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「さすがはマスター、見事な立ち振る舞いだったぞ」
「テンク、ちゃんと大人しく待ってたじゃないの。よくやったぞ」
「当然だ! マスターに従うのが従者の務めだからな!」
フフンと誇らしげに薄い胸を張る。子供のように無邪気だし、この小さな身体に、国を壊滅できるような力があるとは誰も思えないだろう。
でも本当に言うことに従ってくれたか。
実は彼女に対しての試しでもあった。
ドラゴンはそもそも闘争本能の塊のような存在だとテンクに聞いている。
たとえ主の命を受けているとはいえ、もしかしたら本能のままに戦いに入ってくるかもしれない。
もし言うことを聞かないのであれば、どうにかして契約そのものを切ろうと思った。
自分が制御できない莫大な力ほど持て余すものはないからだ。
今はまだ良かったが、もしもっと大事な局面で暴走でもされたら目も当てられない。
だがテンクはちゃんとこちらの指示を忠実に守ってくれた。
まだ彼女をすべて見極めたわけではないが、多少の信頼はできそうだと判断する。
「あ、あのぉ……」
見ると恰幅の良い男性が声をかけてきていた。
「何です?」
「いや! その、ありがとう! お蔭で助かったよ!」
「怪我はないですかね?」
「お蔭様で」
「コイツらは盗賊みたいですけど、心当たりはありますかね?」
「え? 知らないのかい? 彼らは最近ここらを縄張りにしている『ヒアドス盗賊団』だよ」
知らないのかいと聞いてきたということは、そこそこ有名な連中のようだ。
「……ほら、コイツらの腕や足に刻まれた刺青があるだろう?」
確かにどいつにも槍を模した紋章のようなものが刻まれていた。
「この刺青こそ『ヒアドス盗賊団』の証なんだ。でも変だな」
「む? 何が変なんです?」
「盗賊団は盗賊団なんだけど、『ヒアドス盗賊団』は義賊を名乗っていて、決して私のような弱い立場の商人などを狙ったりしないんだけど……」
「義賊……ねぇ」
「義賊とはいえ盗みは盗みであろう? 他人のものを勝手に盗む不逞の輩が義を掲げるとは滑稽だな」
ずいぶんと辛辣なテンクである。確かに彼女の言う通りでもあるが。
「でもとにかくありがとう。何かお礼をしたいんだが」
よしきた、と内心でほくそ笑む。
「じゃあ近くの村か町まで送ってくれないですか?」
「そんなことでいいのかい?」
「ああそれと、実はこう見えても田舎者でしてね。ここらの情勢などをお聞きできれば嬉しいんですけど」
「お安い御用さ。ささ、早く馬車に乗っておくれ。いつまた盗賊が現れるとは限らないからね!」
オレはやはり情報収集には恩を売るのが確実だなと思い、馬車へと乗り込む。
乗らせてもらった荷台には、見たことのない野菜や果物が積まれている。
それを見ると、思わず腹が鳴ってしまった。
「あはは、良かったら摘まんでくれてもいいよ。君は恩人だしね」
「そ、そうですか。ではありがたく」
実はこういう瑞々しい食べ物も恋しかったのだ。
何せ三ヶ月間、魚介類かスライムを食べ続けてきたのである。
野菜に果物が食べたいと思っていたので本当に嬉しい。
オレはマンゴーのような形の甘い香りを漂わせる物体を手に取りかぶりつく。
「んおぉ! 甘くて桃みたいで美味い!」
「マスター! 我も欲しいぞ」
「ん、ほら。でも全部食べたらダメだからな」
美味そうに果実を食べるテンクを見て、この場合の胃袋の量はどうなっているのか不思議に思った。
あの巨体なのだから、ここにあるすべての積み荷をペロリと平らげてもまだ足りないだろう。
…………ま、考えても仕方ないしな。
オレは果実を手にしながら、恰幅の良い男性にいろいろ話を聞きだした。
彼の名はダックといい行商人をしているとのこと。
主に【ヴァロール大陸】全域を旅しているそうで、世界情勢には明るいらしく予想以上の情報を得ることができた。
一番はやはり【アルレイド帝国】のことだ。
地図を見せてもらい、現在位置と王国の場所を教えてもらうことにする。
だがそこで地図を見て思わず「おお」と声を上げてしまう。
何故ならたった一つの大陸しか描かれてしなかったからだ。
それなのに、三つの大陸として名がつけられている。
東から南にかけて広がるのが【ヴァロール大陸】で、【アルレイド帝国】の支配下にある土地だ。
西から南にかけて広がるのが【ガブリス大陸】で、獣人たちの国――【獣皇国・ロログマ】が存在する土地である。
そして北の一角だが、村や町らしき集落が何一つなく、手つかずの自然だけが広がっており、【オージュ大陸】と名付けられていた。
普通一つの広大な大地を大陸と呼ぶのだろうが、こんなふうに一つの大陸を三つに分けて名づけられているのは珍しい。
ダックによると、遥か昔は三つ纏めて【カゼリア大陸】と呼ばれていたらしいが、人間と獣人が領土を争い初めてから、いつしか三つに名が分かれたのだという。
「テンク、ちゃんと大人しく待ってたじゃないの。よくやったぞ」
「当然だ! マスターに従うのが従者の務めだからな!」
フフンと誇らしげに薄い胸を張る。子供のように無邪気だし、この小さな身体に、国を壊滅できるような力があるとは誰も思えないだろう。
でも本当に言うことに従ってくれたか。
実は彼女に対しての試しでもあった。
ドラゴンはそもそも闘争本能の塊のような存在だとテンクに聞いている。
たとえ主の命を受けているとはいえ、もしかしたら本能のままに戦いに入ってくるかもしれない。
もし言うことを聞かないのであれば、どうにかして契約そのものを切ろうと思った。
自分が制御できない莫大な力ほど持て余すものはないからだ。
今はまだ良かったが、もしもっと大事な局面で暴走でもされたら目も当てられない。
だがテンクはちゃんとこちらの指示を忠実に守ってくれた。
まだ彼女をすべて見極めたわけではないが、多少の信頼はできそうだと判断する。
「あ、あのぉ……」
見ると恰幅の良い男性が声をかけてきていた。
「何です?」
「いや! その、ありがとう! お蔭で助かったよ!」
「怪我はないですかね?」
「お蔭様で」
「コイツらは盗賊みたいですけど、心当たりはありますかね?」
「え? 知らないのかい? 彼らは最近ここらを縄張りにしている『ヒアドス盗賊団』だよ」
知らないのかいと聞いてきたということは、そこそこ有名な連中のようだ。
「……ほら、コイツらの腕や足に刻まれた刺青があるだろう?」
確かにどいつにも槍を模した紋章のようなものが刻まれていた。
「この刺青こそ『ヒアドス盗賊団』の証なんだ。でも変だな」
「む? 何が変なんです?」
「盗賊団は盗賊団なんだけど、『ヒアドス盗賊団』は義賊を名乗っていて、決して私のような弱い立場の商人などを狙ったりしないんだけど……」
「義賊……ねぇ」
「義賊とはいえ盗みは盗みであろう? 他人のものを勝手に盗む不逞の輩が義を掲げるとは滑稽だな」
ずいぶんと辛辣なテンクである。確かに彼女の言う通りでもあるが。
「でもとにかくありがとう。何かお礼をしたいんだが」
よしきた、と内心でほくそ笑む。
「じゃあ近くの村か町まで送ってくれないですか?」
「そんなことでいいのかい?」
「ああそれと、実はこう見えても田舎者でしてね。ここらの情勢などをお聞きできれば嬉しいんですけど」
「お安い御用さ。ささ、早く馬車に乗っておくれ。いつまた盗賊が現れるとは限らないからね!」
オレはやはり情報収集には恩を売るのが確実だなと思い、馬車へと乗り込む。
乗らせてもらった荷台には、見たことのない野菜や果物が積まれている。
それを見ると、思わず腹が鳴ってしまった。
「あはは、良かったら摘まんでくれてもいいよ。君は恩人だしね」
「そ、そうですか。ではありがたく」
実はこういう瑞々しい食べ物も恋しかったのだ。
何せ三ヶ月間、魚介類かスライムを食べ続けてきたのである。
野菜に果物が食べたいと思っていたので本当に嬉しい。
オレはマンゴーのような形の甘い香りを漂わせる物体を手に取りかぶりつく。
「んおぉ! 甘くて桃みたいで美味い!」
「マスター! 我も欲しいぞ」
「ん、ほら。でも全部食べたらダメだからな」
美味そうに果実を食べるテンクを見て、この場合の胃袋の量はどうなっているのか不思議に思った。
あの巨体なのだから、ここにあるすべての積み荷をペロリと平らげてもまだ足りないだろう。
…………ま、考えても仕方ないしな。
オレは果実を手にしながら、恰幅の良い男性にいろいろ話を聞きだした。
彼の名はダックといい行商人をしているとのこと。
主に【ヴァロール大陸】全域を旅しているそうで、世界情勢には明るいらしく予想以上の情報を得ることができた。
一番はやはり【アルレイド帝国】のことだ。
地図を見せてもらい、現在位置と王国の場所を教えてもらうことにする。
だがそこで地図を見て思わず「おお」と声を上げてしまう。
何故ならたった一つの大陸しか描かれてしなかったからだ。
それなのに、三つの大陸として名がつけられている。
東から南にかけて広がるのが【ヴァロール大陸】で、【アルレイド帝国】の支配下にある土地だ。
西から南にかけて広がるのが【ガブリス大陸】で、獣人たちの国――【獣皇国・ロログマ】が存在する土地である。
そして北の一角だが、村や町らしき集落が何一つなく、手つかずの自然だけが広がっており、【オージュ大陸】と名付けられていた。
普通一つの広大な大地を大陸と呼ぶのだろうが、こんなふうに一つの大陸を三つに分けて名づけられているのは珍しい。
ダックによると、遥か昔は三つ纏めて【カゼリア大陸】と呼ばれていたらしいが、人間と獣人が領土を争い初めてから、いつしか三つに名が分かれたのだという。
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