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「あなたこそスーはどうしたのよ? 一体どうしてこんなことに……! 確か帝国で働いていたんじゃないの?」
「それは……」
「…………何か言い辛いことでもあるのね? 良かったら聞くわよ?」
私はそんな優しい言葉に胸を打たれ、今までマザーにすら言えなかったことを姉に伝えた。
「――――そう。それは辛かったわね」
「いいえ、私は逃げただけです。マザーの言葉すら守れませんでした」
「……恩に報い、見返りを求めないのが良い女……か」
きっとアコア姉さんは、それを体現してきたはずだ。
小さな村で医者をやり続けても、大した見返りなど期待はできないだろう。
それでも誰かの支えになって生きてきたのだ。私とは全然違う。
「バカね。あなたはまだ若いのよ? この私だってこの年になるまでいろいろ失敗してきたもの」
「姉さん……が?」
「当然よ。私だって十八で外に出ても、社会勉強だって足りないただの小娘だったもの。自分勝手なことをして他人に迷惑かけてしまったことだってあるし、尻を触ってきた男をつい勢いで半殺しにしたこともあったしね」
「ご、豪快過ぎます姉さん」
孤児院にいる頃は、女性でありながらしょっちゅう兄さんと掴み合いの喧嘩をしていた男勝りなところがある人だ。
けれどその豪気さで、兄と一緒に皆を引っ張ってくれていた頼れるお姉さんだった。
「だからね失敗したなら、次に活かせばいいの。同じ失敗するような子じゃないでしょ、あなたは」
「姉さん……でも」
「……そうね。こんな状況だし、未来に期待しろっていうのは酷かもしれないわね。けれど私はまだ諦めていないわよ」
「え……」
「だって歴史上、悪が栄えた試しなんてないもの。それにね、アイツなら……スーならきっと助けに来てくれるはずよ。言ってなかったけど、アイツってば匿名希望で、私にもお金を送ってくれたりしてたのよ」
「に、兄さんが?」
「ええ、汚い字で『役立ててくれ。 偽善の使者より』って書かれてたわね。あれでバレないとでも思ってたのかしらね? アイツの書く字を家族である私が憶えてないはずがないのにさ」
そんなことを兄さんがしていたとは……。
孤児院にも仕送りをして、他にも……。
「じゃあ兄さんは卒業して行った人たちにも?」
「ん~多分そうじゃない。アイツってばバカみたいな家族思いだしね。家族全員が少しでも楽になれるならって自分の身を削る……そういうバカだからねアイツは」
ふふふと懐かしそうに、それでいて嬉しそうに笑う姉さん。
そういえば孤児院で兄さんと一番仲が良かったのはアコア姉さんだった。
兄さんも彼女のことを気にかけていたのだろう。
「そんなバカなアイツだけど、きっと今頃必死になって私たちを探してくれてるはずよ」
「……そうでしょうか?」
「絶対よ。ていうか探してなければ化けて出てやるわよ。そんで毎晩アイツの枕元に立って悪夢を見せ続けてやるわ」
「……あはは、姉さんらしいですね」
「…………ちょっと元気出たみたいね」
「あ……」
本当に彼女には敵わない。自分も怖いはずなのに、いつも誰かのことを想い支えになってくれる。
そんなアコア姉さんの生き方が私の目標だった。
「…………姉さん、私まだ死にたくない」
「そうね。私だってそうよ。それにここにいるクズ男に身体を汚されるのもゴメンね」
「はい。私だって嫌です!」
「だったら信じましょう。残念ながら私たちにはそれくらいしかできないけれど、マザーも言っていたでしょう。『信じる者は救われる』って」
「! ……はい!」
先程まで自分を支配していた暗闇が少し晴れたような気持ちだった。
期待するには、希望を抱くには、何の確証もない靄のようなものだ。
この細い細い糸のような綱渡りだが、それでもまだ切れてしまったわけではない。
最後の最後まで信じ続けることで、何かが変わるなら、姉さんの言うように信じてみたい。
少なくともそう思うだけで、心を強く保てる。
だが決意を新たにしたところで――。
「――おい、そこのお前とお前、外に出ろ。頭がお呼びだ」
盗賊の一人が牢屋越しに私と姉さんを指差す。
せっかく奮い立たせた気持ちが、また大きく揺らぐ出来事が迫ってきた。
「ね、姉さん……!」
「……大丈夫よ。……きっと、大丈夫」
姉さんの顔も強張っている。自分にも言い聞かせているのだろう。
「お前たちはついているぞ。頭直々に種付けしてもらえるんだからな」
「「!?」」
賊の言葉に私たちの顔が一気に青ざめる。
抵抗したいところだが、数人の賊たちに両手を拘束され、そのまま強制的に連行される。
牢から出る時に、ふとさっきのスライムがいた窓に視線が向かったが、すでにスライムの姿は消えていた。
階段を上り、一つの部屋の前で停止させられる。
賊の一人が扉を開くと、その奥には一つのベッドがあり、そこに腰かけた一人の男性と、傍には細身で目つきの鋭い男がいた。
二人の中で、ベッドに腰かけた男だけが、いやらしい目つきで私たちを見つめてきていた。
「それは……」
「…………何か言い辛いことでもあるのね? 良かったら聞くわよ?」
私はそんな優しい言葉に胸を打たれ、今までマザーにすら言えなかったことを姉に伝えた。
「――――そう。それは辛かったわね」
「いいえ、私は逃げただけです。マザーの言葉すら守れませんでした」
「……恩に報い、見返りを求めないのが良い女……か」
きっとアコア姉さんは、それを体現してきたはずだ。
小さな村で医者をやり続けても、大した見返りなど期待はできないだろう。
それでも誰かの支えになって生きてきたのだ。私とは全然違う。
「バカね。あなたはまだ若いのよ? この私だってこの年になるまでいろいろ失敗してきたもの」
「姉さん……が?」
「当然よ。私だって十八で外に出ても、社会勉強だって足りないただの小娘だったもの。自分勝手なことをして他人に迷惑かけてしまったことだってあるし、尻を触ってきた男をつい勢いで半殺しにしたこともあったしね」
「ご、豪快過ぎます姉さん」
孤児院にいる頃は、女性でありながらしょっちゅう兄さんと掴み合いの喧嘩をしていた男勝りなところがある人だ。
けれどその豪気さで、兄と一緒に皆を引っ張ってくれていた頼れるお姉さんだった。
「だからね失敗したなら、次に活かせばいいの。同じ失敗するような子じゃないでしょ、あなたは」
「姉さん……でも」
「……そうね。こんな状況だし、未来に期待しろっていうのは酷かもしれないわね。けれど私はまだ諦めていないわよ」
「え……」
「だって歴史上、悪が栄えた試しなんてないもの。それにね、アイツなら……スーならきっと助けに来てくれるはずよ。言ってなかったけど、アイツってば匿名希望で、私にもお金を送ってくれたりしてたのよ」
「に、兄さんが?」
「ええ、汚い字で『役立ててくれ。 偽善の使者より』って書かれてたわね。あれでバレないとでも思ってたのかしらね? アイツの書く字を家族である私が憶えてないはずがないのにさ」
そんなことを兄さんがしていたとは……。
孤児院にも仕送りをして、他にも……。
「じゃあ兄さんは卒業して行った人たちにも?」
「ん~多分そうじゃない。アイツってばバカみたいな家族思いだしね。家族全員が少しでも楽になれるならって自分の身を削る……そういうバカだからねアイツは」
ふふふと懐かしそうに、それでいて嬉しそうに笑う姉さん。
そういえば孤児院で兄さんと一番仲が良かったのはアコア姉さんだった。
兄さんも彼女のことを気にかけていたのだろう。
「そんなバカなアイツだけど、きっと今頃必死になって私たちを探してくれてるはずよ」
「……そうでしょうか?」
「絶対よ。ていうか探してなければ化けて出てやるわよ。そんで毎晩アイツの枕元に立って悪夢を見せ続けてやるわ」
「……あはは、姉さんらしいですね」
「…………ちょっと元気出たみたいね」
「あ……」
本当に彼女には敵わない。自分も怖いはずなのに、いつも誰かのことを想い支えになってくれる。
そんなアコア姉さんの生き方が私の目標だった。
「…………姉さん、私まだ死にたくない」
「そうね。私だってそうよ。それにここにいるクズ男に身体を汚されるのもゴメンね」
「はい。私だって嫌です!」
「だったら信じましょう。残念ながら私たちにはそれくらいしかできないけれど、マザーも言っていたでしょう。『信じる者は救われる』って」
「! ……はい!」
先程まで自分を支配していた暗闇が少し晴れたような気持ちだった。
期待するには、希望を抱くには、何の確証もない靄のようなものだ。
この細い細い糸のような綱渡りだが、それでもまだ切れてしまったわけではない。
最後の最後まで信じ続けることで、何かが変わるなら、姉さんの言うように信じてみたい。
少なくともそう思うだけで、心を強く保てる。
だが決意を新たにしたところで――。
「――おい、そこのお前とお前、外に出ろ。頭がお呼びだ」
盗賊の一人が牢屋越しに私と姉さんを指差す。
せっかく奮い立たせた気持ちが、また大きく揺らぐ出来事が迫ってきた。
「ね、姉さん……!」
「……大丈夫よ。……きっと、大丈夫」
姉さんの顔も強張っている。自分にも言い聞かせているのだろう。
「お前たちはついているぞ。頭直々に種付けしてもらえるんだからな」
「「!?」」
賊の言葉に私たちの顔が一気に青ざめる。
抵抗したいところだが、数人の賊たちに両手を拘束され、そのまま強制的に連行される。
牢から出る時に、ふとさっきのスライムがいた窓に視線が向かったが、すでにスライムの姿は消えていた。
階段を上り、一つの部屋の前で停止させられる。
賊の一人が扉を開くと、その奥には一つのベッドがあり、そこに腰かけた一人の男性と、傍には細身で目つきの鋭い男がいた。
二人の中で、ベッドに腰かけた男だけが、いやらしい目つきで私たちを見つめてきていた。
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