マモノの神様 ~魔物を作って育ててのんびりクラフトライフ~

十本スイ

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 急に目の前に広がっていた景色が移り変わり、いきなり見慣れぬ森の入り口へとやってきていた。

「お、おお……マジでテレポートしたし」

 実は結構半信半疑だったこともあり、実際にこうして王道の魔法みたいな力を体験するとやっぱり感動する。
 まあクラフトも魔法みたいなもんだけど、それでもテレポートは誰しも憧れるじゃない。

「……ここ、森?」
「ピィ?」

 ムトとイチが周りを見回しながらそう言うので僕は頷く。

「そうだよ。ここが【始まりの森】の入り口」

 そこで背後に奇妙な光景が映っていることに気づく。
 青白い炎のようなものが宙に浮かび、ユラユラと揺らめいていたのだ。

 これがゲームでもお馴染みの〝リターンゲート〟である。どうやらヤタの言うようにムトたちの視界には映っていないようだ。
 この場所を覚えておかなければ当然《箱庭》へと戻ることができないだろう。

 あ、そういや簡易式のマップ機能があったはずだよな。

 ステータス画面を開き、マップという欄をクリックすると、大きな四角い地図が映し出される。
 しかしそのほとんどは何も描かれておらず、ただ端の方にちょこんと松明でもかざしているかのように明るく道が照らされていた。
 その中央には白い三角マークが三つと、青い丸が刻まれている。

 この三角マークは僕たちで、青が〝リターンゲート〟だ。
 今はほとんど何も映し出されていない地図だが、進んでいけば自動的にマップの詳細が明らかになっていく。

 まあ一応地図は大体頭の中に入ってるけどね。

 ゲーム時、【始まりの森】は何度も素材集めに活用したため細部まで記憶に残っている。
 ただ肉眼でのこの森の光景はさすがに完全には覚えていないので、迷わないためにもマップがあるのは助かる。

「ん……と、確か隠し通路は東側の通路だったな。あとで行ってみるか」
「ねえツナギ」
「おっと、何?」
「前にも教えてくれたけど、そこに何か映し出されてるんでしょ?」
「まーね。ムトに見えないのは残念だけど」

 ヤタにも僕のステータス画面は確認できない。
 これは僕だけが見ることのできる固有能力みたいなものである。

「それよりもムトはいつも通り武器はいらないの?」
「ん、素手の方が動きやすい」

 日頃からムトにも一応護身用として武器を与えようとするのだけど、いつもいらないと言って断られる。
 確かに素手で大岩を破壊できるくらいだから大丈夫だとは思うけどね。

「イチ、お前も無暗に前に出たりしないようにな」
「ピィ? ピィピィ!」

 まるで任せろと言わんばかりだが、本当に分かってくれているのだろうか。
 若干不安要素を抱えながらも、僕はイチを頭の上に乗せムトと肩を並んで前へと歩き出した。
 この【始まりの森】は、起伏した大地の上に存在し、昼間でも少し暗いくらいに木々が密集している。

 樹海、とまではいかないまでも密林とは呼べるほどの規模だろう。
 木々は高木で溢れていて、樹高は十メートルを優に超すものも多い。
 足場は石や枝葉などが散々しており、躓かないように歩くのに注意が必要だ。

 地球にいた頃のゲーム三昧の僕なら、きっとこんな道を十分も歩けばヘトヘトだったはずだが、今は体力ゲージがほとんど減らないので大分楽に進めている。
 レベルも上がったことによる恩恵が大きい。
 こういうところはゲームシステムに感謝だ。
 また当然のようにムトは息一つ乱さずに軽やかに歩を進めている。彼女なら富士山のような高山でも鼻歌交じりで登頂しそうだ。

「あ、待ってムト」
「どうしたの?」
「キノコを見つけたんだ」

 木の根っこの傍に生えている、オレンジ色の傘を持つキノコ。
 これが現実世界なら、パッチテストでも行わないと食べられるかどうかなんて分からないが……。

『NEW 《塩茸》を一個入手』

 こんな感じに鑑定結果がいとも簡単に手に入る。
 手に入れた物をインベントリに入れてクリックすれば、そのものの概要を知ることができるのだ。
 これで毒物なのかどうかハッキリと分かる。

「よし、やっぱ《塩茸》だったか! これがあれば塩分に困らないぞ」

 ゲームの知識上、記憶の中にあるキノコにそっくりだったため、触る前から気づいてはいたが、思った通りの食材で喜々とした。

「それ、食べれるの?」
「う~ん、食べれるけど、これはどっちかっていうと調味料に近いかな」

 この《塩茸》は、文字通り塩で構成されたキノコ。岩塩みたいなものだと思ってもらえばいいと思う。
 そう説明すると、ムトが少し味見したいと言ってきたので、一つ手渡してやる。

「ん……しょっぱい」

 ムトがペロリと傘の部分を舐めて眉をひそめた。

「あはは、このキノコをちょっと集めてくれる? あまり遠くに行かないようにね」
「ん、任せて」
「ピィ!」

 イチも手伝ってくれるようで、三人で近くにある《塩茸》を集めることになった。
 そうして探索していると、次々と違う食材にも出会っていく。



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