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――【グランツの町】。
村とは違い、高い外壁に覆われた防衛力の高い集落で、その規模や人口密度も【クルエの村】と比べると明らかに上位に位置する。
店や娯楽施設などもあるようで、町としての充実度も高いようだ。
まずは宿屋でもと思い歩いていると、広場に人だかりがあったので、何事かと気になり身に行く。
すると広場の中央では武装をした屈強な男たちが数人いて、そいつらの眼の前には正座をさせらている二人の人物がいた。
ただ男たちと違うのは、その二人の外見である。
頭には獣耳らしきものが生え、臀部近くにはフサフサの毛に覆われた尻尾が確認できた。
「おお、あれがもしかして獣人ってやつか?」
ちょっと感動を覚えた。まあ隣にいわゆる竜人がいるのだが、それとは別にケモミミという存在とはいつか会ってみたいと思っていたのだ。
できればその耳と尻尾をニギニギとしてみたい。
しかし何故獣人が正座をさせられているのか……。
オレは集まっている野次馬の一人に事情を聞いてみた。
「今からアイツらはここで公開処刑されるんだよ」
「公開処刑? ずいぶんと穏やかじゃないね」
「そうか? 別に珍しくないと思うけどな」
「……あの獣人たち、何かしたのか?」
人間を傷つけたとか、犯罪を犯したとか。
しかし返ってきた答えは実にシンプルだった。
「ああ、アイツらは獣人だしな」
「……は? えっと、それだけが理由?」
「それだけって、それで十分だろ?」
「…………」
人間と獣人がそれぞれの領土を争って戦をしていることは知っているが、まさか獣人というだけで殺されるとは。
どうやらオレが考えている以上に、二つの種族の間に根付く遺恨は深いらしい。
見れば獣人は夫婦なのか、寄り添って身体を震わせている。
余計なことを喋らせないためか、口には布を噛ませて、両腕は後ろで拘束されていた。
「フン、くだらんな。人間も獣人もそんなに利権が欲しいか。バカバカしいことだ」
テンクは興味など失せたといった感じで欠伸をしている。
そこへ「おお~!」と野次馬たちのざわつきが聞こえ、オレはテンクから再び獣人たちに目を向けると、すでに一人の獣人が首を刎ねられていた。
そしてもう一人の獣人も涙ながらに絶望の表情を浮かべながらも、男の手によって剣で首を落とされる。
またも歓声に近い声が響く。
「けっ、獣人め思い知ったか!」
「あんな獣ども全滅すりゃいいんだ!」
「そうよ。前に私の夫も獣人に襲われて大怪我したんだから!」
などなど口々に獣人に対しての恨み辛みが溢れ出てくる。
一人として獣人の痛ましい姿を見て同情する者はいない。
コイツら……敵とはいえ、何も罪を犯してない奴の命を奪っておいて喜ぶんだな。
戦争をしているのだから、敵対勢力に情けなど無用と言われればそれまでだが、それでもこの惨劇が正しいとしか思っていない人間たちに歪みを感じだ。
日本では考えられない。これが異世界に広がっている常識なのだ。
恐らく逆に獣人が住む大陸では、同じように人間が処刑されているのだろう。
オレは改めて、ここが自分の住んでいた世界とはまったく違うということを認識した。
「それにしても聞いたか。最近『ヒアドス盗賊団』が獣人を助けてるって話」
野次馬たちの会話が聞こえてきて、その内容に若干興味を引かれた。
「らしいな。何でも頭のヒアドスってのは、人間だろうが獣人だろうが状況によっては敵にも味方にもなるってよ」
「獣人の味方までするって最低だよな。私腹を肥やしてる役人や貴族連中相手に殺しや強奪を繰り返しては、貧民に財を配ってる義賊って奴だろ」
ほほう。そんなことをあの連中はしてるのか。
思い浮かんだのは、少し前に会ったダレイマたちだ。
「庶民の味方って思う連中もいるみたいだけど、獣人にも肩入れするような奴らだ。頭がおかしいとしか思えん」
ずいぶんな言われようだが、獣人を目の敵にする者たちにとっては、盗賊団は存在してはならない輩なのだろう。
「それに最近じゃ、行商人とか小さな村も襲うみたいだし、どこが義賊だって話だよな」
それはきっとダレイマが言っていた偽物たちの仕業だ。
しかしやはり気になるのは獣人を助けているということである。
盗賊団も人間である以上は、獣人のことをよく思っていないはず。
それがどういう理由で助けているのか気になった。
「なあマスター、いつまでここにいるのだ? 腹が減ったのだが?」
「ん? お前さんさぁ、あんな現場見た直後に食事って、図太くない?」
普通は凄惨な現場を直視したあとに腹など減らないだろう。
「フン、そんな繊細で柔なわけがなかろう。そういうマスターはどうなのだ?」
「まあオレも平気だけど」
さすがに自分で殺したとかなら無理だと思うが、距離も離れていたし、知り合いでもなかったので満腹感にストレスは感じていない。
「ならさっさと行くぞ! たらふく食いたいのでな!」
「はいはい、分かりましたよ」
痺れを切らしたらしいテンクの腹を満たすためにも、まずは食事処にでも行くことにした。
小料理屋のような店を見つけて入る。
そこでは丼物や定食物を食わせてくれるらしく、オレは《肉卵丼》というのを一つ頼み、テンクは全種類の丼を頼んでいた。
金に余裕があるからといって、少しは遠慮してほしいものだ。
出てきた《肉卵丼》を見て、見た目はそのままご飯の上に肉と卵が乗っただけのシンプルな料理だと思った。
だが丼から漂ってくる香りは食欲をそそってくる。
肉の香ばしい匂いもそうだが、その上にかけられているトロミのあるタレからもスパイシーな香りを感じた。
「あむ……んんっ!?」
口にすると、すぐに噛み切れるほどの柔らかさでありながら、コーティングしている甘辛いタレが絶妙に肉とマッチして美味い。
しかもそれに卵を絡めると、マイルドになってまた違った味が楽しめる。
カルビのような肉ではあるが、何の肉なのかは分からない。牛に近いと思うが、ちょっと味が違うのだ。
きっと異世界にしか生息していない生物の肉なのだろう。
テンクも次々と出てくる丼を美味そうに平らげている。
オレは飯を食いながら、今度の道程を確認するために地図を広げた。
「ん……もうすぐ一つ目の関所だな」
そこを通過すると、また町一つ挟んだ先に二つ目の関所がある。
関所を通過しないという選択を取るなら、その両脇に聳え立っている高山を越えないといけない。
別に登山して通ってもいいが、わざわざそのためだけに山を登るのはめんどくさい。
もういっそのことテンクに運んでもらうか?
関所の壁をよじ登ってショートカットするつもりだが、最悪それ行こう。なるべく目立たないように。
「おや、君たちもしかして旅人かい?」
話しかけてきたのは店主だ。客も少ないので暇なのだろうか。
オレは「そうです」と答えると、行先を聞いてきたので素直に言う。
「あー【アルレイド帝国】かぁ。確かに一度は行ってみたい場所ではあるな。けど最近噂じゃ異世界からやってきた『御使い』様が大活躍してるらしいよ」
おっと、これは良い情報かと思い続きを尋ねた。
店主が言うには、すでに『御使い』の名は大陸中に知れ渡っているらしく、まだ本格的な戦争へ投入されたわけではないが、名のあるダンジョンの攻略や、大型の魔物の討伐などで名声を上げているとのこと。
その戦いぶりから『瞬烈の御使い』などと呼ばれていると聞いた。
ずいぶんと厨二的な名前がつけられたようだなぁ。
オレだったら恥ずかしくて止めてほしいが、矢垣はご満悦な表情で国民たちに手を振っている姿が容易に想像できる。
誰もその笑顔が仮面だとも気づかずに――。
「けど今は関所を通るにも厳しいチェックが入るよ。例の盗賊団の動きも相まってね」
聞けば次の関所を越えた辺りで、ヒアドスと名乗る盗賊団の頭が我が物顔で略奪や凌辱をしているらしい。
「……それは本当に『ヒアドス盗賊団』の頭なんですか?」
「そう名乗ってるらしいよ」
ううむ……。
ダレイマの話ではヒアドスは情に厚い人物のようだが、実はヒアドス自身が何か心変わりでもすることがあって、団員たちを引き連れて残虐な行為を繰り返しているのだろうか。
「それとこれも噂だけど、その盗賊団はね何でもたんまりと金銀財宝を溜め込んでるらしい。中には古代の秘術が付与された《法具》もあるとか」
「! ……へぇ、古代の《法具》ねぇ」
その名の通り、法術を付与したアイテムのことを総称して《法具》と呼ぶらしい。
様々な効果を発揮するアイテムだが、オレが気になったのは古代の秘術というところだ。
オレが渡ってきた《赤禍の扉》もまた強力な秘術によって創作されたということは聞いたことがあった。
つまりあの扉もまた《法具》の一種。
もしかするとその賊たちが集めた《法具》の中には、元の世界に帰る術やそのきっかけになるものがあるかもしれない。
…………ちょっと調べてみたいな。
オレが興味深く唸っていると、不思議そうにテンクが声をかけてくる。
「マスターよ、ずいぶんとその盗賊団を気にするではないか」
「……どうも一筋縄じゃいかなさそうな連中みたいだしね。情報はできるだけ集めておいた方がいいでしょ」
それに《法具》とやらに興味もあるしね。
「ふむ、そういうものか? 我とマスターなら歯向かう者など即座に壊滅できると思うがな」
それはどうだろう……いや、テンクが正体を現せばできないことはないだろう。
あの巨竜の姿で大暴れすれば、たかが賊の千人や万人など敵ではないかもしれない。
「ま、とりあえずは関所越えをしてから、だな」
食事が終わったあとは、すぐに宿を取って旅路に討伐した魔物の素材などを買い取ってもらい懐を潤わせた。
そして翌日、早々に関所へ向けて出立したのである。
村とは違い、高い外壁に覆われた防衛力の高い集落で、その規模や人口密度も【クルエの村】と比べると明らかに上位に位置する。
店や娯楽施設などもあるようで、町としての充実度も高いようだ。
まずは宿屋でもと思い歩いていると、広場に人だかりがあったので、何事かと気になり身に行く。
すると広場の中央では武装をした屈強な男たちが数人いて、そいつらの眼の前には正座をさせらている二人の人物がいた。
ただ男たちと違うのは、その二人の外見である。
頭には獣耳らしきものが生え、臀部近くにはフサフサの毛に覆われた尻尾が確認できた。
「おお、あれがもしかして獣人ってやつか?」
ちょっと感動を覚えた。まあ隣にいわゆる竜人がいるのだが、それとは別にケモミミという存在とはいつか会ってみたいと思っていたのだ。
できればその耳と尻尾をニギニギとしてみたい。
しかし何故獣人が正座をさせられているのか……。
オレは集まっている野次馬の一人に事情を聞いてみた。
「今からアイツらはここで公開処刑されるんだよ」
「公開処刑? ずいぶんと穏やかじゃないね」
「そうか? 別に珍しくないと思うけどな」
「……あの獣人たち、何かしたのか?」
人間を傷つけたとか、犯罪を犯したとか。
しかし返ってきた答えは実にシンプルだった。
「ああ、アイツらは獣人だしな」
「……は? えっと、それだけが理由?」
「それだけって、それで十分だろ?」
「…………」
人間と獣人がそれぞれの領土を争って戦をしていることは知っているが、まさか獣人というだけで殺されるとは。
どうやらオレが考えている以上に、二つの種族の間に根付く遺恨は深いらしい。
見れば獣人は夫婦なのか、寄り添って身体を震わせている。
余計なことを喋らせないためか、口には布を噛ませて、両腕は後ろで拘束されていた。
「フン、くだらんな。人間も獣人もそんなに利権が欲しいか。バカバカしいことだ」
テンクは興味など失せたといった感じで欠伸をしている。
そこへ「おお~!」と野次馬たちのざわつきが聞こえ、オレはテンクから再び獣人たちに目を向けると、すでに一人の獣人が首を刎ねられていた。
そしてもう一人の獣人も涙ながらに絶望の表情を浮かべながらも、男の手によって剣で首を落とされる。
またも歓声に近い声が響く。
「けっ、獣人め思い知ったか!」
「あんな獣ども全滅すりゃいいんだ!」
「そうよ。前に私の夫も獣人に襲われて大怪我したんだから!」
などなど口々に獣人に対しての恨み辛みが溢れ出てくる。
一人として獣人の痛ましい姿を見て同情する者はいない。
コイツら……敵とはいえ、何も罪を犯してない奴の命を奪っておいて喜ぶんだな。
戦争をしているのだから、敵対勢力に情けなど無用と言われればそれまでだが、それでもこの惨劇が正しいとしか思っていない人間たちに歪みを感じだ。
日本では考えられない。これが異世界に広がっている常識なのだ。
恐らく逆に獣人が住む大陸では、同じように人間が処刑されているのだろう。
オレは改めて、ここが自分の住んでいた世界とはまったく違うということを認識した。
「それにしても聞いたか。最近『ヒアドス盗賊団』が獣人を助けてるって話」
野次馬たちの会話が聞こえてきて、その内容に若干興味を引かれた。
「らしいな。何でも頭のヒアドスってのは、人間だろうが獣人だろうが状況によっては敵にも味方にもなるってよ」
「獣人の味方までするって最低だよな。私腹を肥やしてる役人や貴族連中相手に殺しや強奪を繰り返しては、貧民に財を配ってる義賊って奴だろ」
ほほう。そんなことをあの連中はしてるのか。
思い浮かんだのは、少し前に会ったダレイマたちだ。
「庶民の味方って思う連中もいるみたいだけど、獣人にも肩入れするような奴らだ。頭がおかしいとしか思えん」
ずいぶんな言われようだが、獣人を目の敵にする者たちにとっては、盗賊団は存在してはならない輩なのだろう。
「それに最近じゃ、行商人とか小さな村も襲うみたいだし、どこが義賊だって話だよな」
それはきっとダレイマが言っていた偽物たちの仕業だ。
しかしやはり気になるのは獣人を助けているということである。
盗賊団も人間である以上は、獣人のことをよく思っていないはず。
それがどういう理由で助けているのか気になった。
「なあマスター、いつまでここにいるのだ? 腹が減ったのだが?」
「ん? お前さんさぁ、あんな現場見た直後に食事って、図太くない?」
普通は凄惨な現場を直視したあとに腹など減らないだろう。
「フン、そんな繊細で柔なわけがなかろう。そういうマスターはどうなのだ?」
「まあオレも平気だけど」
さすがに自分で殺したとかなら無理だと思うが、距離も離れていたし、知り合いでもなかったので満腹感にストレスは感じていない。
「ならさっさと行くぞ! たらふく食いたいのでな!」
「はいはい、分かりましたよ」
痺れを切らしたらしいテンクの腹を満たすためにも、まずは食事処にでも行くことにした。
小料理屋のような店を見つけて入る。
そこでは丼物や定食物を食わせてくれるらしく、オレは《肉卵丼》というのを一つ頼み、テンクは全種類の丼を頼んでいた。
金に余裕があるからといって、少しは遠慮してほしいものだ。
出てきた《肉卵丼》を見て、見た目はそのままご飯の上に肉と卵が乗っただけのシンプルな料理だと思った。
だが丼から漂ってくる香りは食欲をそそってくる。
肉の香ばしい匂いもそうだが、その上にかけられているトロミのあるタレからもスパイシーな香りを感じた。
「あむ……んんっ!?」
口にすると、すぐに噛み切れるほどの柔らかさでありながら、コーティングしている甘辛いタレが絶妙に肉とマッチして美味い。
しかもそれに卵を絡めると、マイルドになってまた違った味が楽しめる。
カルビのような肉ではあるが、何の肉なのかは分からない。牛に近いと思うが、ちょっと味が違うのだ。
きっと異世界にしか生息していない生物の肉なのだろう。
テンクも次々と出てくる丼を美味そうに平らげている。
オレは飯を食いながら、今度の道程を確認するために地図を広げた。
「ん……もうすぐ一つ目の関所だな」
そこを通過すると、また町一つ挟んだ先に二つ目の関所がある。
関所を通過しないという選択を取るなら、その両脇に聳え立っている高山を越えないといけない。
別に登山して通ってもいいが、わざわざそのためだけに山を登るのはめんどくさい。
もういっそのことテンクに運んでもらうか?
関所の壁をよじ登ってショートカットするつもりだが、最悪それ行こう。なるべく目立たないように。
「おや、君たちもしかして旅人かい?」
話しかけてきたのは店主だ。客も少ないので暇なのだろうか。
オレは「そうです」と答えると、行先を聞いてきたので素直に言う。
「あー【アルレイド帝国】かぁ。確かに一度は行ってみたい場所ではあるな。けど最近噂じゃ異世界からやってきた『御使い』様が大活躍してるらしいよ」
おっと、これは良い情報かと思い続きを尋ねた。
店主が言うには、すでに『御使い』の名は大陸中に知れ渡っているらしく、まだ本格的な戦争へ投入されたわけではないが、名のあるダンジョンの攻略や、大型の魔物の討伐などで名声を上げているとのこと。
その戦いぶりから『瞬烈の御使い』などと呼ばれていると聞いた。
ずいぶんと厨二的な名前がつけられたようだなぁ。
オレだったら恥ずかしくて止めてほしいが、矢垣はご満悦な表情で国民たちに手を振っている姿が容易に想像できる。
誰もその笑顔が仮面だとも気づかずに――。
「けど今は関所を通るにも厳しいチェックが入るよ。例の盗賊団の動きも相まってね」
聞けば次の関所を越えた辺りで、ヒアドスと名乗る盗賊団の頭が我が物顔で略奪や凌辱をしているらしい。
「……それは本当に『ヒアドス盗賊団』の頭なんですか?」
「そう名乗ってるらしいよ」
ううむ……。
ダレイマの話ではヒアドスは情に厚い人物のようだが、実はヒアドス自身が何か心変わりでもすることがあって、団員たちを引き連れて残虐な行為を繰り返しているのだろうか。
「それとこれも噂だけど、その盗賊団はね何でもたんまりと金銀財宝を溜め込んでるらしい。中には古代の秘術が付与された《法具》もあるとか」
「! ……へぇ、古代の《法具》ねぇ」
その名の通り、法術を付与したアイテムのことを総称して《法具》と呼ぶらしい。
様々な効果を発揮するアイテムだが、オレが気になったのは古代の秘術というところだ。
オレが渡ってきた《赤禍の扉》もまた強力な秘術によって創作されたということは聞いたことがあった。
つまりあの扉もまた《法具》の一種。
もしかするとその賊たちが集めた《法具》の中には、元の世界に帰る術やそのきっかけになるものがあるかもしれない。
…………ちょっと調べてみたいな。
オレが興味深く唸っていると、不思議そうにテンクが声をかけてくる。
「マスターよ、ずいぶんとその盗賊団を気にするではないか」
「……どうも一筋縄じゃいかなさそうな連中みたいだしね。情報はできるだけ集めておいた方がいいでしょ」
それに《法具》とやらに興味もあるしね。
「ふむ、そういうものか? 我とマスターなら歯向かう者など即座に壊滅できると思うがな」
それはどうだろう……いや、テンクが正体を現せばできないことはないだろう。
あの巨竜の姿で大暴れすれば、たかが賊の千人や万人など敵ではないかもしれない。
「ま、とりあえずは関所越えをしてから、だな」
食事が終わったあとは、すぐに宿を取って旅路に討伐した魔物の素材などを買い取ってもらい懐を潤わせた。
そして翌日、早々に関所へ向けて出立したのである。
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