マモノの神様 ~魔物を作って育ててのんびりクラフトライフ~

十本スイ

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 どうやら僕――千野ツナギが立っているのは砂浜のようで、眼前には広大な海と青い空が広がっている。
 おかしい……。さっきまで僕は自分ちのパソコンの前にいたはず……。

 それがどうしたらこんな殺風景な何も無い砂浜に?

「あ、そっか。夢だよね」

 ペチンペチン。

 とりあえず頬を叩いてみたけど、あれれ? 痛みが伝わってきたよ?

 ならえいっと、手の甲をキツめに抓った。
 泣きそうなほど痛い。ちょっと本気でやり過ぎた。

 あーあ、赤く腫れちゃったよ。

「……ん? じゃあどゆこと?」

 こんなにも激しい痛みがダイレクトアタックしてくるということは、これが現実だということ。
 それに今思えば潮の香りもするし、身体だって思うように動かせる。
 このリアル感、ハンパないよ。

「えーと、えーと、誰か説明書持ってきてってばーっ!」

 ギュッと力一杯頭を抱えてしまう。
 もう僕の頭の中はパニック祭りが盛大に開催しているよ。

「いやいや、とりあえずこういう時は深呼吸だよ。は~ふ~は~ふ~」

 ゆっくり息を整えながら心を落ち着かせる。
 だけどいくら待っても夢は覚めないし、海風が若干寒い。
 後ろを振り返ってみると、木々が密集した森が見えるね。
 とにかくこのままじゃどうしようもないから……そうだ、人を探そう。
 森に入るのは何だか怖いから、外縁を沿って砂浜を歩いて行くことにしよう。

「お、イカだ」

 波打ち際にニ十センチメートルくらいのイカが流されていた。他にも貝や海藻なども発見する。
 何だかマジで本物の海っぽいんだけど……。

「うわぁ、いきなりのハードルだよ」

 目の前に大きな岩が立ちはだかるようにゴロゴロしている密林地帯が現れた。
 百日紅のようにツルツルしていて、とても登っていけない。
 迂回するしかないらしく、どうしても森に入る必要があるようだ。

「しょうがないなぁ。男は度胸っていうし、頑張ろう」

 意を決して森に足を踏み入れる。
 警戒しながらゆっくり歩を進めていると……。

 う~ん、何か見覚えのある場所なんだよなぁ。

 実際にこの場に来たことがあるというよりも、この場所を知っているという感覚だ。
 このデジャブ感は一体何なんだろうか。

「……ん? え、あれって……」

 不意に見上げた木に生っている実に注目する。
 ヒョウタンのような形で、色は橙色で大きさはブドウ一房くらいだろうか。それが枝から幾つも垂れ下がっていた。
 またも強烈な既視感。

 というよりも、アレと同じ実をつい最近味わった記憶がある。
 ただし――ゲームの中で、だ。

「いやいや待って待って。ちょっと落ち着こう。そんなわけがないじゃないか」

 浮かび上がった仮説があったが、そんなバカげたことが起こるわけがないと首を振る。
 目を擦って再度実を凝視するが、やはりあの木の実にそっくりだ。
 とりあえず僕は疑問を解決しようと一番低い位置にあった木の実を、ジャンプして取ってみた。

 その時だった。

『NEW 《モモタンの実》を一個入手』

 ………………はい?

 目の前にモニターに映し出されるような画面が出現し、そこにはそう表示されていた。

「えっと……マジ?」

 この表示方法も確実に見覚えのあるものだった。
 現実ではまったく見たことのないこの実。
 とりあえず混乱する思考をひとまず置いておいて、僕は恐る恐るニオイを嗅いでみた。

 …………桃のような優しい香りが鼻腔をくすぐってくる。

 思わずこめかみを押さえてしまう。
 今度は割って中身を確かめてみよ。
 膨れ上がっている両側を両手で掴み、真ん中から折るように力を込める。

 ――シュポンッ!

 とても折れたとは思えない音がして真っ二つに分かれた。
 中身を確認する。

「………………あ~」

 これはもう疑いようがないね。

 折れた方を下へ向けると、そこからチョロチョロと薄桃色の液体が零れ出てくる。

「マジでコレって……《モモタンの実》……かぁ」

 それはまさしくゲーム内に出てくる果実だった。
 しかもちょうど最近ハマっている〝マモノ牧場〟である。
 見た目からもしかしたらと思ったが、それを確かめるためにニオイを嗅いだり中身を確認してみた。
 《モモタンの実》の特徴を思い出し、それと照らし合わせたのである。

 そして見事に合致したというわけだ。
 それに今は消えているが、先程の画面。

「ちょっと待ってよ。……どういうことなの?」

 何でゲーム内に出てくる果実がここにあるの?
 現実でも栽培された? いやいや、そんなバカな。
 ならさっきの画面は一体……。


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