マモノの神様 ~魔物を作って育ててのんびりクラフトライフ~

十本スイ

文字の大きさ
8 / 32

しおりを挟む
 ベッドに少女を寝かせて十分も経たないうちに、彼女は目を覚ますことになった。
 一応監視という役目につかせていたニンが、少女の覚醒に従い大きく鳴き声を上げる。
 それを聞いて僕とヤタ、他のスライムたちも少女のもとへ向かった。

 うっすらと瞼を開けている少女が、ゆっくりと天井を撫でるように視線を泳がせている。
 その視線が僕を捉えた瞬間、僅かに瞼が大きく開く。

「やあ、身体は大丈夫かな?」

 頼むからいきなり暴れたりはしないでくれよー。

「…………ぁ」
「あーもしかして言葉が通じてないのかな? ヤタ、どうしよう?」
「《翻訳の指輪》をクラフトできればいいが、その素材は現在皆無だからな。会話ができぬのであればそれ以外でコミュニケーションを図るしかあるまい」
「そ、そっか。じゃあ……身体、怪我、ない?」

 身振り手振りで何とか伝えようとしてみた。
 だけど……。

「……変な人」
「うぐっ……!」

 真正面から小さな子に変な人呼ばわりされるのがこんなにショックなことだとは……。

 ……って、違う!

「あれ? 話が通じてる?」
「ん、分かる」
「そっかぁ、良かったぁ」

 恥ずかしい思いもしたけど、意思疎通ができるなら甘んじてそのダメージを受け入れよう。

「えと、じゃあ改めて聞くけど、身体は大丈夫? 痛いところとかないかな?」
「……問題ない。それよりもここ……どこ?」

 何て言ったらいいのだろうか。
 ここは素直に返した方が分かりやすいかもしれない。

「ここは海に囲まれた小さな島だよ。君は砂浜に倒れていて、そこを僕たちが発見し僕の家まで運んできたんだ」
「……そう」

 どうやらあまり流暢に言葉を話すようなタイプではなさそうだ。それともただ現状が理解できずに困惑しているだけなのだろうか。
 それにしてはあまりにも無表情で感情が読み取れないけど……。

「お主、一つ聞きたいことがあるのだが」

 そこへヤタが若干鋭い視線を少女へと向けつつそんなことを言った。
 僕は何を聞くんだろうって思い黙っていると……。

 ――きゅるるるるるぅぅぅぅぅぅっ!

 切なくなるような音が小屋中に響き渡った。
 音の原因を探るまでもなく、僕たちはある一点に視線を向ける。
 それは――少女の腹だ。

「……お腹……減った……」

 こんなに大きな空腹音を初めて聞いた衝撃もあったが、余程腹が減っているのか、目尻が下がり悲しげな表情を浮かべる少女を見てはいられなかった。
 だから、「少し待ってて」と言って、朝食に用意しておいた果物を葉っぱの皿に入れて持ってきてやったのである。

「これでも食べる?」

 すると明らかに少女の眼が輝き出し、鼻をひくつかせた。

「……いいの?」
「うん、お腹減ってるんでしょ? ほら」

 皿を差し出すと、少女はババッと一瞬で上半身を起こすと皿を受け取り一心不乱に食べ始めた。

「もきゅもきゅもきゅもきゅ」

 あら可愛らしい。
 その食べる姿はさながら子兎の食事を見ているかのような愛らしさを感じさせる。
 あっという間に完食した少女は、ジーッと皿を見た後に期待眼で僕を見つめてきた。

 うっ、こ、これは何という破壊力か!?

 これほど目で訴えかけるということを体現している表情はないのではないだろうか。

 もう、ないの?

 そう言っているのは明らかだ。
 そしてこの純真無垢な少女を喜ばせてあげたいと思う男子は僕だけじゃないはずだ。

 僕はすぐに小屋にある食材を持ってきてあげると、少女はまたも嬉しそうに食べ始めた。
 次々と乾いたスポンジが水を吸収するかのごとく、物凄いスピードで消失していく食材たち。
 三日分ほどあった食糧が、ものの数分足らずで消えてしまったのである。

「……ふぅ、ちょっと満足」

 あれでちょっとなの……?

 見れば腹も膨れているようには見えない。

 おかしいな。あれだけのものがどこに入ったんだろう……?
 彼女の腹はブラックホールか何かなの?

 そんな疑問を思い浮かべていると……。

「……ありがと」
「え? あ、うん。別にいいよ。困った時はお互い様だしね」
「……何かお礼」
「あー別にいいって」

 そもそも幼気な子に見返りを求めるようなことはさすがにできないし。
 食糧ならまた集めればいいだけの話だ。
 だがそこで黙っていられない奴がいた。

「では再度聞こう。お主には聞きたいことがあるのだ」

 ――ヤタである。

 少女も「いいよ」と短く頷く。

「まず、お主の名は?」
「……ムト」
「ふむ。ではムトよ、お主――――人族ではないな?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。 ※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。

処理中です...