マモノの神様 ~魔物を作って育ててのんびりクラフトライフ~

十本スイ

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「…………ていうか、何で僕だったんだろ」

 不意にそんな疑問が浮かぶ。
 確かに〝マモノ牧場〟ではトップクラスのプレイヤーだったけど、似たようなゲームだってたくさんあるし、僕よりも凄まじいほど極めているプレイヤーだっているだろう。
 そんな中で、何故僕がこんな〝マモノ牧場〟に酷似した世界にいるのか。

 …………他のプレイヤーもいるのかな?

 何もかも不明瞭で、本当に元の世界に戻る方法があるのかどうかも、考えていたら怖くなってくる。
 そんな方法が本当にあるのか――?
 戻れたとして、もし時間軸とかがズレていて、こっちでは一年なのに向こうでは百年だったらどうしようか? そうだとしたら完全な浦島太郎状態じゃないか。

 完全に居場所がなくなってるはずだ。親も友人も何もかも存在しない。
 そんなものは、もう異世界と同義だ。

「ふぅ……ダメだダメだ。僕の悪い癖だな」

 小さなことではないが、考え過ぎてそれがネガティブな方へと向かってしまうことが多々ある。直そうとしているのだが、これがなかなか難しい。

 ――その時、ふわっと温かいものが僕の頭を包んだ。

「…………へ?」

 見ればいつの間にか僕は誰かに頭を抱きしめられていたのだ。
 そしてそんなことができる人物は一人しかいない。

「……ムト?」

 彼女の接近に気づかないほど動揺しまくっていたようだ。

「……大丈夫」
「え?」
「何だか……ツナギが困ってるように見えた」
「!? ……ど、どうして」

 何故彼女が僕の考えを察知できたのか不思議で仕方なかった。

「ツナギは言ってくれた。ムトの味方って」
「! ……そうだね」
「ムトはツナギが困ってると……悲しい。家族……だから」
「ムト……」

 やれやれ。家族を心配させるのはダメだよね。

「ムトは頭悪いから良い方法とか思いつかない。でも――こうすればあったかい。ムトの生きてる音が分かる?」
「あ……うん」

 彼女の心臓の音がトクントクンと静かに伝わってくる。
 不思議とその音と温もりに委ねていると落ち着いてきた。

「ツナギもあったかい。ツナギは一人じゃない。ムトがいる。それにイチたちも。だから困ったら一緒に考えたい」
「………………そっか」

 言葉下手な彼女ではあるけど、何を伝えたいのかは理解できた。

 ああ……本当にあったかいや。

「…………ムト、ありがとね」
「ん、家族はいつも一緒」

 その言葉で僕は一時だけかもしれないが、悪い考えなんてどうでもいいやって思えた。
 今はただ、この温もりに浸っていたい、と。






 ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ、恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃっ!?

 朝起きて、目を覚ました僕は傍で寝ているムトを見て、昨晩のことを思い出し顔から火が出るかのように恥ずかしさでいっぱいだった。
 幼女に抱き締められて慰められるなんて黒歴史だよぉ!

「…………でも」

 彼女のお蔭で自分の心がちょっとだけ救われたこともまた事実だ。
 ハッキリいって問題は解決していない。
 今後どうなっていくのか分からないし、元の世界に戻る方法だって分からない。
 まだまだ怖いことも多い。

 だけど……。

 天使のような寝顔をしているムトを見ると、思わずフッと微笑みが零れ出る。
 一人じゃない、か。
 何が起きても大丈夫だよと言われているような気がして、正直心強いと思った。

「……そうだよね。ジッとしてても始まらない。こうなったらいろいろヤタに問い質すしかないかな」

 この世界で唯一といっていいほど、自分という存在の意味を少なからず知っているはずの存在なのだから。
 朝食を作る前に、僕はヤタがいつもこの時間にいるであろう【扉の祠】へと向かった。

「む? いつものごとく早起きだな。もうダンジョン探索へ向かうのか?」
「いや違うよヤタ。ちょっと君に聞きたいことがあってね」
「ほう……」

 遠回しな言い方をしても時間のムダなので直接的に聞くことにした。

「ヤタ…………僕は一体何者なんだ?」
「…………何者、とは?」
「僕がどうしてこの【箱庭】の管理人に選ばれたのか、僕という存在の意味を知りたい」
「何故突然そのようなことを聞くのだ? 別に存在意義など【箱庭】の管理人というだけでよいではないか」
「それじゃ説明がつかない現象が起きてるもんでね」
「現象、だと?」

 だって僕にとっては、ココは間違いなく異世界でありゲームの世界そのものなんだから。

「僕は…………この世界の住人なのか?」
「! …………」

 その言葉に一瞬ヤタが目を細めたが、空々しくフッと笑う。

「まだ寝ぼけているようだな。もう少し寝たら――」
「ヤタ」

 僕が真剣な眼差しを向けていることを実感したのか、ヤタはしばらく目を合わせていたが、不意に軽い溜め息とともに目を閉じた。


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