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 ――【クルエの村】。

 街道沿いにある村で、よく旅人も利用することから宿や店なども充実している。
 ダックはそのまま違う町へ行商に行かなければならないということで、そこで別れることになった。

「フンフン、何か良いニオイがするぞマスター!」

 小刻みに鼻をヒクヒクさせながらテンクは、そのニオイを辿っていく。

「一応言っておくけど、何か買うなら金が必要になるぞー」
「金? ……マスターは」
「無人島に住んでた人間に聞くことかそれ?」
「あーそれもそうか」
「ま、宿に一宿一飯できるくらいの金はここにあったりするけどね」
「は……はあ? な、何故だ!?」

 実はダックと別れる際に、オレが無一文だということを仄めかすと、彼から「少ないけど、お礼として」ということで僅かばかりの金をもらったのだ。
 決して催促したわけではない。ただ金があったら便利だなぁ的なことを強めに発言しただけだ。

「なるほど。やはりマスターは強かだな」
「何のことかな? とはいっても余裕があるわけじゃなし、たらふく食い物を食べられるわけじゃないぞ」
「むぅ、まあその気になれば獣でも狩ればいい話だがな」

 そう言うテンクをよそに、オレはまず宿を探す。人に聞きながら結構立派な木造の建物へと辿り着いた。
 看板には字が書かれているが、当然日本語ではなくヘブライ語みたいな文字なので読めない。
 何で会話はできるのにって疑問は何度も浮かび上がったが、結局そういうものだと考えることにしておいた。
 扉を開いて中に入ると、

「いらっしゃいませー、ようこそ【しあわせ荘】へ!」
「アパートなのここは?」
「はい?」
「あ、何でもありません、すみませんね、いきなりツッコんでしまって」
「は、はぁ」

 宿の名前に思わず声を上げてしまったことで、完全に変な人物だと思われたようだ。
 エプロンを着け、箒で掃除していたことから、この宿屋で働いている人だろう。
 まだ二十代前半くらいなので恐らくはアルバイトだと思うが。もしくは店主の娘さんとか。

「えっと、お二人でご宿泊ですか?」
「はい。部屋は空いていますか?」
「二人部屋でよろしかったですか?」
「二人部屋か……」

 オレがテンクを見ると、彼女はコクンと小首を傾げて見上げてくる。その仕草は可愛らしいが、きっと二部屋に分けても同じ部屋にしろと言ってくるはずだ。

「……テンク、二部屋を取って別々でいいか?」

 だがそれでも一応聞いてみる。

「何故だ? それだと余計に金もかかるのではないか? なら一部屋の方が良いと思うが」

 正論を言ってくる。確かにそうなのだが……。

「お前は一応女だろう?」
「一応ではなく女だ! マスターのメスドラゴンといってもよいぞ!」
「メ、メスドラ……?」
「はっぐぅぅぅ! ひ、ひはひ……(い、痛い)! はへほほをひっはふほは(何故頬を引っ張るのだ)!?」

 余計なことを言うからでしょうが。
 お蔭で店の人が不審に思ってるじゃないか。

「すみません、二人部屋を頼めますか?」
「あ、はい。畏まりました! あのぉ、先払いなんですが問題……ありませんか?」

 ジロジロとオレの恰好を見て不安そうに尋ねてくる。ああ、このくたびれた格好で本当に金なんて持っているのか疑問に思ったのだろう。

「おいくらで?」

 提示された金額は思った以上に安く、手持ちの金でも十分一泊できるので、彼女に金を手渡す。
 ちなみにこの世界の金は、白金貨、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨、石貨の六種類存在する。
 日本円で分かりやすく説明すると、上から十万円、一万円、一千円、百円、十円、一円として価値が設定されているのだ。

 通された部屋は確かにベッドが二つあり、そこそこ広くてのんびりできる空間が広がっていた。
 さすがに日本のホテルのようにシャワー室、トイレ完備というわけではないので、外にある共同のものを使う必要があるが、それでも村にしては十分な待遇だと思う。

「なあマスター、これからどうするのだ?」
「とりあえずは旅の資金を稼ぐ仕事が欲しいな。【アルレイド帝国】までそれなりの距離があるみたいだしね」

 街道を走る馬車に乗せてもらうにも、普通は運賃を払う必要があるのだ。
 毎度毎度恩を売れればいいが、そう都合良くはいかないだろう。

「金か。そのようなものちょちょっと脅して手に入れればいいだろうに」
「だから発想が物騒でしょ。そんなことをすれば一気にオレはお尋ね者だよ」
「ふむ。ではどうやって金を稼ぐのだ?」
「それを聞くためにも一度外に行くか」

 二人で部屋を出て、タイミングよく店の人と出会ったので、ここらで割りの良い仕事があるか聞いてみた。

「腕に自信がおありでしたら、とっておきの仕事がありますよ?」

 興味があるのなら、村の中央に広場に立てられた掲示板を見ろと言われたので行ってみた。
 すると武装をしている数人の男たちが、その掲示板の前に立っている。オレたちと同じように掲示板に用があるようだ。


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