしく、この大きさなのに飛行速度はずば抜けている。
テンクの首が壁となってくれているので、風圧に吹き飛ばされることはないが、恐らく時速百キロなんて比じゃないほどのスピードだと思う。
あくまでも体感なのでハッキリとしたことは分からないが、少し首の外へと手を出すと一気に後方へ持っていかれることからそう推察した。
この速度なら、目的地までそうかかることはないだろう。
そう確信した矢先のことである。
〝――マスター、前方に大陸の影が見えるぞ〟
えっ、もう!?
不意に聞こえてきたテンクの声に驚く。
テレパシーを使っているのは、声を出しても風で消されて聞き取れないと判断してのことだろう。
オレはそのまま心の中で、一旦速度を弱めてほしいと頼むと、テンクは言うことに従いゆっくりと飛ぶように努めてくれた。
そして前方が良く見えるような場所に移動する。
「……おお、マジじゃない」
彼女の言った通り、まだずっと先ではあるが水平線に大陸らしき影が見えている。
まだ出発して一時間も経っていないというのに、これは予想外の速さだ。
ただあの大陸がオレが元いた場所かどうかは定かではない。
一応の方角は伝えたが、あとはテンクが見知っている大陸へ飛んでくれと頼んだからだ。
この世界の地図事情も知っておけば良かったと、後々になって後悔することが多い。
「あの大陸は【ヴァロール大陸】といって、比較的『人族』が多く住む土地だな」
なるほど。だったらあの大陸のどこかに【アルレイド帝国】があるかもしれない。
「なあテンク、【アルレイド帝国】という国を知ってたりする?」
「アルレイドとな……はて、人の国に興味はないからな……」
「それは残念だね」
「察するところ、そこの国に住む連中がマスターを島流しにしたと。なるほど、ならば我が直々に乗り込み制裁を与えてやろうか?」
「いや物騒だから。それにオレが怨んでるのはたった一人だけだしね」
まあ国王や王女に対しても怨んでいないといったらウソにはなるが、彼らはただ単に矢垣に全幅の信頼を置き過ぎていただけ。ちょっと考えなしだし、あっさりと騙されている事実には怒りよりもどちらかというと呆れさが勝っている。
ただこの世界に召喚されたことに関しては怒りを持っているが。
それでも矢垣と比べると、そんな怒りなんて今は無いにも等しい。
アイツだけは絶対にぶっ潰してやるという思いは消え去っていない。
「では国に乗り込み、その一人を屠るのだな?」
「また物騒な言葉を……。ていうか殺すつもりなんてないしね」
「はあ? 無実の罪を背負わされてなお殺さぬつもりなのか?」
「殺したいくらい憎いって言葉があるけど、どうなんだろうなぁ」
実際無人島に放り出され、飢餓に苦しみ死を意識した時は矢垣に対しての殺意は濃かった。目の前にいたら首でも絞めていただろう。
しかし生きる術を得てからというもの、殺意というよりは奴に後悔させてやろうという思いが強くなっていた。
それは単純に殺すというのではなく、アイツに『こんなはずじゃなかったのに』と認識させたいという感情か。
今までアイツはその人生のほとんどを思い通りに運んできたはずだ。
だが世の中そんなに甘くないのだということを奴に突き付けてやりたいのである。
というか殺してさっさと終わらせたくない。ジワジワと今までやってきたことを悔いてもらいたいのだ。
「まあ、死にたくなるくらいの恥をかかせてやりたいとは思うけどね、フフフフフ」
「黒い、黒いぞマスター。それでこそ我の主人だ」
そこは諫めるところじゃないんだ。まあ諫められても、元々こういう根暗な性格だから直しようがないけどね。
ただ一つ問題がある。
このままテンクに乗ったまま行けば、確実に目立つし、その存在がバレてしまう。
そうなれば動きにくくなるだろう。
さすがにこの状態で国へ乗り込むわけにはいかない。
それにできればオレの姿は、あの国にいる者たちには見せたくないというのが本音だ。
あの国ではオレは王女の婚約者を殺した存在として広く伝わっていることだろう。
もしオレの存在がバレれば、国を挙げて捜索し、今度こそ首を刎ねられるようなことになりかねない。
オレも見つかったとしてそう簡単に死ぬつもりはないし、その力も得ることはできたが、やはり面倒ごとはなるべく避けておきたい。
オレの目標は矢垣一人だ。そして最終的には王城の地下に眠っている《赤禍の扉》の確保もしたい。何せあそこが元の世界に戻るための唯一の架け橋なのだから。
これは暗殺任務というわけでもないし、しばらくは国に侵入して矢垣の現状を探る必要もある。
なら目立つのは逆効果になってしまう。
「……テンク、大陸に着いたらすぐに下ろしてくれる?」
「そのまま国を探し回る必要はないと?」
「ああ。大陸に着いたら人里もすぐに見つかるだろうし、自分の足で情報を収集する」
そうすれば世界情勢なども詳しく知ることができるはずだしね。
「承知した。ならそのように取り図ろう。さて、また飛ばすのでしかと捕まっているのだ」
オレは再びテンクの首の後ろに隠れると、再び凄まじい速度で進み出した。
そうして数分ほど経つと、またテンクの速度が緩み始めて、そろそろ大陸へ着くとのことらしく、オレも確認を取る。
「…………よしテンク、あそこの砂浜には人がいないようだからそこで下ろしてちょうだいよ」
徐々に高度を下げていき、海に沿って低空飛行をしながら砂浜へと近づいていく。
そして指示した通り、誰もいない砂浜へとテンクが着陸する。
テンクの首が壁となってくれているので、風圧に吹き飛ばされることはないが、恐らく時速百キロなんて比じゃないほどのスピードだと思う。
あくまでも体感なのでハッキリとしたことは分からないが、少し首の外へと手を出すと一気に後方へ持っていかれることからそう推察した。
この速度なら、目的地までそうかかることはないだろう。
そう確信した矢先のことである。
〝――マスター、前方に大陸の影が見えるぞ〟
えっ、もう!?
不意に聞こえてきたテンクの声に驚く。
テレパシーを使っているのは、声を出しても風で消されて聞き取れないと判断してのことだろう。
オレはそのまま心の中で、一旦速度を弱めてほしいと頼むと、テンクは言うことに従いゆっくりと飛ぶように努めてくれた。
そして前方が良く見えるような場所に移動する。
「……おお、マジじゃない」
彼女の言った通り、まだずっと先ではあるが水平線に大陸らしき影が見えている。
まだ出発して一時間も経っていないというのに、これは予想外の速さだ。
ただあの大陸がオレが元いた場所かどうかは定かではない。
一応の方角は伝えたが、あとはテンクが見知っている大陸へ飛んでくれと頼んだからだ。
この世界の地図事情も知っておけば良かったと、後々になって後悔することが多い。
「あの大陸は【ヴァロール大陸】といって、比較的『人族』が多く住む土地だな」
なるほど。だったらあの大陸のどこかに【アルレイド帝国】があるかもしれない。
「なあテンク、【アルレイド帝国】という国を知ってたりする?」
「アルレイドとな……はて、人の国に興味はないからな……」
「それは残念だね」
「察するところ、そこの国に住む連中がマスターを島流しにしたと。なるほど、ならば我が直々に乗り込み制裁を与えてやろうか?」
「いや物騒だから。それにオレが怨んでるのはたった一人だけだしね」
まあ国王や王女に対しても怨んでいないといったらウソにはなるが、彼らはただ単に矢垣に全幅の信頼を置き過ぎていただけ。ちょっと考えなしだし、あっさりと騙されている事実には怒りよりもどちらかというと呆れさが勝っている。
ただこの世界に召喚されたことに関しては怒りを持っているが。
それでも矢垣と比べると、そんな怒りなんて今は無いにも等しい。
アイツだけは絶対にぶっ潰してやるという思いは消え去っていない。
「では国に乗り込み、その一人を屠るのだな?」
「また物騒な言葉を……。ていうか殺すつもりなんてないしね」
「はあ? 無実の罪を背負わされてなお殺さぬつもりなのか?」
「殺したいくらい憎いって言葉があるけど、どうなんだろうなぁ」
実際無人島に放り出され、飢餓に苦しみ死を意識した時は矢垣に対しての殺意は濃かった。目の前にいたら首でも絞めていただろう。
しかし生きる術を得てからというもの、殺意というよりは奴に後悔させてやろうという思いが強くなっていた。
それは単純に殺すというのではなく、アイツに『こんなはずじゃなかったのに』と認識させたいという感情か。
今までアイツはその人生のほとんどを思い通りに運んできたはずだ。
だが世の中そんなに甘くないのだということを奴に突き付けてやりたいのである。
というか殺してさっさと終わらせたくない。ジワジワと今までやってきたことを悔いてもらいたいのだ。
「まあ、死にたくなるくらいの恥をかかせてやりたいとは思うけどね、フフフフフ」
「黒い、黒いぞマスター。それでこそ我の主人だ」
そこは諫めるところじゃないんだ。まあ諫められても、元々こういう根暗な性格だから直しようがないけどね。
ただ一つ問題がある。
このままテンクに乗ったまま行けば、確実に目立つし、その存在がバレてしまう。
そうなれば動きにくくなるだろう。
さすがにこの状態で国へ乗り込むわけにはいかない。
それにできればオレの姿は、あの国にいる者たちには見せたくないというのが本音だ。
あの国ではオレは王女の婚約者を殺した存在として広く伝わっていることだろう。
もしオレの存在がバレれば、国を挙げて捜索し、今度こそ首を刎ねられるようなことになりかねない。
オレも見つかったとしてそう簡単に死ぬつもりはないし、その力も得ることはできたが、やはり面倒ごとはなるべく避けておきたい。
オレの目標は矢垣一人だ。そして最終的には王城の地下に眠っている《赤禍の扉》の確保もしたい。何せあそこが元の世界に戻るための唯一の架け橋なのだから。
これは暗殺任務というわけでもないし、しばらくは国に侵入して矢垣の現状を探る必要もある。
なら目立つのは逆効果になってしまう。
「……テンク、大陸に着いたらすぐに下ろしてくれる?」
「そのまま国を探し回る必要はないと?」
「ああ。大陸に着いたら人里もすぐに見つかるだろうし、自分の足で情報を収集する」
そうすれば世界情勢なども詳しく知ることができるはずだしね。
「承知した。ならそのように取り図ろう。さて、また飛ばすのでしかと捕まっているのだ」
オレは再びテンクの首の後ろに隠れると、再び凄まじい速度で進み出した。
そうして数分ほど経つと、またテンクの速度が緩み始めて、そろそろ大陸へ着くとのことらしく、オレも確認を取る。
「…………よしテンク、あそこの砂浜には人がいないようだからそこで下ろしてちょうだいよ」
徐々に高度を下げていき、海に沿って低空飛行をしながら砂浜へと近づいていく。
そして指示した通り、誰もいない砂浜へとテンクが着陸する。
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